閑話②:新メニュー開発_3
凪斗は感心した。果物と米を合わせるなんて、考えたこともなかった。
「これだけでも、ちゃんと食事になりますよね。それに、よく噛むから腹持ちもよさそうだ」
「せやせや、砂漠は食えるときに食っとかんと死ぬ。腹に残る飯が一番や」
カリンは胸を張って応えた。
続いてはレイファスの『花蜜サラダ』。
籠の中のボウルは、まるで森をそのまま持ってきたかのように鮮やかだった。薄緑の葉に、白や紅の花びらが散りばめられ、果実の粒が星のように光っている。
フォークで口に運ぶと、花蜜の淡い甘さが舌を包み、すぐに若葉の苦味が追いかける。甘さと苦味が交互に顔を出し、香りはふわりと鼻へ抜ける。
「おぉ……見た目通り、香りも後味も華やかやなぁ」
カリンが感心する。自身の持ってきた料理とは対照的だが、味は好みのようだ。
「香りも繊細ですね」
凪斗は鼻をすする。
「さっきの香草串の真逆だ。こっちは静かに広がるけれど、向こうはドカンと爆発するみたいで」
「祝いの席では必ず出されるのですよ」
レイファスは穏やかに微笑んだ。
「華やかさが人の心を高揚させ、祝いの席に一花盛るんです」
さらに『月果のソース和え』を口にすると、ひんやりとした食感と、柑橘に似た酸味が舌に走った。冷たさと酸味が肉の脂を一掃するようで、思わず背筋が伸びる。
「……これは肉料理の合間にちょうどいいのかも」
凪斗が驚くと、レイファスはにこりと笑って頷いた。
「森の宴では、必ず重い料理の後に添えます」
次はグランツの番だ。
「待ってました! これぞバルの主役にふさわしい! だろ? だろ?」
豪快に切り分けられた『竜肉ソーセージ』からは、優しく噛んだだけで皮が弾け、肉汁が飛び出す。
凪斗が一口頬張ると、弾力に歯が跳ね返され、次の瞬間に濃厚な旨みが口いっぱいに弾けた。熱い肉汁が舌を焼き、竜肉特有の甘みがどっしりと広がる。
「……っ!? これは……すごい! 噛んだ瞬間に爆発する! 弾力があるのに皮は薄いし、肉汁が濃厚で、しかもこんなにたっぷり……」
「ははは! 肉汁の火山みたいだろう?」
グランツは満足そうに豪快に笑い、ジョッキを振った。
「黒曜石ビールを流し込めば至高のひとときだ!」
そこから『黒鉄揚げパン』を齧ると、外はカリカリ、中はもっちり。揚げ油の香ばしさが竜肉の脂を吸い込み、じゅわりと溢れる。揚げパンの油と、竜肉の脂が、一瞬で互いを尊重するように、口の中で混ざっていった。
「これ……危険だ。止まらなくなる。え、どうしよう」
と、凪斗が苦笑すれば「そのためにこれにしたんだ!」と、グランツはますます豪快に笑った。
最後はモーガの甘味だ。
「わしの番じゃな。まずは『蜜樹プリン』でいこうかのう」
黄金色の表面をスプーンで割ると、とろりと滑らかに崩れる。口に含むと濃厚な甘さが舌を包み込み、木の樹液のような深みが後から追いかけてくる。
「おお……」
凪斗は思わずため息を漏らした。目をパチクリさせ、その後思わず笑みがこぼれる。
「こんな甘さ、日本にはないかも。初めて食べる味ですね」
「あっはっはっ、疲れが吹き飛ぶじゃろう?」
モーガは嬉しそうに目を細めた。
『雪苔芋の甘煮』も、ほっくりした芋が優しい甘さを放ち、食べると身体がじんわり温まる。
「これは……素朴で、安心する味だ」
「うむ、甘味は締めにこそふさわしい。腹にも優しいからの、焦って食べても大丈夫じゃ」
モーガは満足げに頷いた。
全員が順番に料理を平らげたテーブルは、小さな祝祭の終わりのようだった。香辛料で身体を熱くし、冷菜で落ち着き、肉で力を得て、甘味で締める――流れはひとつの宴。
「……冗談じゃあなく、どれも美味い。だがバルの顔となると、迷うな」
グランツが唸る。
「串は強すぎるかもしれんし」
カリンも腕を組む。
「森の料理は美しいが、日常に出すには繊細すぎるかもしれませんね」
レイファスも静かに言う。
「バル、という意味では、甘味は主役ではないかもしれんなぁ」
モーガが悩む。
やがて、全員の視線が自然と凪斗に集まった。
「……では次最後に、凪斗君の番ですね」
ツユが穏やかに促す。
凪斗は一呼吸置き、ゆっくりと立ち上がった。度深呼吸し、調理場へと足を運ぶ。
「俺が出すのは……定食です。ご飯と味噌汁、焼き魚に玉子焼き、それから漬物。日本じゃ当たり前の食事なんですけど。一品で悩んだけど、良かった、皆さんも、二品持ってきてくれていたから。コンパクトにまとめますね」
カリンが目をぱちくりさせる。
「定食? なんやそれ、聞いたことないで」
「魚と卵は分かるが……定食ってのは何だ?」
グランツも首をひねっている。
凪斗の言葉に、レイファスとモーガも静かに興味を示した。
「聞き慣れない名ですね。ぜひ見せてください」
「何品か載っているということは、甘味も?」
凪斗は少し照れ笑いしながら「甘みはないですが、甘い玉子焼きにしますね」と添えて、準備に取りかかった。
まずは米を炊く。バルの厨房にある竈に火を入れると、ぱちぱちと薪が爆ぜる音が響いた。水を吸った米が次第に白濁し、鍋の中からふつふつと泡が立ち始める。
甘く澄んだ香りが漂い出し、異世界の面々は顔を見合わせた。
「なんやこれ……穀物の匂いか? けど、こんなに甘い香りすんの初めてや」
カリンが鼻をひくつかせる。
「米が炊けると、部屋じゅうにいい匂いが広がるんです」




