第60話 2人目
驚くべき報せがもたらされてすぐにわたくしは現地へと向かいました。こういう時に《《根回し》》をしておくと、何の心配もなく出撃できるというものです。
占拠された監視所に近付いていくと、こちら向かって1機のMAがやってきました。
「そこのMA止まりな! どこのもんだい!」
大音量の誰何でわたくしは草原に降り立ち、停止しました。わたくしに声をかけた人物はその声からして、妙齢の女性のようです。
現れたその機体は紫を貴重とした機体で、どこか見覚えがあるシルエットをしています。どこで見たんでしたっけ? なんだかゴテゴテと金色の装飾が追加されているせいでわかりにくいですわねぇ……。
「その白い機体……あんたがエクソシアの魔王かい? 私は機極術、四御の紫后! うちの玄冥が世話になったみたいだね!」
あ~! 『神通』ですわね! 二条綾子が乗っていた機体と同じものがベースなのでしょう。たしか接近戦向けに開発された機体だと言ってましたものね。桜照皇国では、刀剣を持たせるのが一般的みたいでしたけど、格闘戦もできるのでしょうか?
「なんとか言いな! うちの看板に泥を塗ってタダですむと思ってんのかい!」
「泥を塗るも何も、わたくし襲われたので返り討ちにしただけですわ。正当防衛です。それならうちの施設を破壊してくれた落とし前はどうつけてくれますの?」
「はんっ! そんなもん報復だよ! こっちは退避勧告までしてやったんだ! 感謝しな!」
「報復! なんと聞こえのいい言葉でしょうか────!」
「はぁ?」
「わたくしは報復と復讐に並々ならぬ思いがありますの! すなわち、あなたも今わたくしの報復の対象になったということですわ!」
「あんた頭がおかしいのかい?」
報復の連鎖を終わらせるには、相手が破滅するまで叩きのめさなくてはいけません! 失敗すれば次に報復を受けるのは自分なのです! え? 何もされてないのに報復してるって? だまらっしゃい!!!
「御託はいいからかかってきなさい。あなたのチアリーディング部もしっかり滅ぼして差し上げますわ。そういえばあの玄冥とかいう男は、ピーピー泣きながら情報を全部吐いてくださいましたわよ?」
なんだか久しぶりにぶん殴りたい気持ちが溢れだしてきましたわ! グローシアもそれに応えるように調子がいいです。コクピットの中に緑色の光が溢れます。感応器官から気持ちよくなるタイプの脳内物質がドバドバ出てくる感覚、癖になっちゃいますわ~~~!! もうなってましたわね!
「あんな男どうでもいいんだよ。機極術の創始者がなぜこの……」
「だから御託はいいんです。それとも何かを待ってますの? しょうがないですわねぇ……」
地を蹴り、バーニアを吹かして紫后のMAに肉薄します。肉薄するだけで攻撃は致しません。殴りたい気持ちをグッと我慢ですわ!
「ほら、かかってきなさいな!」
「はやいっ!? っだが!!!」
目の前まで迫ったグローシアに紫后もすぐに対応しました。なんだか上手く距離を取ると、わたくしのグローシアの側頭部にハイキックをしてきたのです。わぁ! なんだか格闘技っぽいですわ!
「おっと!」
「何ッ!?」
紫后の蹴りをグローシアの拳で受け止めますと、わたくしは手加減したパンチを放ちます。するとそれを受け流した紫后は、流れるようにカウンターのパンチを繰り出してきました。
「この程度ッ!」
「素晴らしいです! その調子ですわ!」
念願のMAでの格闘術を使える方を見つけました。わたくし感無量ですわ!
わたくしはできるだけチアリーディング部の方が傷つかないように殴り合いを続けます。お互いの攻撃は当たりませんが、攻撃の応酬はどんどんと激しくなって参りました。わたくしも今見た紫后の蹴りを真似してみたり、受け方を真似してみたり、殴り方を真似してみたりと勉強させて頂きます。
しばらくそれを続けていると、紫后は大きく距離を取りました。明らかに動揺しているようですが、わたくしのためにもう少し頑張って頂かなくてはなりません。
「な、何なんだお前? 私を試しているのか!?」
「いえいえ、お気遣いなく。その調子ですわよ」
わたくしは再び紫后と距離を詰めると、次はギリギリ紫后が受けられる程度の攻撃を繰り出します。この調子でこの方のすべてを教えて頂かなくてはいけません! たまには教えを乞うのも悪くないですわね!
「や、やはり私の技を! バカにしているのかい!?」
「今だけは師匠と呼んで差し上げますわ! どんどんいきますわよ!」




