第24話:獣人族の狩猟肉炭火焼き_4
そう言ったあと、目を細めてにかりと笑う。
「それから『蜜樹の実』じゃ。一口齧れば自然の甘露が溢れる木の実。肉の後にかっさらえば、舌がまた欲しがるわい」
「面白い食べ方だね。では、僕は尾のつけ根、いただこうかな」
レイファスは箸をとり、軟らかい部位をすくい上げる。噛んだ瞬間、微笑がこぼれた。
「うん、やっぱり軟らかくて甘いね。子どもたちに分けるのはこれだ。僕なら『月果』を添える。夜露を吸った果実で、酸味が優しく脂を洗い流してくれる」
もうひとつ、と思い出したように続ける。
「あと『森の花酢』かな。花蜜から作るさっぱりした酢で和えれば、祝祭の席にもぴったりになると思うんだ」
「背肉は俺がもらった!!」
グランツが豪快に手を伸ばす。口に放り込み、瞬間に目を見開いた。
「おお、旨みが爆ぜる! やっぱこれだ! 酒が進むわ!」
豪快にジョッキをあおり、髭を揺らして笑う。
「付け合わせなら『黒鉄麦のパン』だ! 肉汁をたあぁぁぁっぷり吸わせてな。それに『火竜胡椒』だろ。辛みと燻した香りが肉の旨みを倍にする。これで飲めば、止まらんぞ!」
ガハハとどんどん肉を口へ運ぶ。簡単には止まりそうにない。
「ほな、うちは腿いかせてもらうわ」
カリンが腿肉を頬張り、瞬時に目を丸くする。
「うっわ、濃い! なんよこれ! 噛むほど赤身の旨みがじゅわっとくるやん。こぉれは力強い!」
彼女は指を折りながら元気よく言う。
「これなら、せやな。『赤砂漠の香草飯』を添えたいな。スパイスがぎゅっと効いた炊き込み飯や。肉の濃さと合わさったら最高やで! もうひとつは『風乾きの果実』やて、やっぱ。砂漠で水分を飛ばした甘酸っぱいドライフルーツ。口をさっぱりさせてくれるんや」
凪斗も恐る恐る尾の肉を口へ運ぶ。柔らかく脂が広がり、赤身は穏やかで、確かに甘みが舌に残った。噛みながらふと考える。
――もし自分なら、何を添えるだろうか。
「俺は……やっぱり白いご飯が欲しいです。肉汁をかけたら、絶対に美味しいと思います。味を壊すかもしれないけど、焼き肉のたれをつけて、お米にバウンドさせて食べる。卵の黄身を載せても、絶対に美味しいだろうな……」
素直な提案に、皆が一瞬ぽかんとして、それから一斉に笑った。
「なるほど、それも立派な付け合わせです」
ツユが目を細めて頷く。凪斗はその味を想像しながら、尾の肉をゆっくりと味わう。
「凪斗君らしいですね。全ての材料を揃えられたら、ぜひ試してみましょう」
「そんときゃ俺も食うぞ!」
「もちろん僕もです」
「わしもじゃ」
「ずるい! うちもやで!」
笑い声に包まれながら、肉の皿はみるみる減っていく。部位ごとの違いが話題を生み、付け合わせの想像がさらに空腹を刺激した。
皿の上の肉が少し落ち着いたころ、ツユが小さな壺と木皿をそっと卓に置いた。壺には粒の大きな塩が光り、木皿には鮮やかな香草が盛られている。炭火と混ざり合うその香りに、思わず鼻先がひくついた。
「次は空塩と香草をお試しください。調味が加わると、肉の印象は大きく変わります」
凪斗は指で塩をひとつまみ、背肉にぱらりと振って口へ運んだ。
「……甘い。さっきよりも輪郭がくっきりします。空塩をかけるだけで、こんなに変わるんですね」
「塩には可能性があります。それに、この空塩は、世界を漂う塩分が空に昇ってできた塩ですから。何にでも合うんです」
「なるほど……。塩はシンプルですが、旨味を引き出すのが抜群に美味いんですね」
「だろう?」
グランツがにやりと笑う。
「肉は塩で育つんだ。俺たちの鉱山じゃ『黒炭塩』を使う。舌に煤の香りが残って、肉の力を二倍にしてくれるだ。すごいだろ?」
「ほぉ、それは豪快やなぁ」
カリンが興味津々で話に入る。
「うちが砂漠で食べたんは『赤砂塩』。ちょっと辛みがあって、暑い日でも肉が進むんや。香辛料と塩の中間みたいな感じやな」
「わしらは『山霧塩』をよく使うぞ」
モーガがゆっくり口を開く。
「湿り気を含んでおってな、刺々しさがないんじゃ。子や年寄りにも優しい」
皆がそれぞれの塩を思い浮かべるように語り合う。
その間に、凪斗は次に香草を試した。青い葉を一枚、肉にのせて噛む。鼻に抜ける爽やかさが、濃厚な脂をすっと切り、後味を軽やかにした。
「……すごい。肉が軽くなったみたいです」
「それが草の力だよ」
レイファスが穏やかに頷く。
「森では『露花タイム』を使うんだ。夜露を含むから香りが柔らかいからね。もうひとつは『月桂の葉』。祝祭の大鍋にも欠かせないものなんだよ」
「草か……草……それならうちは『赤砂漠ミント』やな! 砂漠でもあるんやで? 珍しいやろ?」
カリンが勢いよく手を挙げる。
「これがまた、肉と合わせると、口ん中がひんやりするんよ。ミントの名は伊達とちゃうで。あと『金砂クミン』も捨てがたいな。香りが濃くて、肉が一気にスパイス料理に変わるんや!」
「背肉に草を合わせると……こいつは酒が止まらんぞ!」
グランツが豪快に笑い、ジョッキを揺らす。
「香草は肉の弟分だな。つまんで一緒に飲むと最高なんだ」
「わしは『風鈴草』が好みじゃな」
モーガは目尻を細める。
「刻んで放り込むと、ふんわりとした風が口の中に吹く。肉の重さを受けた後に、ふっと楽になるんじゃ」




