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避難してください

 呆然と動きを止めました、目を丸くしたまま。

 まあ元々丸い目なのですが、それよりハムスターから聞いていた様な、優雅な人間の生活からは想像できない光景が広がっています。

『これが、人間の外の世界なんだ。目茶苦茶だな。』

 そう思うのも無理はありません。モクモクとどす黒い煙があちこちから立ち上っています。巨大な支柱の上に乗っかっている高速道路の長い橋梁きょうりょうが、しわの様に波打っていて、ある部分では下の道に崩れ落ちそうになっています。また路上には、沢山の物が山のように重なって散らばっていて、その一部から炎が出ているようです。とても生き物が暮らしていく処とは思えない凄惨な状況なのです。

『こんなところに住んでいる人間に飼われるなんて、嫌だよ。やっぱりお母さんの言っていた通り、人間は、野蛮な奴等なんだ。』

 子兎は、割れて空いたフロントガラスの隙間を潜ると車のボンネットに出ます。ツルツルとした鉄板に足を滑らせ、踏ん張れずにそのまま身体ごと地面に落っこちてしまいます。

# キュウ!

 大丈夫でしょうか。幸い、小動物に備わる身軽な体質に助けられ、子兎はたいした傷も負わず立ち上がれます。そして、すぐに南西の方角に向かって走り出します。偶然にも運ばれて来た道を辿っているのです。

『逃げないと、とにかく逃げていかないといけないんだ。』

 帰巣本能というものなのでしょうか。逃れたいという感情が、理由無く回帰への行動を導き出しているのです。子兎は、瓦礫がれきが散らばっている路面をちゅうちょ無く走っていくのです。そしてそれは、様々な痛々しい現況を目にすることになります。

“住民の皆様に、お知らせいたします。住民の皆様に、お知らせいたします。この地域の緊急避難所はA小学校ですが、相当の被害を受けており、現在非難する方々の準備が整っておりません。この地域の住民の方々は、U区民公会堂に向かって戴きますようお願いいたします。此処の緊急避難所は、U区民公会堂へ変更になりました。この地震によりご自宅をはじめ被災した建物内は、非常に危険です、直ちにU区民公会堂へ避難してください。”

 ヘルメットを被った防災服姿の誘導員が、メガホンでアナウンスしながら瓦礫の前を横切って行きます。そんな中、子兎はひたすら路上を走り続けているのです。

『うわっ、水だ!、凄い勢いで噴き出ているぞ。』

 どうやら、水道の埋設管が破裂してしまったようです。公園の池の噴水の様に水飛沫が上がっています。するとその脇から、数人の人間達が現れました。

“ほら、けいちゃん、歩いて、こっちが避難所よ。A小学校までもうちょっとだから。お父さん、早く来て。”“母さんの写真、家に置いて来てしまったよ。”“後から取りに行くから大丈夫よ。ほら、圭一郎、歩くのよ。”“ママ、疲れたよ~。”

 それからも次々に人間達と出くわすのですが、皆、慌てて酷く困惑しているのです。


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