可愛い私
「煩いな!、横でピキピキ泣くのはやめてよね。アタイは、メソメソする奴は嫌いなんだよ。」
横の飼育カゴに居る一匹のハムスターが、噛み付くように子兎に言いました。
「えっ、えっ、君は、誰なんだい?、それに此処に居て嫌じゃないの?」
「嫌?、何を言ってるのか分らないね。アタイは、カゴの中で生まれて育ったんだ。此処は、人間様が愉しむためにアタイの様な可愛い生き物を売る店だよ。此処から出ていくには、人間に愛想を振り撒いて、気に入ってもらうことが大事なんだよ。」
「人間?、愛想を振り撒く?」
「ああ、此処より快適な暮らしをするためにね。人間に買い取ってもらうんだよ。それにしてもアンタは、どうして此処に連れて来られたんだろうね?」
「それはどういうこと?」
「アハハハ、だって、ちっとも可愛くないんだもん。毛並みはゴワゴワだし、色も中途半端にこげ茶色で、お世辞にも綺麗じゃないしね。さっきの鳴き声なんか、耳障りなだけだもん。」
そんな小ばかにした言葉に、子兎は不思議と腹を立てていませんでした。
「そうか、僕は可愛くないんだ。それだったらまたお山に返してくれるかな。」
「なんだ、アンタは山から連れて来られたんだ。どおりで田舎臭いと思ったわよ。ほら、私なんかこんなにあか抜けて、カラフルな毛並み、黒水晶の様な目がクリクリでしょう。人間のご主人様を十分満足させられるからね。」
「本当だ、変わった身体の色だね。でも、そんな目立つ姿だと山じゃあ直ぐに捕まって食われちゃうよ。」
「ええっ!食べる?こんなに可愛い私をかい。アンタ、そんな野蛮な処に住んでたんだ。」
「ああ、空では恐ろしい鷹が狙っていて、草むらではキツネやイタチ達がうろついてたよ。でも、ちゃんと安全な巣穴があったし、見付からない岩場で食事をとって、日向ぼっこしてたんだよ。綺麗な水と空気の中で最高に快適だよ。」
「そりゃあ、野生育ちのアンタには良い処かもしれないけどね。まあ人間の家の中には比べものにならないよ。」
「人間の家の中?」
「ああ、アタイは、此処に来る前には、人間に飼われていたんだよ。もうそこ程幸せな場所は無いんだよ。清潔だし、夏は涼しくて、冬は暖かいし、何時でもご飯が食べれるし。たまに、ちょっと遊んであげれば、人間は大満足さ。」
「へえ、遊んであげるって、大変なの?」
「簡単、簡単、手の上で寝転んだり、身体に乗って走り回れば良いんだよ。」
ペットショップでの、お昼前の穏やかなひと時です。ハムスターが夢中になって、子兎に喋り続けている時でした。
“ママ、早く、早く!”
“やっちゃん、そんなに急がなくても、ネズミさん達はいなくならないわよ。”




