第39話 余裕が無い
ここで、勝てば…………。
次の日、ストレート勝ちやギリギリの試合を潜り抜け、決勝戦を迎えていた。
念願の全国進出や。決勝とだけあって、注目されてるな。…………緊張してきた。
いや、俺は1人じゃない。
色んな人の思いを背負ってるんや。
会場は、静かに試合が始まるのを待っていた。
「セブンゲームマッチ。プレイボール」
――バコン
「珀多ーー!!」「いっけーいけいけいけいけ、珀多、おっせーおせおせおせおせ、珀多、いーけ、おーせ、大豆山、珀多!!」
サーブが打たれた瞬間、会場の全方向から一斉に応援が聞こえてきた。
「あっ」
やばい、初歩的なミスしてもうた…………。
「しゃあ!!」
相手選手が喜び、それに呼応するように相手陣営から歓声が上がった。
いや、切り替え切り替え。
「ワン、ゼロ」
――バコン
「あっ」
また、初歩的なミス…………どうしたんや?普通にしてるだけなはずやのに…………。
そのまま、央崎は1ゲーム目を1点も取れずに終わってしまった。
「どんまいどんまい。次、いけるよ」
「…………おう」
余裕が無くなってきた…………体が硬い。動かなあかんのに、動けるのか?
「先生…………」
「余裕が無くなってきてるわね。顔に出てる」
「そうですよね…………これじゃあ、相手の思う壺…………」
何か、珀多の為になること…………思い出せ、思い出せ、私…………そうだ!!
「…………ミスったら、半人前よーーーー!!自分で言ってたでしょうがーーーー」
思い出した、まだ仲良くなる前、
私に対抗して、「私にしかミスさせないまではまだまだ」って言ってたことを。
あの時は腹が立ったけど、今なら珀多に流れを持ち込むのに役立つはず…………。
それまで曇っていた空から、一筋の夕陽が会場を照らした。
――バコン
央崎の打ったボールは、相手の後ろへ抜けた。
「よっしゃーー!!」
半人前…………もしかして、蓮香に言ってたこと!?
最近は協力ばっかりしてたから、完全に忘れてた…………そうだ、元々蓮香とはライバルやったんや。
大会で勝つって宣言だけじゃない。
自分でまだまだと言った以上、それは蓮香も佳苗をも同時に裏切ることになる。
「ワン、ゼロ」
「蓮香ちゃん、ナイス応援」
「珀多、ちゃんと覚えてたのかな…………」
「覚えてると思うわよ。さっきの見たでしょ?」
「…………だと良いな」
その後、相手のペースであった試合はいつしか央崎のペースに変わり、マッチポイントになっていた。
「スリー、ツー。アドバンテージ、レシーバ」
最後の1点…………絶対に、デュースには持ち込まない!!
――バコン
「ゲームセット。ゲームカウント、フォー、スリー。勝者、大豆山高校、央崎珀多」
央崎が打ち返したボールは、ほぼ90度に曲がった、勢いの強いボールであった。
勝った、のか…………?
――カタン
央崎の手から、ラケットが落ちた。
「…………よっしゃーーーー!!」
「「「「わあーーーー!!」」」」
会場から、歓声と拍手が沸き上がる。
「ありがとうございました」「ありがとう…………ございました…………」
「おめでとう、珀多!!」
「おめでとう、全国進出ね!!」
「ありがとうございます!!蓮香も、本当にありがとう」
――ギュ
「え……蓮香?」
「あっ…………」
「ご、ごめん。つい感極まちゃって…………」
「え、あっ、うん…………」
「ずーっと、珀多くんのこと気にかけてたもんね」
その後、閉会式を終えた央崎たちは、会場の外へと出ていた。
「今回の勝利の理由はなんだと思われますか?」
会場の外では、近洛地方の新聞記者たちが、央崎、山志那、六夜先生を囲んでいた。
「理由は、紛れもなく、周りが支えてくれたからです。きっと、周りで支えてくれる人たちが1人でも欠けていたら、勝っていなかったと思います」
「その支えてくれた人たちとは、隣にいるマネージャーさんとかでしょうか?」
「マネ…………」
央崎は、山志那の方を見た。
…………マネージャーじゃない。蓮香は、立派な選手だ。じゃあ…………
「…………彼女は、良きライバルです」
「(珀多…………)」
その後、央崎たちは新聞記者の質問に受け答えしていた。
取材って、意外と過酷なんやな…………
「「「「「おめでとう!!」」」」」
「ありがとうございます!!」
「今日はお赤飯じゃな(笑)」
「今日は帰らないで、おじいちゃん(笑)」
「「本当に、おめでとう」」
「父さん、母さん…………泣くのはまだ早いって(笑)」
「だって、こんなに成長したんだもん…………」
「まだ、全国があるんやからさ」
「珀多くん…………本当におめでとう。観てて、本当に楽しかった」
「良かった…………決勝の時、危なかったけどな(笑)」
「もし、負けてても、私はずっと珀多くんのテニスをしているところを見ていたい」
「…………分かった。一生涯、テニス続けようかな」
「えっ、そこまで…………」
「言ったやろ、喜ぶ間は続けるって。それを有言実行してるだけ」
「珀多くん…………」
「じゃあ、記念写真撮るか。おーい、珀多、佳苗ちゃん」
「あっ、今行く」「今行きます」
◇ ◇ ◇ ◇
写真を撮り終えた、央崎、山志那、六夜先生は、宿に戻っていた。
日は落ち、ホテルから見える道路も、昼間の喧騒が嘘のように静かになっていた。
中々、寝付けれんからロビーに来たけど…………もしかして、あれって…………。
「…………蓮香、何してるん?」
「え!?珀多…………珀多こそ、どうしたの?」
「中々寝付けれんから来た」
「そうなんだ…………ねぇ、今日って珀多自身のため以外なら、誰のために戦ったの?」
「誰のためって…………そりゃあ、応援してくれる、してくれた人のためやん」
「特に誰なの?」
「特に…………ってのは無いな。理由は違えど、応援してくれるのは同じなんやし、そこに優劣なんか無い、けど…………」
「…………」
「御守は本当に心の支えになった。あれがなかったら、折れてた。本当にありがとう」
「…………っ、私の為のやつって言ってるじゃん!!」
ロビーには、控え室の時とは違った、甘い空気が広がっていた。




