第36話 思いを背負う
「雨降りそうだけど、大丈夫?」
文化祭から2日後、近洛大会が開催されていた。
「天気なんて関係無い。全力を尽くす」
「はい、スポドリ」
「ありがとう…………って、これは?」
「…………本当は私の為のやつだし。今は要らないからあげる」
必勝祈願の御守…………前に落としてやつとはまた違う。
わざわざ、新しく買うか?いや、前から持ってた可能性も…………。
すると、奥から大人数の集団が央崎の方へ向かってきた。
「珀多くん、こんなに来てくださったわよ」
「校長先生に丹原先生、琴乃、行、佳苗、母さん、父さん、おじいちゃん!!」
「私と行は今日だけやけどね」
「校長先生も今日だけなんでしたっけ?」
「そうですね。他の部活も見に行かないと行けないので…………」
「でも、他の人たちは泊まりなんでしょ?」
「「「「「泊まりで見に来た」」」」」
重圧やな…………けど、それだけ期待されてるってことや。この人たちの期待の為にも、絶対に全国に行く!!
「珀多、頑張るのよ」「珀多、頑張れ」「立派になったの」
「うん、母さん、父さん、おじいちゃん」
「私たちに全国見せてよ(笑)」
「おう、絶対に見せる」
「全国に行ったら、特大サイズの横断幕作らんとな(笑)」
「校長先生、お願いですからやめてください…………」
「まさか、珀多くんがここまで成長するとはねぇ~。私でもそんな早く近洛大会に出れなかったよ」
「合宿の時はありがとうございました!!」
「珀多くん、頑張ってね」
季楽坂が手を握り、小包を央崎の手に握らせた。
「おう、約束は絶対に守る」
「(負けても、私は…………)」
観客席に戻るのを待ってから、選手の待機施設へと六夜先生、央崎、山志那は向かった。
「結構、施設充実してますね」
「最近は近洛大会レベルになると、こんなに充実するのね。私、挨拶回りしてくるわね」
「「はい」」
周りは、噂に聞くほどの強豪校ばっかりやな…………本当に、全国行けるのか…………?いや、応援されたばっかりやろ。
「ねぇ、珀多」
「どうしたん?」
若干、不機嫌そうな気がするのは俺だけか?
「珀多は怖くないの?」
「近洛大会が?」
「うん」
「怖くないって言ったらウソになるけど、怖がってもしょうがないかな。色んな人に、全国に行くって宣言してるし、あくまで近洛大会は通過点に過ぎない」
「色んな人って…………?」
「家族は当然として、蓮香にも宣言してるやん」
佳苗のためでもあるが、蓮香のためでもある。
「本当に、それだけ?」
「…………佳苗にもしてる」
「そう。珀多…………」
――バシッ
山志那は、央崎の背中を1回2回叩いた。
「頑張ってね。宣言破ったら、タダじゃおかないから」
「おう、絶対に全国に行ってやる」
控え室には、モヤのかかった甘い空気が広がっていた。
◇ ◇ ◇ ◇
数十分後、央崎は1回戦目の準備に取り掛かっていた。
やっぱり、1コートごとの観客席も広いな。案内図見るだけで一苦労や…………
まだ時間もありそうやし、小包の中だけ見とくか。
…………ゼリーに、手紙?
「必勝祈願!!御守代わりだよ」
御守代わり、か…………。
央崎はポケットに入れていた、蓮香から貰った御守を手に取った。
思い同士が喧嘩しないといいけど…………。
いや、喧嘩したとしても、どっちも背負わないといけないしな。
央崎は、御守と手紙をポケットに入れ、コートへと向かった。
「セブンゲームマッチ。プレイボール」
まずは、サーブで先制していきたい。
「フォルト」
集中、集中。
――バコン
先制は出来んかったが、ダブルフォルトで点を失わんかっただけ、いいか。
…………やっぱり、県大会とは大違いに相手が上手い。
どこに打っても、返してくる。持久戦でもいいが、それやと俺も危険や。どうしようか…………。
「いっけーいけいけいけいけ、珀多、おっせーおせおせおせおせ、珀多、いーけ、おーせ、大豆山、珀多!!」
後ろから、蓮香を筆頭にした応援が聞こえてきた。
「あっ」
やばい、端ギリギリか。打ち返せたが、あのボールはやられる。
――バコン
「イン。ゼロ、ワン」
やばい…………先制された。どうにか、翻弄できる方法は…………
…………そうだ、カットサーブや。
――8月下旬
「珀多、カットサーブってしないの?」
「カットサーブ?あんまりしないかな。相手に慣れられても困るし」
「でも、いざという時のために練習しといた方が良いんじゃない?」
「確かに、1つの手法としては確立しといた方が良いのか…………」
――カッ
央崎のフォームは、一見普通であった。
しかし、ボールには回転がかかっていた。
相手コートに着地したボールは、相手のバック方向に逸れ、央崎のコートに戻ることは無かった。
「ツーバウンズ。ワンオール」
よし、練習しといて良かった。…………蓮香に感謝せんとな。
「ワンオール」
レシーブも返していきたい。
――バコン
なっ…………カットサーブ!?
相手から放たれたボールは、ど真ん中に来たと思ったが、右に大きく逸れた。
相手も、カットサーブを使ってきたか…………しかも、フォームでは分からないタイプ。多分、ごちゃ混ぜにしてくるだろう。…………対応出来る気がしない。
「珀多くん、冷静にーー」
佳苗…………冷静に、か。
「ツー、ワン」
――バコン
同じように、カットサーブが央崎のコートに落ちた。
一旦、上に上げよう。それで、立て直す。
央崎が返したボールは、相手コートの前の方に落ちた。相手は、それに対応することが出来ずにいた。
「ツーバウンズ。ツーオール」
これなら、攻めながらも立て直せる!!
――バコン
次は、普通か。あっ…………。
「ネット。スリー、ツー。マッチポイント」
やばい、カットサーブ対策のまま打ってしまった…………
「珀多、練習思い出してーー」
練習を、思い出す…………。
――バコン
央崎が返したボールに、相手は追い付けなかった。
「イン。デュース」
何、今のボール。自分でも出したことの無い、速さやった…………。
いや、この速度どこかで………………蓮香のボールだ。
蓮香が、練習の時に出してくれていた速さだ。
その後、1回戦は4対2で央崎の勝利であった。
「「ありがとうございました」」
…………危なかった。




