第6話「魔王、山でタケノコを掘る」
朝、冷蔵庫を開けると、バターとマヨネーズだけがあった。
丸山が扉を閉めた。余が開けた。また閉めた。
丸山が
「食べ物はもうありません」と言った
余は腕を組んだ。丸山は窓の外を見た。春の山が見えた。緑が濃くなっていた
「魔王くん、山に行きませんか?」
「山に何がある」
「タケノコです。春はタケノコが出る季節なので」
余は山を見た
「食い物が地面から生えているのか?」
「まあ、そうです」
「ほう」
二人で山道を登った
余は歩きながら辺りを見回した。春の山は騒がしかった。鳥が鳴き、風が木々を揺らし、どこかで水の流れる音がした。魔王城の周りは常に霧がかかっていて、こんなふうに明るい山を歩いたことがなかった。
「どうやって見つけるんだ?」
「地面がちょっと盛り上がってる所を探すんです。あと竹林の近く」
余はじっと地面を見ながら歩いた。
しばらくして、丸山が声を上げた。
「あ、あった」
地面から茶色い先端が顔を出していた。余はしゃがんで眺めた。これが食い物か。見た目は地味だった。
掘り始めた。
丸山がスコップで周りの土を崩していく。余も傍らのクワを手に取った。しかしタケノコというのは思ったより手強かった。根がしっかりと地面に食い込んでいる。掘っても掘っても抜けない。
「ぬ……ぬけんぞ」
「斜め下に向かって掘るんです」
「言われなくてもわかっている」
わかっていなかった。
一時間ほど掘り続けた。小さなタケノコが三本取れた。丸山が額の汗を拭いた。
余も息が上がっていた。情けない話だが、今の余の体は人間とさほど変わらない。
丸山がその場に座り込んだ。
「……ちょっと休憩していいですか」
顔が青白かった。朝から何も食べていない。余も同じだったが、丸山の方が限界に近かった。
「貴様、顔色が悪い」
「大丈夫です。少し休めば」
大丈夫には見えなかった。
その時だった
余の体の奥で、何かが動いた
小さな、しかし確かな熱だった。魔力とは違う。もっと原始的な何か。余はゆっくりと立ち上がった
「余がやる」
「え、でも」
「座っていろ」
クワを握った。スコップを握った。余は地面を見た。竹林の奥、地面がわずかに盛り上がっている場所がいくつか見えた。なぜか、わかった。あそこにある。
「ぬおおおおお!!!ぉーおお!、うおりゃ!!」
一本目。抜けた!
二本目。抜けた!!
三本目、四本目、五本目。次々と抜けた!!!
体が軽かった。さっきまでの疲労が嘘のようだった。力が湧いてくる。どこからかはわからない。ただ、体が動いた。
「す、すごい……」
丸山が立ち上がっていた。目を丸くして余を見ていた。
気づけばタケノコが山積みになっていた。
余はクワを地面に刺して振り返った。息は上がっていない。
「これでいいか」
丸山はしばらく余を見ていた。それから小声で言った
「凄いです!本当に魔王みたいな力ですね!笑」
余は何も言わなかった。
ただ、少しだけ口の端が上がった。
山の上で食べた。
家を出る前に丸山が握った、二個のおにぎりだった。米が少しだけ残っていた。
それを全部使った。具は何も入っていない。塩だけだった。
丸山が一口食べた。
何も言わなかった。
余も食べた。
眼下に町が見えた。春の霞の中に、小さな駅と田んぼと、赤いトタン屋根の小屋が見えた。風が吹いた。タケノコの山が揺れた。
うまかった。
こんなものがうまいとは思わなかった。腹が減っていたからかもしれない。誰かと並んで食べているからかもしれない。余にはわからなかった。
「魔王くん」
「なんだ?」
「ありがとうございます」
余は返事をしなかった
ただ、もう一口食べた。




