何事もなかったかのように
# キュウ~
すると、次第に鳴き声がおさまり、動きが鈍くなっていきます。
# ウウ・・・
そして、とうとう動かなくなってしまいます。
「よ~し、薬が効いたようだな、英治、捕獲かごに移せ、そっと扱うんだぞ、大事な商品だからな。」
夕陽が山に隠れようとしているのでしょうか。つい先程まで黄色く照らされていた辺りは、すっかり陰に入り込んでしまったようです。
「暗くなる前に引き上げるぞ。かごを余り揺らすなよ。」
命令されている男は、黙って両手でかごを抱えています。ざくざくと岩場を踏み込む靴音をたてながら、2人は巣穴の場所から離れて行きました。
やがて何処か遠くの方で車が動き出す音が流れます、此処を出発したようです。すっかりと陽が沈み、いつものように夜がやってきました。人間の住家からは隔絶した岩場は、総て自然の息づく音しかしない静かな場所です。空が間近にあるのではないかと思う位、鮮やかに瞬く星が地平線まで張り付いて見えます。
# ピキ、ピキ、キキ、ピキ
夜の闇の中で鳴き声がしています。一匹のナキウサギが巣穴の周りをうろうろと動き回っているようです。
# ピキ、ピキ、キキ、ピキ
その声は、悲しみに満ちています。
しかし北の大地は、何事もなかったかのように星空がいっぱいに広がっています。
一晩中、その鳴き声は続いていました。
# ピキ、ピキ、キキ、ピキ・・・
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それからどの位の時間が経ったのでしょうか。いえ、幾日かもしれません。
『あれ、此処は何処なんだろう。』
# ガウガウ、クークー、チュチュ、ニャーオ
とにかく騒がしいのです。
# ガウガウ、クークー、チュチュ、ニャーオ
色々な動物の鳴き声が飛び交っています。それは、淋しげであり、悲しげであり、怒っているようにも聞こえます。
『知らない奴がいっぱいいるぞ。いったい僕はどうしたんだ。そうだ、外から煙が急に入って来て、苦しくなって、無我夢中で外に飛び出したんだっけ。それからは全く覚えてないよ。お母さん、何処にいるの、此処は息苦しいよ、嫌な奴等の匂いがするよ。』
“お母さん、お母さん、助けて!、お母さん!”




