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金さえいただけりゃ

「もうあのジャージを着るのは嫌だよ。」

「何言ってるんだ、いつも同じ服を着ているのが良いんじゃねえか。それだけで生活がギリギリだと思わせられるだろう。違うので行ってみろ、コイツ生活に何かあったんじゃないかと思われるだろ。人間、ちょっとしたことで印象が変わるからな。変な気を起こさせちゃ駄目なんだよ。それから絶対に俺が居ることを言うなよ。何度も言うが此処で暮らしているのは、お前とババアだけだ。」

「どうして兄ちゃんは、俺達と一緒に居ちゃ駄目なんだ?」

「当然だろ、俺は、お前と違って馬鹿じゃないからな、まともな奴が居れば、そいつが稼いで頑張れないかと言われるだろ。」

「兄ちゃん、俺は馬鹿だからお金をもらえるのか?」

「ああ、そうだ、俺が教えたから良く分かったようじゃねえか。ほら、もうくだらない話をくっちゃべっている暇があったら行くぞ、早く、着替えて来い。」

 正男は、しぶしぶ段ボールに突っ込んであるそのジャージに着替えるため、脱衣室に行きました。

「全く、俺が連れってってあげるだけで金が貰えることが分ってないのかよ。」

 すると、母親がこの男に向かって叱り付ける様に言いました。

「正男に変な事を教えるんじゃないよ。お前と違って素直で良い子なんだから、お金をもらったら寄り道しないで、真っ直ぐ此処に連れて来るんだよ。」

「うるさいな、分ってるよ、金さえいただけりゃもう用はないよ。それより、最近また物の値段が上がってよ、今までの分に1枚上乗せしても良いだろ。すずめのふん程のアンタの年金も俺がおろすようになったんだからさ。」

「お前は、本当に卑しい子だね。こうやって生活に苦しんでいる母親からまだむしり取ろうとするのかい。働くことが出来ないけど、正男は一生懸命私を喜ばせようとしているんだよ。好きなだけ持っていくがいいさ。」

 すると、正男がいつものジャージに着替えて戻って来ました。

“兄ちゃん、やっぱり俺・・・”

「よし行くぞ、ごちゃごちゃ煩いクソババアと口喧嘩したところで、疲れるだけだからな。それにハイヤーは待たせるだけで金がかかる、さっさと行って稼いでこようぜ。なっ正男、お前、ババアを喜ばせたいんだろ?、行くよな?」

「それは・・・そうだけど。」

「だったら、お前も金を稼げることを見せてやれよ。そうしたらババアはお前を頼もしく見るようになるんだよ。」

 こうほだされた正男は、母親に振り返って言いました。

「母ちゃん、お金を貰って来るから待っててくれよね。」

 母親は、涙目になっています。

「あっ、ああ、正男、本当にいい子だね、頼んだよ。」


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