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こちら異世界BAL《クロスロード》-世界の味、集めます-  作者: 三嶋トウカ
第二章:様々な世界の一片

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第29話:妖精郷の花蜜ケーキ_4


 凪斗も、心のどこかが震えるのを感じていた。

 ――料理が、ただここで食べられるだけじゃない。遠い土地へ届き、人の思い出を作れることに。


 その後、ツユはもうひとつの提案をした。


「花蜜は熱だけでなく、冷たく仕立てても面白いでしょう。試してみますか」


 グラスに氷と炭酸水を注ぎ、小瓶から花蜜を数滴。ぱちぱちと弾ける泡に、淡いオレンジの光が走る。


「――花蜜ソーダ。発色は善い出の、色が濃くても甘さは控えめです。どうぞ、お試しあれ」


 みんなで口をつけた瞬間、弾ける炭酸が香りを押し出し、爽快な甘みが広がった。


「うわっ、一口目はすっと甘みが口ん中に広がるのに、喉の奥へいくころにはさっぱりや!」

「ぷはぁっ! はー、喉がすっとするな! 見た目とのど越しが、全然違うじゃねぇか!」

「グランツは、酒を控える夜にちょうど良さそうだね? 僕もこの味は気に入ったよ。くどくない。甘すぎなくて、喉の渇きが癒される」

「炭酸は喉に痛くてあんまり飲まんのじゃが……これは控えめなんじゃな。年寄りにもええのぉ」


 凪斗も一口。シロップのような見た目とは裏腹に、ケーキの重さを洗い流し、軽やかに整えてくれる。


「……同じ蜜なのに、こっちは飲みやすいですね。ケーキとは全然違う顔だ」


 全員が満足そうな顔をしているのを見て、凪斗は嬉しくなって笑った。

 炭酸を飲み進めると、ふと、凪斗の頭にあることが浮かんだ。それをそのまま、言葉に変えて投げる。


「カリンさん、この花蜜……妖精郷って、どんな国なんですか?」


 カリンは目を丸くして、やがて楽しげに笑った。


「夜になると、花が光るんよ。畑も道端も、月みたいに淡い光に包まれてな。めっちゃちっちゃい光の妖精も飛び回ってんねん。んで、子どもらは『光る野原』を駆け回るんや」

「何だか、凄く明るくて優しそうな国ですね」

「これがな、最初は他所もんには厳しいんや。うちもなかなか入れんかって。でも、仲ようなったら、みんな親切であったかい国や。あ、それから、蜜は祭りの日にしか採らん。ほんまに特別なもんなんよ」


 凪斗はその情景を想像し、胸が高鳴った。街灯代わりに花が灯る国。見てみたいと思わずにいられない。


「僕の森も、朝日が木漏れ日となって降り注ぐんですよ。……それも、なかなかいい景色ですから、是非、機会があれば案内させてください」

「ふん、森よりドワーフの鍛冶場に来いよ! 火の粉浴びながら肉を焼き、ビールを煽る! 最高の贅沢だ!」

「わしの村は雪山のふもと。冬は腹いっぱい芋を煮て、蜜をかけて保存する。寒い夜も、囲炉裏の前は天国じゃ」

「あ、うちの故郷は砂漠のほうやからな。暑いん平気やったら、旨いもん用意すんで! それに、でっかい砂漠トカゲに乗って移動できんで?」


 それぞれの世界の光景が、凪斗の脳裏に鮮やかに描かれていく。

 ――いつか、本当に行ってみたい。


「……みんなの国、俺も行ってみたいな」


 素直にこぼした言葉に、カリンがにっと笑ってグラスを掲げた。


「ほな、その日が来るまで! うちがようさん食材持ってきたるさかい! 待っててや!」


 その声に、みんなが笑った。グラスの中の泡が弾け、花蜜の光が一瞬だけきらりと揺れて消えた。


「……ところで……」


 ツユが咳払いをして、皆の注意を引いた。


「妖精郷に持っていくなら、豪勢に手を加えるだけでも十分ですが――折角です。皆さんのお国の食材を少しずつ合わせてみませんか。バルらしく、世界を交わらせたケーキにしましょう」


 その話を聞いて、最初に立ち上がったのはレイファスだった。


「森で採れる『月光ベリー』をどうでしょう。夜の間だけ赤く熟し、朝になるとまた色を失う果実です。今日、食材として持ってきたことを、すっかり忘れていましたよ」


 彼が差し出した小袋の中には、ルビーのように赤く光る小さな実がころころ入っていた。指先で潰すと、きゅっとした酸味の匂いが広がる。


「酸味が強いので、生地の間に忍ばせれば良いアクセントになると思います。……そして、これも」


 もうひとつ取り出したのは、銀色にきらめく粉。


「『星苔の花粉』。粉糖のようにふりかければ、光を反射してきらきらと輝きます。飾りに最適ですよ。香りも味も甘いですが、くどくないし、大人も喜ぶと思います」

「きらきらするんか! 絶対映えるやん!」


 カリンが目を丸くして笑った。

 続いてグランツが腰の革袋をごそごそ探り、どんとテーブルに置いた。


「俺の国からは『火結晶ナッツ』だ!」


 手のひらに載せた実は、褐色の殻がひび割れ、ほんのり赤茶色の光を帯びていた。


「砕いて焼くと、周りは燃えねぇし、熱もないのに、このナッツだけが熱を帯びる。不思議なもんだが、甘いもんと合わせると香ばしさが倍増すると思わないか?」


 さらに、彼は布に包まれた豆を取り出した。


「それと『赤鉄カカオ』。鉄の炉で焙じると、深い香りが出る。粉にすりゃ、ほろ苦さと甘みをまとめてくれるだろう」

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