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こちら異世界BAL《クロスロード》-世界の味、集めます-  作者: 三嶋トウカ
第二章:様々な世界の一片

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閑話③:異世界の料理それぞれ_2


 女性もまた笑った。

 凪斗は銀鱗魚を想像しながら、焼き上がった青麦パンをスライスした。香ばしい香りが辺りを覆う。


「あいにく、赤ルースはありませんから、代わりに『酸光果』を使いましょう。酸味、という点では、こちらでも問題ないですから」


 青麦パンに丸風船魚を挟み、仕上げにレモンに似た酸光果を絞る。酸の香りがふわっと広がった。

 凪斗は思わず唾液を飲んだ。


「酸光果は、漬けるけるには酸味が強いので、絞るだけに留めます。香りづけに、皮を少々」


 ツユがそう言って皮を削ると、少し苦みの混じった香りが漂った。


「お待たせしました。『潮風サンド・クロスロード仕上げ』です」

「待ってたよ! ありがとう!」


 女性は両手で受け取り、ひと口かぶりついた。

 青麦の硬さに最初は歯を立てるのが大変そうだったが、やがて顔に笑みが広がる。


「んんん! ……そうだ、これだ! この噛みごたえ、酸味、魚の旨味。船の上で食った時と同じだ」

「再現できてよかったです」


 ツユがほっとした顔で笑う。


「すごい……俺、サバサンドに似てるって思いました」


 凪斗が口にすると、女性はきょとんとした顔をした。


「サバサンド? それもこんな感じなのか?」

「あ、そうなんです。俺の国の料理なんですけど。焼いた魚とあと野菜をパンに挟んだやつで……」

「確かに、似ているかもしれませんね」

「なるほど、世界が違っても考えることは似るんだな。だってこれ、美味いもん」


 彼女は愉快そうに笑った。

 瞬く間に食べ終えた彼女は、グラスの水をぐっと飲み干す。


「うまかった。……でも、ここで食べると、船よりもずっと贅沢に感じるな。海風に吹かれながら食べるのもいいが、落ち着いて味わうのは、また違う」

「料理は場所を変えると、同じものでも新しい顔を見せます。――旅の途中で寄ってくださって、嬉しいですよ」


 女性は深く頷いた。


「また大きな海を渡る時に、寄らせてもらうさ」


 彼女の背中がBALを出ていくとき、外の夜風に微かに潮の匂いが混じっていた。

 凪斗は皿を片付けながら思う。


(同じ魚とパンでも、世界が違えば立派な異国の味になるんだな)


 女性が帰り客の波が落ち着いたころ、BALの扉が開いたのは、凪斗がグラスを磨いていた時だった。

 鈴が鳴って振り返ると、煤に汚れた外套を羽織った中年の男性が、ぎょろりとした目で店内を見回していた。


「……こりゃあ、たまげた」


 男性は口の端を上げ、ゆっくり中に入る。


「いらっしゃいませ」

「オレはついさっきまで、高山の坑道にいたはずなんだ。……扉なんざあるはずもねぇ岩壁でな。けど、灯りが漏れてたから覗いてみたら、これだ。……いやぁ、夢でも見てんのかと思ったぜ」

「ようこそ、BAL・クロスロードへ」


 ツユはいつも通り、落ち着いた声で迎えた。


「クロスロード、ねぇ」


 そう言って、男性は辺りをキョロキョロと見回すと、腑に落ちたような顔を見せた。


「……なるほど、こりゃ交差点どころの話じゃねぇ」


 男は豪快に笑い、カウンターへ腰を下ろした。


「お疲れのご様子ですね。喉を潤すものをお出ししましょう」

「助かる。……オレはグラーヴ鉱脈界の、オルドラ鉱山帯にある鉱都ドルミナの生まれだ。っても、ここじゃ誰も知らんだろう」


 ツユは帳面を取り出し、さらさらと書き込む。


「グラーヴ鉱脈界……初めて伺いました。――また新しい界が、我々の地図に加わりますね」

「へぇ、わざわざ書き留めてんのか。物好きなもんだ」

「BALに集う味は、地図にして残す価値がありますから」


 男は肩を竦め「じゃあひとつ、鉱山街の甘い習慣を教えてやる」と言った。


「俺たちは仕事を終えると『琥珀蜜酒』に『火晶果』を沈めて飲む。酒を飲み干した後、底に沈んだ果肉を食うんだ。酸っぱさと甘さが一緒に弾けてな……あれがあるから次の日もまた掘れるってもんよ」

「果実を酒に沈めて、最後に食べるんですね」


 凪斗が興味津々で聞く。

 頭に浮かんだのは、梅酒だった。


「そうだ。酒そのものより、その実を噛んだ時がご褒美なんだ」


「面白いですね。BAL流に試してみましょう」


 ツユが頷き、蜂蜜酒の瓶を取り出した。


「琥珀蜜酒はあいにくありませんが、代わりにこの蜂蜜酒を」

「赤晶果は、この間カリンさんが持ってきてくれましたよね?」

「えぇ。まだ残っているはずです。使いましょう」


 凪斗は赤晶果を小さく切り、グラスへ沈める。琥珀色の液体に赤い実が浮かび、ぱちぱちと気泡を散らした。


「ふぅん……見た目も悪くねぇな」


 男はグラスを持ち上げ、ごくりと一口。


「……おお。こいつは琥珀蜜よりも甘いな。でも、喉越しがいい」

「どうしても、甘みが前に出てしまいますから。BAL流に少し流氷水で割りました。飲みやすくして、果実の旨味を最後まで楽しめるように」


 ツユの言葉を聞いて、男性は頷いている。


 底に沈んだ果肉をすくって口に入れた瞬間、男の表情がほころぶ。


「じゅわっと蜜が広がる……これだ、これだよ。オレが欲しかったのは」


 凪斗がつい口にする。

「あ、そっか。赤晶果は弾けて気泡が出るから……梅酒よりも、フルーツポンチに似てる気がしてきました」

「あ? ポンチ?」

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