表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら異世界BAL《クロスロード》-世界の味、集めます-  作者: 三嶋トウカ
第二章:様々な世界の一片

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/45

閑話②:新メニュー開発_1


 ――ある日のバルの営業が終わった夜。

 まだ炭火の残り香が漂う店内で、ツユがカウンターの奥から姿を現した。薄い湯気が立ちのぼるポットを手にしていて、常連たちの前に温かな茶を一人ひとりに注いでいく。


「さて……皆さん」


 柔らかな声に、自然と場が落ち着いた。


「そろそろ、バルの『顔』になるような一品を考えるべき時かもしれません」

「新しいメニューの開発、っちゅうことやな?」


 カリンが椅子に浅く腰掛け、にやりと笑う。まるで、今から何が起こるかワクワクしている子どものような顔だ。


「ええやん! 冒険から帰ってきて、食うもんがいつも同じやと、どんなに美味しくてもそのうち飽きてまうしな」

「仰る通りですね。祭の席でも同じです」


 カリンの話を聞いたレイファスが頷く。


「必ず象徴になる料理があって、それがあるから人が集まるんです。この料理は変わりませんが、それでも、参加する人が変わっても、作り手によっても少しばかり左右されますから」

「おお、なるぼど。つまり『バル《クロスロード》といえばこれ!』って料理が必要なんだな」


 グランツが、お茶の熱さに顔をしかめながら、それでもガハハと笑って答えた。


「だったら俺は文句なしに肉と酒を推すぜ! いかにもメインって感じだろ? インパクトも出やすいし、味もしっかりしてるからな」

「待て待て。酒に合うもんばっかりじゃ、いつまでも腹が持たんぞ」


 あまり納得のいっていないようで、モーガが渋い声を出す。


「甘味も忘れたらいかん」

「なんだよ、結局は甘いもんじゃねぇか」

「当たり前じゃ」

「いつもと変わんねぇだろ」

「肉と酒も変わらんじゃろ?」


 わいわいと賑やかな声が飛び交うのを、ツユは微笑んで見守った。


「――ではこうしましょう。次の集まりで、それぞれ『自分がバルに推したい一品』を持ち寄るのです。実際に食べ比べて、皆で意見を出しましょう」


 その提案に場が沸いた。


「おもろいやん!」


 カリンが手を叩く。


「せやったら、ウチは砂漠で見つけた香草使うやつにするわ! あれなら、きっといい感じのメニューになんで!」

「それじゃあ、僕は森の花蜜を使った一品を考えよう」


 レイファスは静かに微笑む。自信はありそうだ。


「酒が進むもん以外思いつかんが……まあいい。持ってきてやるよ」


 グランツが笑う。


「わしは甘味を出すぞ。年寄りでも安心して食えるもんじゃ。勿論、ちぃこいおこちゃまもな」


 モーガもゆったり頷いた。


「バルの、顔……」


 凪斗は少し考えてから、ツユに向けて口を開いた。


「じゃあ……俺も、ひとつ考えてみます」

「そうこなくては。楽しみにしていますよ、凪斗君」


 ツユが柔らかく微笑む。


「あなたならきっと、面白い提案をしてくれるでしょう」


 ――こうして、バル《クロスロード》初の「持ち寄り新メニュー会議」が決まった。


 新メニュー会議当日、営業が終わったバルは、普段よりも少し静かだった。

 テーブルの上には片付けを終えたグラスがきちんと並び、まだ燻った炭の香りがほんのりと漂っている。その中で、ツユが奥から木のトレイを抱えて現れた。


「さて、皆さん本日は新メニュー会議です。……今宵はひとつ、遊び心を持ってみませんか?」


 柔らかな声に、自然と全員の視線が集まる。

 トレイの上には、丸みを帯びた果実のようなものがいくつか置かれていた。木の実にしては大きいし、皮に見える外側は、何だかは堅そうに見える。


「まずは私から一品。これは『樹なりチーズ』の実です」


 ツユは果実のひとつにナイフを入れた。ぱかり、と外皮が割れると、中から白い柔らかな塊が顔を出す。ふわりと乳の香りが漂い、皆の鼻をくすぐった。


「うわ、この匂い、チーズやんか!」


 カリンが目を丸くする。


「ええ、樹になるんですよ。中心の種も食べられます。香ばしい味がして、薄く切って添えるとまた面白いんです」


 ツユは中身の白いチーズの塊を取り分け、カウンター奥で小鍋を火にかけた。そこには琥珀色の液体が入っている。ほのかにオレンジがかって、甘い香りが立ちのぼっていた。


「これは『夜光花』の蜜です。温めると、こうやって緩やかに光を放つんですよ」


 鍋の中で蜜がとろりと揺れ、ほの白い光を帯びる。ツユは小さなスプーンですくい、切り分けたチーズの上にとろりとかけた。


 その瞬間、蜜がきらりと光を放った。まるで宵闇の中で星が瞬いたように、短い光がチーズの表面を走る。


「……これは!」


 一同から小さな歓声が上がった。


「『樹なりチーズの夜光花の蜜がけ』です。どうぞ」


 ツユが卓に皿を並べると、ほんのり炙られた香ばしさが広がった。ナイフを入れると、柔らかいチーズがすっと切れ、種のスライスがカリリと音を立てる。


 まずカリンがぱくりと口に入れる。


「……ん⁉ チーズは思いのほか優しい味やけど、この蜜が……爽やかで甘い! しかも光るって、めっちゃ楽しい!」


 レイファスは静かに頷きながら味わう。彼も気に入ったようだ。


「チーズと果実の相性は森でも珍しくありませんが、この光の演出は祭を思わせますね。それに、味の変わり方もいい」


 グランツは、豪快に力強く噛みしめて笑った。一緒に、種のスライスも放り込んでいる。


「実もいいが、種がいい歯ごたえだ! しっかり油もつまっていやがる。 酒が欲しくなるな!」


 モーガは「やっぱり」とでも言いたげな顔で、グランツを見ていた。だがすぐに視線をチーズに戻し、次にツユを見た。


「うむ。甘すぎず、後口がすっきりしておる。蜜をかけんでも、くどくないからいくつでも放り込めそうじゃ。これは年寄りでも食べやすいわい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ