口割の実
「ふんふん、それでその罪人を捜すんだね。」
「そうじゃな、その捜索を命じられたのが、メッサムだったんじゃ。特命の恩賞は、王侯と同等の地位を与えられ、とんでもない莫大な財産だ。一族で捜索に取り組んだんだよ。当然、カブラムもギュイルリー渓谷捜索隊の長官として任務にあたった。」
「それで、見つけ出したんだ。」
「お前、話の面白みに水を差してはいかんぞ。」
「ごめんなさい。静かにしてるから話してよ・・く、下さい、。」
「そうじゃ、拝聴する時はその態度が大切だ。さてと、カブラムがブモルの森を抜けた時じゃった。川辺に倒れて弱っているベルグを見つけた。かなり弱っておった。どうも、フィーゴ炎症になっているようじゃった。人が言う流感のようなもんじゃ、今はインフルエンザと言っておるな。カブラムの家来がそのベルグに身元を尋ねると、答えようとしない。当たり前じゃがな。その顔付きは、どう見てもクイムスの者であるのだが、身なりがクイムスの民とは違っているんじゃよ。こ奴が今捜している罪人で充分ありえるとみて、駐屯地まで連れて行き、養生させることにしたんじゃ。そしてその夜、カブラムは、横たわっている捕らえたベルグに独りで会い、素性を確かめることにしたんじゃ。」
「独りで?、さっき尋問して答えなかったんじゃないの?」
「カブラムには、確かめる秘策があったんじゃよ。」
「秘策?」
「クイムス王から授けられていた口割の実を使って喋らせるんじゃ。これは、王家が代々所領しているジルベスという秘密の直轄地に生えているフンブの実なんじゃが、ベルグが食べると脳に幻覚作用が起こって総てを喋ってしまうんじゃ。これまで、王家に背く恐れのあるベルグにもしばしば使われたものじゃ。」
「それで、捕えたベルグに飲ませて喋らせたんだね。」
「ああ、それも気がつかないように、粉にして飲料に混ぜてな。案の定、捕らえたベルグは意識が虚ろになった。王の命で、素性を確かめた時に知り得た事は外に漏らしてはならなかったので、家来達を捕らえているテントから遠ざけた。」
「それで、どうだったの、やっぱり捜している罪人だったの。」
「ああそうじゃった、しかしこの後、思わぬことが起こったんじゃよ。」
「思わぬ事って?」
「翌朝、なんとそのベルグは息が絶えておった。」
「ええっ、どうして?」
「フィーゴ炎症は、どうもフンブの実を食べると悪化してしまうようじゃ。お前達の突然に起こる心臓発作と同じじゃ。その晩の内に、死んでしもうた。」
「それじゃあ、生きたまま捕らえて連れて来ることが出来なくなっちゃったね、王様は残念だったね。」
「いいや、そんな容易くはないぞ。人間の中世主従世界でも、主人と家来の関係は絶対じゃからの。失敗すれば、地位の失脚はほぼ免れないじゃろう。カブラムは、自分が父親を失脚させ、一族に迷惑をかけてしまうことを憂いたであろう。そしてこの時、重大なことを知っていたんじゃ。」




