第42話 足りない
「ちょうど良かった。一緒に帰ろ?」
「おう、ええぞ。お姫様抱っこは勘弁やで」
「ここ、ではしないよ」
その後、2人は電車に乗り、最寄り駅から田舎道を歩いていた。
「…………練習の調子はどう?」
「そこそこかな。まだ、自分では気付けてない悪いクセとかもあるし」
「…………そうなんだ」
――ゴロゴロ
「「え?」」
空が急に暗くなり、雷と大粒の雨が降ってきた。
「やばい。走ろう」
「うん。私の家で一旦雨宿りしよ。…………きゃっ!!」
「危ない!!」
央崎が咄嗟に支えたことによって、季楽坂の転倒は免れた。
「大丈夫か?」
「イッテテ…………足挫いたかも…………」
「……ほら、乗れ」
「え?」
「とりあえず、走るぞ」
「う、うん」
安心する…………濡れてるはずなのに、温かい…………。
央崎は、季楽坂を背中に乗せ、季楽坂の家まで走った。
「止みそうにないから、家に入ってよ」
「それよりも、足は大丈夫か?」
「これぐらいなら、湿布でどうにかなると思う。早く入ろ?風邪引いちゃう」
「…………お邪魔します。って、誰も居ない?」
「うん、お母さんとお父さんは用事があって、今日は夜に帰ってくるの」
「そうなんや」
「大会までに体壊したら駄目だから、先にシャワー浴びたら?それまでに乾かせるだろうし」
「使ってもいいのか?」
「今更じゃん(笑)」
「というか、佳苗こそ体弱いんやから、先入ったら?」
「ダメ。珀多くんが大会に出れなかったら元も子もないじゃん」
「…………分かった。先に使わせてもらうわ」
その後、それぞれシャワーを浴びた2人は、畳の上に座っていた。
「止むまで暇だからさ、今年の世界オープン見ようよ」
「録画してたのか?」
「うん。毎年、録画してるよ」
テレビをつけたあと、季楽坂は央崎の膝の上に座った。
「この選手って、どこの人だっけ?」
「この選手は――」
「…………懐かしいね」
「…………そうやな」
「小さい時みたいで、安心する」
「…………雨の日はいっつも膝の上に乗ってたもんな」
「うん…………温かいからね」
持病が治りそうなくらい、安心する…………けど、けど何か足りない。小さい時は満足してたのに…………。
でも、何が足りないのか分からない…………。
外から、音が消えていった。
「…………止んだのかな?」
「そうっぽいな」
「…………今どけるね」
その後、央崎と季楽坂は玄関へ向かった。
「…………じゃあね。全国大会、頑張って」
「おう。ありがとう、シャワーとか使わせてもらって」
季楽坂の家には、ドアの閉まる音だけが響いていた。




