何処に行っちゃたの?
それからひと月程が経つと、子兎も避難所の環境に慣れ、すっかり元の元気な身体に戻りました。大きくなったのでしょうか、器に入った水が、身体を乗り出さなくても楽に飲めるようになります。そして、得意の鳴き声も力強く猛々しく響き渡ります。
# ピキ、キキ、ピキ、ピキ・・・
「鳴き兎なんですよね、初めて鳴いているのを見ました。」
「ええ、被災された方で、昔、動物園に勤められていらっしゃって、教えていただいたんですよ。」
「此処に連れてきた時は凄く弱っていたのに、元気になって良かった。」
「それもその方のお陰なんですよ。」
# ピキ、キキ、ピキ、ピキ ・・・
“もう、立派な青年ね。モグちゃん、そろそろお嫁さんが欲しくなる歳よね。君は、何処から連れて来られたのかな。”
# ピキ、キキ、ピキ、ピキ・・・
「調べてみたんですけど、鳴き兎は北部の山の中腹に住んでいて、温暖な気候は苦手なようです。絶滅危惧種にも指定されているのもいるそうですよ。」
「ということは、希少価値があるということ?」
「ひょっとしてこの子は、密猟にあったのかもしれませんね。夏が来れば、此処は暮らすには辛くなるわね。勝手に連れて来られて、可哀相に。」
災害によって電力会社の設備も大きく破壊されました。此処も含め地域全体の電力供給がままならない状態で夏を迎えてしまうと予測がたてられています。
復興の兆しはいつの日か。しかし日が経つにつれ、ようやく被災した人々に落ち着きの様子が表れかけた時でした。
“おじいちゃん、おじいちゃん、大変だよ、居ないよ、モグちゃんが、居ないんだよ、何処に行っちゃたの?”
いつもの掲示板の傍らには、その飼育ゲージはありません。
“モグちゃん!、モグちゃん、どこ、どこ!”
「愛美ちゃん、おじいちゃんが探してあげるから、そこにじっとしているんだよ。」
慌てる孫娘に気をかけながら、救護職員に事情を確かめます。
「そうなんですか。」
職員も困った表情で説明しています。
「今朝、此処に出して、本部の方へ記録簿を取りに行って戻ってきたら失くなっていたんですよ。」
“モグちゃん!、モグちゃん! ”
「いったい誰が持って行ったんですかね?」
「そうですよね。いくら希少動物でも、被災地の此処では商売にならないでしょうし、自分のことで精一杯ですからね。何故持って行ったのか見当もつきません。」




