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第9話「春の嵐」

夜中に風の音で目が覚めた


ごうごうという音が小屋全体を包んでいた 


壁が軋んだ。窓が震えた。余は体を起こした



丸山はまだ寝ていた


 その時だった。



 バコン、という音が頭上で響いた

「……なんだ」



 もう一度、バコン!!



 余は天井を見上げた。


トタンが浮いていた


風が入り込むたびに、屋根の端がめくれ上がっていた



 丸山が飛び起きた

「やばい、屋根が飛ぶ」


 二人で外に出た


 風が強かった 春の嵐だった


木々が大きく揺れていた


雨はまだ降っていなかったが、空が黒かった


 小屋の屋根のトタンが二枚、端からめくれ上がっていた。このままでは全部飛んでしまう



「抑えます、魔王くんはあっち側を押さえてください」

「わかった」


 丸山が屋根に手をかけた



余も反対側に回った。風が吹くたびにトタンが暴れた


余は全体重をかけて押さえた


 その時、雨が降り始めた


 一気にきた



 ザァ、という音とともに叩きつけるような雨が降ってきた。二人はたちまち濡れた



「ロープ、裏に巻いてあります、取ってきてもらえますか」


「離したら飛ぶぞ」


「わかってます、早く」


 余は屋根から手を離した


トタンがばこんと跳ね上がった

余は走った


裏に回ると古いロープが柱に巻いてあった。引っ張り出して戻った



 丸山が一人で両手で屋根を押さえていた 雨に打たれながら歯を食いしばっていた


「遅い」

「うるさい」


 二人でロープをトタンに巻いた

 何度も風に邪魔された


余の手が滑った 丸山の結び目がほどけた


やり直した。またやり直した


どのくらい時間がかかったかわからなかった


 気づいた時には風が少し弱まっていた


屋根はなんとか固定されていた


雨はまだ降っていた


 二人でその場に座り込んだ


 ずぶ濡れだった髪も服も全部濡れていた余のマントが重かった丸山が膝を抱えて雨の中に座っていた


 しばらく沈黙があった

 

 小屋の中に戻った

 タオルで頭を拭いた


丸山が着替えた


余は濡れたマントを椅子にかけた


丸山がお湯を沸かしたインスタントのお茶を二杯作った。余に一杯差し出した


余は受け取って、一口飲んだ

温かかった


 雨の音が続いていた。


 バケツを三つ出した

雨漏りがする場所に置いた

ぽたん、ぽたんという音が部屋に響いた


丸山がまた布団に潜り込んだ


余は濡れたマントが乾くのを待ちながら、窓の外を見た


雨が屋根を叩いていた


さっき二人で押さえた屋根を思い出した



 魔王城では嵐など恐れたことがなかった


分厚い石の壁が全てを遮断していた 雨の音も、風の音も、聞こえなかった


だがこの小屋は全部聞こえる


雨も、風も、バケツに落ちる水の音も、丸山の寝息も

 全部聞こえる


「魔王くん」


 丸山の声がした。布団の中からくぐもった声だった


「なんだ」

「今日はありがとうございました」


 余は返事をしなかった。

 ただ、お茶を一口飲んだ

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