北の大地
“ほらほら、坊や、今日は暖かくてお日様が良く出ているよ。食べているばっかりじゃなくて、少しは日向ぼこに出て来ないかい。”
母さん兎のこしらえてくれたお部屋は、優しい温もりでいっぱいです。子兎は、愛情を一身に注がれ育てられています。
「だって、お外は寒いんだよね。それに、意地悪なリスや恐いキツネ、イタチがいるかもしれないんだよね。僕は此処に居るのが一番良いんだ。お母さん、今度は、イソツツジを持って来て。」
「あれあれ、そうかい、外はとっても気持ちが良いんだけどね。みどり岩の日向ぼこは、短い夏、この短い時期が一番なんだけどねえ。」
母さん兎は、この子をもう外の世界の空気に触れさせなければとは思っていました。この厳しい自然を生き抜く為には、いつかは独りでも生活できる力をつけることが必要です。身体が大きくなり大人に成れば、そんな甘い気持ちは通用しません、自然界で生きる物達の鉄則なのです。
「それじゃあ、イソツツジを持って来てあげるから、今日はお外で食べようか。イソツツジは普通は外で食べるんだよ。お日様の光を当ててると美味しくなるんだよ。隣木に住んでるリスだって、そうしているからねえ。」
「本当に?、あの食いしんぼのシマリスおじさんが?」
同じ食いしん坊の子兎は、まんまと話に乗って来ました。
そうして兎の親子は、みどり岩の上で母さん兎が採ってきた色々な葉っぱや茎を広げて、昼間の食事をすることになりました。この岩は、兎の住家から5メートル程離れた低木の陰にあります。平たい岩の表面に苔が生えているのですが、夏になると苔が緑になるのです。ちょうど木の葉の緑と重なって鳥や獣達から見付かりにくくなり、恰好の餌場なんです。
“モグモグ、美味しいよ、モグモグ”
「ほら、暖かいお日様の下で食べると気持ち良いだろ。」
母さん兎は、夢中になって食べている子兎の様子を見ていて幸せそうです。
北の大地に訪れる短い夏のひと時は、どんな動物達にも等しくその恵を与えてくれます。すると何処からか、チョロチョロと岩場を素早く動き回るシマ模様の姿が現れました。
“フンフン、何か美味しそうな匂いがするぞ、フンフン、するぞ”
子兎が先程言っていたシマリスです。親子の周りをクルクルうろつき、様子を伺っていましたが、やがて途中で止まって何かぶつぶつ言い始めました。
「あんた達、こんな美味そうな匂いをさせていると、イタチ達が嗅ぎ付けてやって来るぞ。早く片付けないと危ないぞ。それにしても、美味そうだな。」
せわしない動きに、食事中の兎達はやはり気になってしまいます。仕方がないので母さん兎は、シマリスに声をかけました。
「お隣のシマリスさん、近くにキツネやイタチが居たのかしら。」
「ああ、今のところ見掛けなかったけどね。あいつ等の出て来る時分じゃないがな、油断は禁物だぞ。」




