生きてるんです
「ん・・・なんだネズミか、緊張させないでくれよな。しかし、逃げもしないで何でここで横たわってるんだろうな。」
「下のゲージの中に1匹ハムスターが居ますが・・・死んでますね。でも、この子は、生きてますよ、ほら。」
調査員が指先で子兎の頭を静かに撫でると、僅かですが身体がヒクヒクと反応します。
「ああ、確かに未だ息が有るようだな。しかし、もう弱って餌を食べる力も残っていないんじゃないか?そんなことより、次の調査エリアに移るぞ。思ったより確認作業に手間取っている。罹災証明の窓口にもうかなりの申請が出ているそうだな。息の途絶えようとしているソイツには気の毒だが、かまっていると俺達の作業を遅らせるだけになるぞ。」
隊長が忠告しているにも関わらず、その調査員はしゃがんだままです。
「ほら、やることが山積しているんだ。時には、甘い気持ちを棄てざるを得ないこともある、行くぞ。」
すると、か細い声で隊長に返事をしました。
「・・・ま、未だ、生きてるんです・・・私の家は、立ち入り禁止地域になりました。潰れているかもしれません。残してきた可愛い動物達がどうなっているのか。でも、この任務が落ち着くまでは、帰れません。助けに行きたいけど諦めるしかないんです・・・私にとっては、家族なんです。」
人差し指で、子兎の頭を優しく触れると、再び身体が波打つ様に反応するのです。
すると隊長は、ヘルメットのあごひもを締め直し、出口へ身体を反転しました。
「そいつはお前の好きにしろ、ただし業務遂行に支障が出るようなら他の者に交替だからな。」
やがて日没が迫ってきました。
数時間の確認作業を終え、2人は災害対策基地へと引き返します。
「おい、未だ生きているのか?」
「当たり前です。ほら、こうやって身体に手を当て続けていると温もりが伝わって来るんですよ。」#「基地に着けば、美味しいものが沢山あるからね、頑張るんだよ。」
「全く君は、思い込んだら絶対に意志を貫き通すからな。それは、仕事の上でも必要なことだろうが、パートナーとしては、困ってしまうんだがな。」
「どうせ私は、協調性が無い頑固者ですけど。」
「アハハ、良く解っているじゃないか、そこが困っちゃうんだよ。でもさ、確かに君がこだわった様に、人道として生きていれば助けるのが当たり前だよな。もし、生死の運命に関わらざるを得なかった時、本当の自分が見えてくる。個人としての俺なら、君が取った行動は正しいと思うよ。」
「・・・ありがとうございます。私は、職務者としては失格でした。」
夕暮れの中、荒廃した町並みを災害調査隊の車は帰路についています。どこを見回しても、構築物は傾き、原形を留めている物はほとんどありません。そして、身をひそめているのか、犬や猫等も全く姿を見せる気配が無いのです。古典文学の一節ではありませんが、人の築き上げた繁栄なんて、所詮ははかないものだと良く分かります。その土地にある権利や利益は、人間同士が勝手に決めて認め合っているものです。しかしそれも、数百年もすればもう誰の物かも分からない。それなのにあたかもこの星が、自分達の手によって成り立っているかの様に扱っています。人間達も他の全ての生物たちと同じ様に、この星の偶然の産物なのです。




