サヨウナラ
「まあ、良いじゃない。何故今まで黙っていたの。それよ、それ。」
「そうか、そんなに良い鳴き声とは思ってなかったよ。母さんが、取り柄の無い僕を励ましているだけかと思ってた。」
「それから、ここという時にだけ使うのよ。人間は飽きっぽい性格だから、慣れてくると感心が薄れてしまうの。」
「分かった、ここという時だね・・・それで、どういう時?」
「アハハハハ、それじゃあ早速練習よ。アタイが今まで見てきた人間に成り代わって、目で合図するから、目よ。」
「お願いしま~す。」
そうして3日後、太陽が昇り落ち着いた頃、豪華にデコレーションされた配送用の飼育カゴを乗せた専用ワゴン車が、ペットショップを出発します。
“それじゃあ宜しく。”“かしこまりました。”
配送を任された若い店員が、車に乗り込みます。カゴの中は暗く、外の様子は全く見えません。
今朝、ハムスターと子兎は、親しく楽しかった日々を惜しむように最後の別れを交わしました。
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「もう、会うことは無いけど、幸せに暮らすんだよ。」
「有り難う、色々と教えてくれて楽しかったよ。離れ離れになっちゃうけど、君は僕の心からの親友だよ。」
「アンタは本当に良い奴だね、きっと飼い主も気に入ってくれるよ。」
「有り難う。」
「サヨウナラ。」
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# ブンブ~ン ブブン ブウォ~ン
カゴは、後部座席に置かれています。当然、子兎には、何処の街を走っているかなど分かるはずもありません。短かったけれど、ハムスターと共に過ごしていた時を思い起こしていました。3年程の寿命では、もう2度と会うことはないでしょう。彼女から教えられたことは、母さん兎への思いを引き出させます。
『お母さん、ごめんなさい。ネズミさんの言うことを聞いててね、本当に分かったよ。お母さんが僕の世話を一生懸命してくれていることを普通のことだと思っていたんだ。』
子兎は、親が世話をするのは当たり前だという勘違いが、どれほど罪深いことか学んだのです。
# ギッシギッシギッシ・・・
舗装されている道を走っているとはいえ、時折速度の上げ下げをする度にカゴが揺すられます。そのためなのか、いや、やはり母親への回顧の念のためなのでしょうか。子兎は何故だか分らない極度の不安感に襲われるのです。
『お母さん、怖いよ、どうしてだか凄く怖いんだ。』




