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のどかな日々

「それじゃあ急いで食べましょうかね。こんなに沢山だから、良かったら手伝って下さるかしら。」

 すると、チョロチョロ、チョロチョロとわざと辺りを見回しながら岩の上にやって来ました。

「本当か、それじゃあ頂くとするかな。いつあいつ等が出て来るか分からないからな。これは、あんた達は葉っぱを良く食べるから、わしは茎を食べるとするかな。」

 そうして、一緒になってムシャムシャと茎の部分を食べ始めます。ちょっと図々しいけれど、母兎にあしらわれているシマリスの姿が滑稽で、子兎は可笑しく眺めていました。

「おっ、小僧、ちょっと見ないうちに大きくなったな。もう自分で餌を取りに行けるようになったか。奥さん、この分じゃ今年の冬仕度は結構楽になるな。」

 そんな嫌味なことを言わないでくれよと、耳の痛い子兎は聞こえていない素振りで食べています。

「そうよね、そろそろ坊やも独りで餌場に行って、葉っぱを貯める練習をしないといけないわよね。」

「なんだ、未だやっていないのか。いつまでも親に面倒かけてると、ろくな兎にならないぞ。今年は独り立ちして、母さんを喜ばせなよ。それにしても、モグモグ、この茎は、モグモグ、格別美味い、今頃のとれたてのものが、モグモグ、一番だな。」

 うるさいシマリスだと、子兎は全く無視して食べ続けています。

「まあまあこんなに大きくなっても、この子は未だ外の事は何にも知らない子供なんですよ。私が、少しずつ教えていきますから。」

「小僧、お袋さんの温かさに感謝するんだぞ、忘れるんじゃないぞ。」

# モグモグ、ムシャムシャ

 するとこれがきっかけになったのでしょうか。子兎は、天気が良い日は、次第に母さん兎の後に付いて外に出るようになってきました。北の夏の大地は、爽やかな陽の光がもたらす心地良い暖かさでいっぱいになっています。美味しいものが沢山できます。様々な草花の息吹と動物達の活動が自然の中に溢れているのです。

「お母さん、外も気持ちが良いもんだね。」

 たらふく食べた後は、のんびりと日向ぼっこです。山の頂には、うっすらと霞がかかっているようで、そこから少しひんやりとした靄が流れて来ます。遠くに鷹が飛んでいるのが見えますが、さすがにその鋭い観察眼でも此処を見つけることはないでしょう。

 いつからこのような水と空気と大地による豊かな生業なりわいが始まったのでしょうか。それでもこれは、この星の辿っている一場面にしかすぎないのです。私達は、そこに偶然にも存在しているのです。生まれて、成長し、次第に衰えて、やがて死を迎える。始まりから終わりまで、というこの星の摂理に従っているのです。そこには暮らしているというところに意味があります。泣いたり、笑ったり、悲しんだり、楽しんだり。程度の差はあれ、それぞれをその身で感じているのです。この星に存在しているという実感があります。

 やがて抜けるような青空に魚のうろこの様な雲が見えてくると、山の頂から冷たい風が吹きおろして来ます。すっかりと生え揃った木々の葉が重なり合って、カサカサ音をたてています。

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