黒スーツ
「ふーん、僕達のような動物にも人間の役立つことがあるんだ。」
「いつもふーん、ふーん、って言ってるけど、アンタもいつかは良い飼い主に当たるように頑張るんだよ。」
「そうかぁ。」
色々と話してもらったのですが、人間と暮らしたことのない子兎には、ハムスターの気持ちは、いまいちよく分からないのです。
そんなある日のこと、これまで何度も人間達がこの棚に現れたのですが、ちょっと今までとは違う雰囲気の者が店を訪れました。黒いスーツ姿の背の高い40歳位の紳士です。どう見ても、このような店に入って来るに似つかわしくない様相です。
“こちらに居ますので。”
いつもの緑のシャツを着ている店員が店を案内します。
「来たよ来たよ、あの人は大変なお金持ちのようだよ。飼ってくれないかな。」
「どうして分かるの。真っ黒なだけじゃない。」
「分からない?まだまだ感覚が甘いわね。ほら、匂いがするだろ。」
「匂い?」
「何か香りのするものをつけているんだわ、それも不思議で妖しい気持ちにさせる。」
「フンフン・・・あれ、ホントに、嗅いでみるとフンフン・・・変な気分になるね。」
するとなんと、店員は子兎のカゴにやって来たのです。
「訳あってここに置いてあります。見た目は雑種のネズミのようですが、非常に希少価値のあるものです。今は合法的なものですので、購入されても大丈夫です。扱いが難しいので、お客様のような方に飼っていただくのがこの子にとっても幸せなんですよね。」
「これがそうか、確かに可愛いとは言い難いが、うちのお嬢様が強く感心を示されている。ところで此処の飼育環境は、良好とは思えんが。」
「イヤーハハハ、一介のペットショップに過ぎませんので。我々の界隈でもペット収集で有名なお客様のように動物毎に環境設定をするなんてのは、零細経営には限界がありますので。」
「ああ、すまなかった。お宅の批評をするつもりで言った訳じゃないんだ。お詫びに、おたくの言い値でこれを売ってくれないだろうか。」
「有り難うございます。本体の価格はこのようになりますが、お引き渡しまでをこちらで賄いし、お届けしますので・・・。」
2人のやり取りを間近に見ながら、ハムスターは興奮気味に話し掛けてきます。
「店員があの銀色の箱を指で突いてるわよ。」
「どうゆうこと?」
「売れたんだよ。あの箱は、買い手がついた時、必ず出て来るのよ。それにしてもアンタって一体何者なの?」




