大騒ぎ
おじいさんが戻ってくると、待ちかねていました。
「モグちゃんは、どこ?、おじいちゃん、どこ、ねえ。」
おじいさんは少し返答に詰まりましたが、穏やかに笑顔を見せ、女の子の頭を撫でながら言いました。
「モグちゃんはね、身体の調子が良くないんだって、それで、動物の病院に行っているんだって。」
「ええ!、病気なの?、死んじゃわないよね。」
「そりゃあ大丈夫さ・・・だからね、少しだけ会うのを我慢するんだよ。そうすれば、また元気な姿に戻れるからね。」
女の子は、少し寂しそうな表情に変わりました。そして、またゲージのあった所を見詰めています。
「う、うん、それだったら我慢するよ。お姉ちゃん、モグちゃんが良くなったら連れて来てくれる?」
不安でいっぱいの声は、おじいさんや心配して来た救護職員の心に強く同情の痛みを呼び起こします。
「あ、愛美ちゃん、偉いね。元気になったら必ず、必ず此処に連れて来るからね、それまで待ってていてくれる?」
「う、うん、待ってるよ。」
女の子にその場しのぎの言い訳をしたのです。
ところが、事態はもうそれだけで納まるような状況になかったのでした。
#“あれ、可愛いチビちゃんはどうしたんだい?”“モグちゃんが居ないね。”“元気なところを見ているとわし等も頑張らないとと思うんだよ。”
意外や意外、と思っているのは、此処の職員達だけだったのです。いつの間にか、子兎は避難所のアイドルになっていたのです。
#“キュン、キュンって可愛く鳴くでしょう。”“そうそう、あれが心を慰めてくれるのよね。”
自慢の鳴き声が、来所する人間達の心さびしさを癒し、ハートを鷲掴み(わしづかみ)だったのです。また、防災担当の職員達にも、その事が厄介事になっています。
「本当に誰が持って行っちゃったのかしらね?」
「来所するお客さんが、殆ど聞いてくるんだよ。いつまでも病気だって言ってられなくなるな。冗談だろうけど、係長から管理責任を言って来る客が出るかもしれないから、早めに探し出しとけよって言われたよ。」
「ええっ、本当に?私達、別にモグちゃんの世話の仕事をしているわけじゃないのよ。一生懸命被災地の支援業務に従事していることを考えて欲しいものだわ。本来は、税務職員なのに、いったい何時になったら通常業務に戻れるのかしら。」
「全くその通りなんだけど、今は仕方ないよ。しかし、持って行っちゃった奴って、どんな奴なんだろう。」
「そうよね、ちゃんと水や餌をやってくれる人なのかなあ、いやそうでありますように。」
人間とは、勝手なものです。全て自分の都合が良いように物事を捉え考える生き物です。たとえ子兎の消息を按じているとしても、捜し出そうとするのは何時のことやら。




