第67話 右手
朝日を浴びたジェニシアが、空から舞い降りるようにわたくしたちの目の前に着地しました。
まばゆいばかりの白い装甲と、機動力を重視しているのが見てとれる細身のシルエット。そして背面と脚部に多数のバーニア類がついていたりと、どこかグローシアに似た雰囲気があります。
「何かご用ですか? ジェニシアに乗った方」
完全に及び腰になっているスキア隊の先頭に出ながら、わたくしはこちらを睥睨しているジェニシアに声をかけました。
「女。あれは私のものだ」
聞き覚えのある声、そしてジェニシアが指差した先はトゲのないウニこと、アラフニス2のコアブロックがありました。
この声……わたくしに目隠しを外せと言ったり、アリシアと幼馴染ですオーラを出してみたりした第3王子ですわね?
神聖エクソシア大公国終身独裁官兼エメラルドアイ保全活動家及びエクソシア騎士団団長及びカラネア首領のヴィアリス=エクソシア女公爵を女呼ばわりするとは、なんて無礼な男なんでしょう!
……こいつの名前はなんでしたっけ? ……忘れてしまいましたわ。まぁ些事ですわね。
「あれはわたくしの獲物ですから返すわけがありませんわ。それとも力尽くで取り返してみますか?」
「ならばそのように」
《《全身の装甲》》が緑に輝くとジェニシアは左右の腰の鞘から2本の剣を引き抜き、わたくしに斬り掛かってきました。詳しい原理はわたくしにはわかりませんが、ジェニシアはピュアマギコークスを使った装甲を持つ機体です。
「ハッ!」
今までに相対したことのない速さです。流石は第1世代機です。グローシア並に速いですわね。
振り下ろされるジェニシアの剣を避け、払い、反撃を繰り出しますが、お互いになかなか決定打には至りません。この剣にもピュアマギコークスが使われていますから、凄まじい切れ味を持っているはずです。きっとギコギコせずとも切れてしまいますわね!
「なかなかやるではないか、女!」
「あなたもそんなにやれたんですのね? 第3王子さん」
剣と拳の応酬を繰り広げながら煽り合いを続けていると、突然第3王子は距離を取ると、なんだかややかっこいいポーズを取りながら薄ら笑いを始めました。
「ふふふ……第3王子か……」
「なんですの? 急に笑い出して。気持ち悪い男ですわねぇ……」
「無知で哀れな女だ。何も知らぬくせに反逆などしおって」
「ふふふ……わたくしはムチムチではなくちゃんとくびれていますし、胸も大きいですわよ?」
「女、私の話を聞いていたか? いや、急がねば……」
なんだかよくわかりませんが一人で話を進める第3王子。2本の剣を構え直すと、わたくしに再び突進し、先ほどより大振りで剣を振り下ろします。バカの一つ覚えですわね!
「当たりませんわよ!」
わたくしがそれをかわすと、ジェニシアはグローシアを通りすぎ、そのまま後ろに突進していってしまいました。ここでわたくしははたと気がつきます。あいつ、後ろのアラフニス2のコアブロックのところに行くつもりですわね!?
「止めろ! 鹵獲機を守れ!」
前衛のスキア隊に指示を出しながらジェイムス隊長のスキアがジェニシアの前に立ちふさがりましたが……。
「邪魔だ」
その言葉とともに緑色の剣閃がきらめくと、隊長のスキアは声をあげる間もなく細切れにされてしまいました。マギコークスクリスタルってピュアでない物も、はちゃゃめちゃに硬いんですけど、それごと細断されてしまいました。ジェイムス隊長は何かと色々と……とにかくお世話になった人です。惜しい人を亡くしましたわ……。
「隊長の仇ですわよ!」
アラフニス2に迫るジェニシアの背に蹴りをいれてやりますが、想像以上の装甲の硬さです。
「不敬な! だがッ!」
グローシアに蹴られながらもアラフニス2のコアブロックの前に着地したジェニシアは、コアブロックの近くで作業をしていた騎士団員など歯牙にもかけず、手に持った剣を上段に構えました。
「大義であった」
わたくしは勘違いしておりました。第3王子の目的は奪還ではなく破壊だったのです。
振り下ろされる剣。同時にエネルギーの奔流がジェニシアに襲いかかりました。
「なんだっ!?」
それはシャノンの乗ったヘーメラーのエネルギー砲による攻撃でした。しかしそれでもジェニシアの装甲にダメージを与えられません。ひるませることしかできなかったのです。本当にはちゃめちゃに硬いですわね!?
「どけッ!」
「いい加減にしなさいっ!」
その隙に追いついたグローシアの拳とジェニシアの剣が交差します。甲高い金属音が辺りに鳴り響きました。
「ぐっ!? ……チッ! 時間だ」
ジェニシアはブースターを吹かすと、空へと飛び立ちました。なんだかよくわかりませんが第三王子は引くようです。ムカついたので追加で蹴りをくれてやりましたが避けられてしまいました。おガッデム!
「覚えたぞ、女」
「次会う時はその覚えた脳みそを握り潰して差し上げますわね!!」
「そのなくなった右手でか? 面白い女だ。……フフハハハ!」
笑いながら去っていくジェニシアの背を見ながら、わたくしは第3王子の最後のセリフを反芻していました。……なくなった右手?
ふとコクピットのモニターからグローシアの機体を見ると、そこにあるはずの右手がありませんでした。……え?
「わ、わたくしのグローシアがあああ!」




