第48話 決勝
こんなんで、負けたくない…………。
トーナメント抽選で運よく、準決勝を回避した央崎は決勝に進出していた。
リードした後に、マッチポイントに持ち込まれるなんて…………。
こんな、負け方だけはしたくない…………。
央崎の目には涙の膜が張っていた。
「珀多ーー、思い出してーー!!」
…………そうだ。俺にはこの2人がついてるんやった。
相手は分からんが、俺には2人の希望と、2人の側で応援してくれている人がいるんや。
――バコン
「イン。デュース」
「しゃあ!!」
「「「「あと少しだよーー!!」」」」
俺は2人に約束した。絶対に日本一になってやる、と。それは責務だけじゃない。俺の願いであり、この2人の願い。
――バコン
「イン。アドバンテージ、レシーバ」
あと1点…………集中。
――バコン
佳苗…………絶対に勝ってやるからな。
その瞬間、央崎の頭に蓮香の声が響いた。
――打って!!
ここで決める!!
「ゲームセット。ゲームカウント、5対4で、近洛地方代表、桜兎美県立大豆山高校、央崎珀多の勝利」
…………勝った。勝ったのか?
――カラン
ラケットが手から落ちる。
足から力が抜け、膝から崩れ落ちそうになった。
「…………っ、」
遅れて、実感と喜びが沸き上がってきた。
「…………よっしゃーーーー!!!!」
央崎は、今までにないほどに飛び跳ねた。
「わあーー!!」
観客席から、大歓声と拍手が巻き起こった。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました。強かったですね」
「そちらこそ。対戦できて良かったです」
央崎は対戦相手と握手を交わしたあと、ベンチへ戻っていた。
「…………おめでとう、珀多」
「俺より泣いてるやんか(笑)ありがとう…………支えてくれて」
「先生、誇らしい…………この学校で、君たちの顧問が出来て…………」
「ありがとうございます。先生が合宿を計画してくれてなかったらどうなってたか…………」
「良いのよ、それぐらい。仲良くしたのは紛れもなく君たちなんだから…………感動しているところ悪いけど、出ましょうか」
央崎はコートを出る直前、コートの方をチラッと見た。
観客たちは、ほとんど会場の外に出ており、試合中がウソのように、会場は静かであった。
勝った、のか…………やっぱり、実感は沸かないな。
控え室に続く通路には、カメラや記者が集まっていた。本来は、央崎だけが映る予定だったが、央崎の意向で、蓮香、六夜先生も映ることになった。
「優勝、おめでとうございます。勝利の要因を教えてください」
「…………今までずっと、支えてきてくれた人達のお陰です」
「ありがとうございます。次に、今後はプロを目指すなどの夢はあるのでしょうか?」
「プロ…………今のところ、考えていません。自分は、隣で支えてくれている、一緒にテニスをしてくれている、幼馴染たちと楽しくプレイ出来たら、それだけでいいんです」
「素敵ですね!!今日は優勝おめでとうございます!!」
インタビューを終えた央崎たちは、外で央崎たちが出てくるのを待っていた観客たちに一礼したあと、まっすぐに関係者たちが集まるところへ向かった。
「「「「「「「優勝おめでとう!!」」」」」」」
「みんな…………ありがとう!!」
「本当に自慢の息子よ…………」「「大きくなったな」」
「ありがとう…………これからも続ける」
「「思う存分、続けていいよ」」
…………親孝行もしやんとな。
「歴史的快挙や!!」
「校長先生が一番喜んでるんじゃないですか(笑)」
「そうか(笑)」
なんやかんや言って、見守ってくれてたもんな…………。
「「珀多、おめでとう!!」」
「琴乃、行、最後まで現地で応援してくれて本当にありがとう!!」
「ちょっと、旅行気分だったけどね(笑)」
「旅行気分て(笑)」
「明後日、学校中の人気者ちゃうか(笑)」
「また、あの囲み取材を受けんのか(笑)」
この人らは、いつ時間捻出してんの…………?部活もあるだろうに…………嬉しいけどさ。
琴乃たちは、蓮香の方へ行った。
「珀多くん…………」
「佳苗…………ありがとう。ぬいぐるみまで」
「取材、スマホで見てた…………」
「…………もちろん、佳苗のこともや」
「これからも…………観させてくれるの?」
「当たり前や。俺は何があっても、テニスを辞めない。支えてくれる人たちがいるからさ」
俺は、一生辞めない。佳苗のことを悲しませないし、蓮香のライバルでいるために。
「…………嬉しい」
「全員で撮るぞーー」
「あっ、撮りましょか?」
「あっ、じゃあお願いします」
観客の一人にカメラを渡し、関係者が会場前に並んだ。
央崎の左右には、幼馴染が写っていた。
その距離は、どこか昔とは違っていた。
それに、まだ気付かないふりをしていた。




