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こちら異世界BAL《クロスロード》-世界の味、集めます-  作者: 三嶋トウカ
第二章:様々な世界の一片

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閑話②:新メニュー開発_2


 ツユは穏やかに微笑み、全員の意見に耳を傾けている。


「バルは本来、酒と軽食を楽しむ場ですからね。こうした小鉢が似合うのです」

「なるほど、飲みたい気持ちと食べたい気持ちを呼ぶバルの『顔』か」


 凪斗は小さく呟いた。

 確かにこれは、誰が来てもまず差し出せる『看板』になりそうだった。


「では……皆さんの番ですよ。……と、なぜ荷物がふたつずつあるのでしょうか……?」


 それぞれの目の前には、布に包まれた荷物がふたつずつ置いてあった。大小や形の差はあるものの、この状況で考えられるのは『どちらも料理』だということだ。ツユは『一品勝負なのに』という顔をしている。


「もしかしたら、セットで売り出せるかもしれませんね。汁物と米とか、デザートプレートとか」

「……その可能性は否めませんね。とりあえず、皆様には順に出していただきましょうか。どなたからまいりましょう?」


 ツユが促すと、場が一気に賑やかになった。


 まず初めに、カリンが立ち上がり布に包んでいた浅い鍋をどんと置いた。


「うちのは『赤砂漠の香草串』や! 干し肉と香草を串に刺して煮込んだやつやで。砂漠旅んときは汗だくになって食べると元気出るし、干し肉も食べやすうなるんや!」


 ぐつぐつと煮立つ鍋からは、鮮烈なスパイスの香り。食欲を刺激する匂いに、皆が鼻を鳴らした。

 ぐぅぅ、と凪斗の腹が音を立てて反応する。


「ほんでな、こっちは『風乾きの香草飯』やで。干し果実と香草を混ぜてあって、見た目の割に腹持ちもええし、肉にも合う!」


 一瞬で辺りが構想の匂いに包まれる。スパイシーで、その奥に爽やかさのある、食欲をそそられる香り。

 その香りを嗅ぎながら、レイファスは籠を持ち出した。


「僕はもちろん森からです。これは『花蜜サラダ』といいます。誕生日や、祝いの席に欠かせません。どうぞ、色合いをよく見てください」

「……こんなの見たことないや」


 レイファスの言うとおり、凪斗は色合いを注視した。同時に、自然と言葉が漏れる。

 皿に盛られた葉と花弁が夜空の星のように輝いていた。きらきらと、その存在を主張するかのように。


「それから、もう一品。『月果のソース和え』を。冷たくして食べると酸味が生きますよ。甘いだけが、デザートではありませんから」


 二人の品を横目に、グランツは豪快に木皿を置いた。


「俺ぁもちろん肉だ! その名も『竜肉ソーセージ』! 齧った瞬間にとんでもねぇ肉汁が溢れるぞ!」


 どすん、と置かれた太いソーセージは、皮が今にも弾けそうなくらいにぱんぱんに張り詰め、焦げ目から食欲をそそる香りを放っている。


「ついでに『黒鉄揚げパン』も一緒に食ってくれ。肉汁を吸わせると最高だ! シンプルだが味わい深いぞ!」


 食欲をそそる肉と脂の焼けた匂い。モーガはにやりと笑いながら、大きな器をそっと置いた。


「当然ながら、わしは甘味担当じゃ。『蜜樹プリン』と『雪苔芋の甘煮』。どちらも腹に優しいからのう」


 黄金色に光るプリンは濃厚そうで、芋の煮物は素朴な甘さが表面に滲んでいるように見える。


「これはなかなか……圧巻ですね」


 テーブルの上はあっという間にごちそうで埋め尽くされた。香ばしい肉の香り、爽やかな香草の匂い、甘い蜜の芳香――

 バルは、まるで小さな祝祭のようになった。


 まずはカリンが推した『赤砂漠の香草串』から試食を始める。

 鉄鍋から立ちのぼる湯気は赤々とした香草で彩られ、改めて料理の存在を感じようとすると、鼻を近づけるだけで目の覚めるような刺激が走った。

 肉の表面は煮込みながらも香ばしく焼き締められ、串を持つと脂がじゅっと滴り落ちる。


 凪斗が恐る恐る齧る。

 最初は硬い――干し肉ならではの歯応えが歯を押し返した。だが繊維を断ち切った瞬間、じわっと凝縮された旨みが舌に広がり、スパイスの熱と合わさって一気に汗が噴き出す。

 鼻の奥を抜ける香草は強烈だが、不思議と嫌味はなく、後から清涼感が追いかけてきた。熱波に焼かれながら、同時に風が吹き抜けるような感覚だ。


「うわっ、すごい! 一口食べただけで、身体が火照ってくる……。それなのに、飲み込むころには涼しいくらい……?」


 真逆の感覚に凪斗が思わず口を押さえると、横でグランツが大笑いした。


「こいつぁ面白れぇ! 戦場で食うならこれだ! 辛さで汗が噴き出し、肉で腹が満ちる。その汗も熱さも、食べ終わったら全部どっかにいっちまう。最高じゃねぇか!」

「うぅむ。わしの舌にはちと強いが……」


 モーガは額を拭いながらも笑う。


「後口に残る、香草の涼やかさは悪くないのう。次の料理への橋渡しをしてくれるようじゃ」

「……うん、僕は気に入ったよ。香辛料の配合が見事だ」


 レイファスは淡々と評した。みなと同じように、薄っすら額に汗をかいている。


「食べ始めは強すぎる気もするけれど、食べ続ければ逆に爽やかさが勝つ。砂漠の知恵というわけか、流石だ」

「やろ? 旅んときはこれ食べて汗かいたら、生き返るんや!」

「確かに、この涼しさが後に来るなら、生き返るでしょうね」

「ようわかってるやん、大事やろ? 砂漠で」

「そうですね」


 上々の評価に、カリンは得意げに笑った。


 次に取り分けられたのは、同じくカリンの『風乾きの香草飯』だ。

 干し果実と米を混ぜ込んだそれは、茶色と橙色が入り混じり、ほんのり甘酸っぱい香りを放っている。

 一口食べると、米粒はぱらりと軽く、干し果実が噛むたびに甘さを弾けさせる。スパイスの下支えがあり、ただ甘いだけではなく複雑な風味だ。


「これ……果実の甘さが疲れを癒すな。どんな味かと思ったけど……意外といける」

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