第33話 また決闘
ごきげんよう、大会3日目です。いきなりですが、わたくしはこの大会に飽きてしまいました。昨日はベアちゃんには逃げられますし、わたくしのやる気は風前の灯火。いえ、それどころか水中の灯火です。
今日の対戦相手はフォトゥネス教国の5年生。大会優勝候補だそうですわよ。この前のチュートリアル襲撃事件の際に、ぶっ潰しましたたMAの中に居たかもしれませんわね。
ウィングリー寮の格納庫に行く途中、運営委員を引きつれたベアちゃんとすれ違いました。昨日の借りは必ず返してもらいますからね……!
「やあ、次はヴィアリス嬢だったか。頑張ってくれ」
「ごきげんよう、ベアちゃん。頑張るも何も相手が弱すぎてつまらないですわ。こんなことなら魔獣狩りでもしていた方がマシですわね」
「あはは……」
乾いた笑いを漏らすベアちゃんに手をふりふりとしながら、わたくしは一団の脇を通り抜けます。何やら後ろの取り巻きの中に、オーラが赤くなってた方がいらっしゃいましたが一体何なんでしょうか? もしかしたらわたくしと同じトーナメントに居る方かもしれませんわね。まぁどうでもいいことでしょう。
ベアちゃんと別れて格納庫に移動すると、さっさとスキアに乗り込みます。そういえば今回の試合が、この大会初のスキアVSスキアだそうです。ですので、それなりに注目を集めているようですわね。
いつものウグイス嬢の無感情なアナウンスが流れ、わたくしと対戦相手は入場します。荒野の真ん中にスキアが2体並びます。ミラーマッチですわね!
「両者向かい合って並んでください」
今日の審判は女性の方のようです。わたくしの担当になるのは初めてかもしれません。
わたくしはハッチを開け、ヘルメットを脱ぎます。髪の毛の量が多すぎて、この瞬間の開放感がやべーんですわよね。被り直すのが面倒なのですけれど。
対戦相手はかなり老け顔の男でした。5年生って二十歳ですわよね? それにこの人オーラが赤いんですけど! わたくし何かやっちゃいました? 正直なところ、心当たりしかありませんけれど……。
「ごきげんよう、よろしくお願いしますわね」
「ふんっ! 貴様が手折り屋などと呼ばれる女か」
「はい?」
これ挨拶するんですわよね? 実際すごく失礼なのでは?
「聞いているぞ。何やら幼気な少女たちをたぶらかし、不貞を働くのみならず、生徒会長や聖女様までたぶらかしているそうだな!」
なんと言いますか、ギリギリ否定しにくい言いがかりはやめて頂けませんか? しかし、1つだけ確実に言えることがあります。
「わたくしは、《《まだ》》その方たちに不貞は働いていませんわよ?」
「嘘を吐け!!!」
「オホホ……別にあなたにどう思われようと構いませんけど。まぁ弱い犬ほどよく吠えると言いますものね。なんなら決闘でもして聖女様に近付けなくしてみてはいかがかしら?」
「言わせておけば! 審判! 決闘だ!」
この学校の方たちは、すぐ決闘してくれるから楽でいいですわね。1回決闘するごとにMAもらっていたら、わたくし今頃億万長者かもしれません。
「じゃあわたくしが勝ったら聖女様を頂きますわね」
「お前はバカか? 釣り合うわけがなかろう?」
「ではピュアマギコークスクリスタルもお付けしますわよ? この大会の景品になっているものと同じレベルのものです。わたくしの私物ですから、どこかのバカのように揉めたりしませんわ」
「…………少し待て」
えっ!? そこマジで悩みますの? 確かにピュアマギコークスクリスタルはお金で買えるようなものではありませんけど……。
フォトゥネス教国のシナリオでは、反シャノン派の派閥がシャノンを追放するルートもありました。基本的にはフォトゥネスルートでは、聖女様と一緒にフォトゥネス教国を率いていくのですけれど、それとは別にシャノンを追放し、偽聖女とフォトゥネス教国の実権を握るために暗躍するルートもありました。この男は反シャノン派の男なのかもしれません。
コクピットの中で許可を取るために男はなにやら通信していますが、まぁ流石に無理ですわよね?
「許可が出た。その条件で決闘を受ける」
「マジで言ってやがりますの!?」
「そんなバカみたいな格好のMAに俺が負けるわけないからな。貴様が賭けたPMCCがハッタリだとしても、その対価をウィングリー王国に出させるだけのことよ」
ああ……わたくしの今日のスキアのコーデ、両手に盾でしたわね……。毎日剣をひん曲げて帰っていたら、剣を貸してもらえなくなってしまった公爵令嬢がいるらしいのです。「余ってる盾ならいいですよ」と言われて、それを素直に持って来た公爵令嬢もいるらしいのです。
……なんだかイライラしてきましたわね!? フォトゥネス教は聖女聖女と言っておきながら、すぐ聖女を物扱いしてすげ替えたり使い捨てたりしますものね!!! わたくしフォトゥネスルートをプレイするたび、イライラしっぱなしでしたもの! わたくしがシャノンを幸せにしてみせますから!!
どうせ負けても次の聖女を決めればいいと思ってますのよね! 原作でもそうでしたし! どうせ次はあの緑髪の女がなるのでしょう!?
わたくしの女(予定)に無体を働くものたちに天誅を!!!
「ルールの確認です。制限時間は15分。行動不能、頭部の破壊、降参で決着します。時間切れの場合は運営委員会が合議して判定します。決闘を伴う試合では、パイロットを死亡させても失格とはなりません。ご注意ください」
「承知した」
「は~いですわ~」
お互いにコックピットに乗り込むと、開始位置へ移動します。
胸糞男のスキアは、剣と盾を持ち、肩のウェポンラックにアサルトライフルを2丁装備しています。
一方わたくしは、両手に盾と盾を持ち、肩に何もつけていません。……まぁなんとかなるでしょ。
しばらくするといつものウグイス嬢のカウントダウンが始まりました。
「3……2……1……開始してください」
開幕、敵スキアがブースターをを全力で吹かしながら突っ込んできました。えーと……わたくしって、こんな猪に負けるレベルだと思われてますの?
敵スキアの肩から放たれるアサルトライフの弾を盾で防ぎつつ、敵を迎え撃ちます。弾が盾に当たってチュインチュインと音が鳴ります。
「えいっ!」
肉薄したところでとりあえず1発盾でぶっ叩いてみました。すると敵スキアは大きくのけぞって、たたらを踏んでいます。えっ、弱……?
「こんな腕でわたくしに決闘を挑むなんて頭が超おバカなのかしら?」
「うるさい! 奸婦めッ!」
わたくしのお安い挑発に乗せられて、単調に振り下ろされた剣を左の盾で受け流します。返す刀……盾で、敵の腕の付け根にわたくしの持つ盾の角を突き刺して差し上げます。
「えいえいっ!」
グシャリと鈍い音がして、敵スキアの右腕の付け根の関節が壊れ、腕がもげました。わたくしが思っていたよりもスキアの防御力は低いのかもしれません。でも機動力とのトレードオフですからバランスが難しいですわよね。この戦いを翠蘭が見ていたら、渋い顔をしたかもしれません。
「何っ!?」
「えーいっ!」
隙だらけの敵スキアの盾をわたくしの盾で外に押して逸らします。そして再び盾の角で敵の左腕の付け根を殴りつけますと、またもげてしまいました。盾ってもしかして武器なのではなくって……?
リロードの終わった肩のアサルトライフルがわたくしに向けられようとしますが、それも盾で叩き壊しておきます。
「バカみたいな格好のMAに負けたもっとおバカな方、降参します?」
「するわけないだろうが!」
往生際の悪い男は、両手と肩の武器をなくしても、わたくしを蹴ろうとスキアの脚をバタバタと振り回します。流石に温厚なわたくしも、このバカにはイラついてきてしまいました。駄々をこねる子にはお仕置きです!
「別に死んでもいいですけど、死なないでくださいねー? と一応申しておきますわ!」
盾の角で、敵スキアのコクピットハッチをぶん殴って差し上げます。ゴン! といい音がして、ハッチはべっこり凹みました。さらにもう1発殴ります。ギリギリ死なない程度に潰してあげましょう。潰れたらごめんなさいね?
「や、やめろ! ごあっ!?」
「これはシャノンの分! これはバカにされたわたくしの分! これは雑魚に時間を取らされたわたくしの分! そしてこれはわたくしの分ですわ!」
3発目くらいで何も言わなくなってしまいました。つまらないですわね。
多分きっと死んでいないはずです。最後にスキアの首を落として差し上げれば、これにてミッションコンプリート! わたくしの勝ちですわ~~~!!
この日、わたくしのあだ名に「魔王」が増えてしまいました。まぁわたくしは狭霧や枯れた柳の幹ではありませんからね! オホホ!




