卑しい奴
# ドンドンドン
中年の男は、いきなり強く、所々穴の開いた傷だらけの玄関戸を叩いてきました。
“おい!居るか?、お袋、正男は居るか?”
# ドンドンドン
「お母ちゃん、兄ちゃんが来たよ。」
# ドンドンドン
“おい、居るんだろ、開けろよ!、お袋!”
# ドンドンドン
「全く、煩いわね。正男、玄関を開けて来てくれるかい。」
「うん、行ってくるよ。」
正男は、立ち上がると居間を出て行きました。そうして、ドアの向こうから2人の声が聞こえて来ます。
“居るんだったら、さっさと開けろよな。”
“ごめん、兄ちゃん。”
“相変わらず汚ねえ玄関だな、埃だらけで。そこの脇にあるカビに塗れた革靴、死んだ親父のじゃねえか、いい加減棄てろよな。”
そう言って、履いていた靴を無造作に脱ぎ捨てると、廊下をドカドカと歩いて来ます。
「正男、今日は何の日だか分かっているよな。」
「ええっと・・・春男兄ちゃんが家に来る日?」
「お前アホか、そんなの見れば分かるじゃねえか。」
「ああ、そうか、それじゃあ何だろう。」
「これだから馬鹿の弟を持つと困るんだよな。」
「ごめん、兄ちゃん。」
そうして、居間のドアを必要以上に突いて入って来ました。
# ドン
向かいの壁にドアが当たり、その音が部屋に響き渡ります。
「おい、ババア、死んでないな。」
「クソ息子、そんなに強く開けたらドアが壊れるだろ。お前も気持ち悪い顔して、汚い格好だねえ。」
「相変わらず、口が悪いな・・・しかし俺のお陰で暮らしが出来てるのを忘れるなよ。」
「そりゃあこっちの台詞だよ。仕事もせずに、私と正男の金で食って行っている寄生虫の癖に。」
「なにお!クソババア、まともに動けねえ癖に、口だけは良く動くようだな・・・まあいい、正男、出掛けるぞ。今日は、その金を受け取る日だ。」
「そうなんだ、・・・俺、あんまり行きたくないよ。」
「どうしてだ?、ただ行って来るだけで、大金が貰えるんだぜ。お前に汗水垂らして、真っ当に働いて稼ぐなんて出来ねえだろ。兄ちゃんが親切にも、受給会場まで連れてってあげるんだ。早く、いつものジャージに着替えろよ。」




