ひっくり返った
こんな感覚には今までになったことがありません。そしてこの不安は、あの黒服の男が来た3日前から始まっていたのです。
『怖いよ、怖いよ。』
その時でした。急に自分の身体が強く右側に傾く力がかかったのです。
“おお、なんだ、ハンドルがとられる!、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!”
運転手は、そう言いながらブレーキをかけた瞬間です。子兎は身体がふわりと浮きました。
# ファンファンファン ピーポーピーポー
それからどの位の時間が経ったのでしょうか。
何か焦げ臭い匂いが立ち込めています。甲高いサイレンの音。時折、人間達が声を出しながら走り抜けているようです。そして、今まで感じたことのない熱い空気に車内が包まれています。
『一体何が起こったんだ。』
今、子兎に分かっているのは、カゴが横倒しになり、床じきのチップが体の上に覆いかぶさっていること。車は止まっています、というより何かにぶつかって動いていないのです。
# ファン・・ファン・・・
サイレンの音は遠のいて行きます。既に運転手の姿が消えていました。前後のウインドウは割れて、沢山のヒビが入っています。そして、少しずつ何処からか煙が入って来ているようです。
『嫌だよ、苦しいよ。』
ここでまた、山で捕まった時のように、煙と酷い臭いに襲われることになったのです。
『苦しいよ、早く逃げ出さないと。』
“ピキ、キー、ピキ ”
子兎は懸命にカゴの中で動き回り、ゴトゴトと格子の網に身体をぶつけます。体毛が抜けてしまうくらい激しくです。すると、カゴがゆっくりと傾き始めます。
それでもゴトゴトと動き回ると。
# ゴロン、・・・ドン!
どうやら座席の前にカゴごと落ち込んで、ひっくり返ったようです。
『あっ、少し間が開いてる。』
カゴは天地が逆さになり、底板が外れています。チップに塗れていた子兎は、その隙間に鼻からギュウギュウと顔を押し付けます。そしてやっとのことで、カゴ枠を通り抜けることが出来ました。それから運転席へと跳び移り辺りを見回すと、割れたフロントガラスに小さな穴があるのが見えます。
『あ、あそこから出られるぞ。』
チョロチョロとハンドルをつたってインターパネルの上に乗ると、周りの景色が見えて、どうゆう状況になったのか始めて分かります。
『・・・・・』




