第32話 対価
「それでこれは何なんだ?」
着替え終わった会長は、ニット地の白いタイトなワンピースを着せられていました。必死にミニ丈のスカートの裾を手で伸ばそうとしながら、わたくしをジト目で見ています。
「……翠蘭を思い出す。やはり足の長い女はもっと出していくべき」
「それに否やはありませんが、なぜわたくしまで……?」
わたくしは薄めの紺色のジャケットを着せられ、グレーのスラックスに黒いハイヒールを履かされました。目隠しも外されてしまい、サングラスに交換されています。髪も編まれて巻かれて、肩口辺りでまとめられています。
「……これで身長差もなくなった。これで私の仕事は終わり」
「それで着替えて何をすればいいんだ?」
「あら、言いませんでしたっけ? デートしますわよ、デート」
「デ、デートなのか? 私は午後は空けておけとしか聞いていないぞ……」
「そうでした? まぁいいですわ」
そう、わたくし翠蘭のせいで目覚めてしまったのです。背の高い女を連れ回すのが楽しいということに……。
「未夢、本当にありがとう。ではベアトリス、行きますわよ」
「……埋め合わせ忘れないでね。いってらっしゃい」
「あ、ああ。ありがとう、未夢さん」
サロンから出る時にまたロマンスグレーの執事の方とすれ違ったのですけど、未夢を見た時よりも会長を見た時の方が驚いてましたわね。そして顔を真っ赤にする会長……。これが楽しいんですわよねぇ……うふふふふふ……。
◇────────────────◇
それからわたくしたちは未夢とサロンの入り口で別れると、闘技大会の会場に向かいました。
いつ以来かわからないくらいに久しぶりにパンツスタイルですけれど、なんだかとても懐かしい感じがしますわね。わたくし、前世ではパンツスタイルだった気が致しますものね。……いえ、スカートの訳ありませんわね!?
ヴィアリスになってからというもの、スカートしか穿いたことがありませんでしたから。ヒールは履き慣れているのでいいのですけれど、隣を歩くベアトリスの腰の位置が高くて歩きにくくて辛いですわね。
「あの、恥ずかしいんで腰を抱かないで欲しいんだが……」
「うるさいですわよ。あなたは今日1日わたくしの女なんですから、大人しく抱かれていなさい」
「わたくしの女……?」
大会会場へ向かう間に、たくさんの方たちとすれ違いましたが、皆様ベアトリスをガン見しています。理由はわかります。ベアトリスの胸の谷間が出ているからですわね。未夢はいい仕事してますわ。
闘技大会のスタジアムベンチは基本的には自由席ですが、貴賓席だけは別に用意されています。よく忘れられるのですが、わたくし一応公爵令嬢なので……。侯爵令嬢ではありませんからね!!!
折角ですし今日は貴賓席を利用することに致しましょう。本日は両親は来ていないようです。父のお仕事が忙しいみたいなんですのよねぇ……。最近体調も悪そうだし、大丈夫でしょうか? リュドヴィックとまた揉めたんですって? ほんと嫌ですわねぇ……。
「もっとこちらにいらっしゃい、ベアトリス」
「わ、私が貴賓室に入って大丈夫なのか?」
「あら? いつもはどこで見てますの?」
「運営委員会のテントがあるからな」
ここで知ったのですが、ベアトリスは平民と言いますか庶民だったのです。要するにベアトリスはただの成績優秀なエロい女と言うことですわね。だから凌じょ……大変な目に遭わされるんでしょうか?
「それで私は何をさせられるんだ? こんな破廉恥な格好をさせられて……」
「破廉恥なのはあなたの体でしょうが! とりあえず一緒に観戦致しましょう。わたくし、見たいカードがありますの」
2試合ほど量産機同士の泥仕合が続き、やっとわたくしが見たかったカードが始まりました。主人公VSアリシアの対戦です。
「級友の応援かい? 意外だね」
「わたくしは可愛い女にはとても優しいですからね。土下座1つでMA返して差し上げたのはどこの誰だったかしら?」
「ぐぬっ!? ……はい。ヴィアリス様はお優しいです……」
「ヴィアでいいですわよ。わたくしベアちゃんって呼びますから」
「それで私に何をさせるつもりで……」
「はいはい。始まりますわよ」
ミニスカートの裾が気になるようで、しきりにニット地のスカートを伸ばしています。……もしかしてわたくしの回りって、ぽんこつ女しか居ないのかしら? とりあえずこのけしからんふとももを撫でておきましょう。
「3……2……1……開始してください」
いつものウグイス嬢のアナウンスで戦闘が始まりました。
開幕地味なアサルトライフルの撃ち合いから始まり、弾切れからの接近戦と言う、いつものお寒い流れです。実弾を使わない射撃戦ってあまり意味ない気がしますわよね。
アリシア嬢も善戦していましたが、残念ながら機体性能の差もあり、最後は主人公が接近戦を押し切っての勝利となりました。
アリシア嬢にはフォトゥネス寮にスキア売ったことについて、ちくちく言葉を頂くかもしれません。最近アリシア嬢が辛辣で怖いですわ……。
「お友達は残念だったね」
「ええ、機体性能の差も大きかったですわね」
と言いながらも、思ったより主人公が強いことに、わたくしは驚いていました。これくらい強いなら、お膳立てしてあげれば優勝するんじゃないでしょうか?
「さて、見たいカードも終わったことですし、二人っきりでゆっくり休めるところに移動致しましょうか」
「ん? それはどういう意味なんだ?」
訝しげにわたくしの顔を見るベアちゃん。そのままの意味ですけど……?
「わたくし、女の子が好きなんです。これからあのMAの代金分をしっかり体で払ってもらいますわよ。今日はお泊りになりますから、寮に連絡しておくんですわよ?」
「……ん? えっ? そういうことなのか!?」
「なんだと思ってたんですの? わたくしできれば合意の上でイチャラブがいいんですけれど、無理矢理がいいってベアちゃんが言うのなら善処致しますわよ」
「ヴィアリス嬢、破廉恥だぞ!!」
「破廉恥なのはあなたの体だと言っているでしょうに!」
今思えば、この時のベアちゃんの声が大きかったせいで、その人物をおびき寄せてしまったのでしょう。わたくしの感応器官を持ってしても、その人物が静かに接近してきていることに、声をかけられるまで気が付いていませんでした。
「何していらっしゃるの? ヴィアリスさん」
「……はぇ?」
わたくしが振り返ると、そこには笑ってない笑顔を顔に貼りつけた聖女様が立っていました。スキアを売りつけてから、ちょっと仲良くなったのですけれど、こんな顔を見るのは初めてです。
「騒々しいですよ。怪しい二人組が貴賓席にいると聞いて来てみれば……。それに生徒会長まで何をやっているのですか?」
「いえ、これは正当な対価ですのよ?」
「そういう問題ではありません。公共の場でこのような……」
それからわたくしとベアちゃんは、こってりとお説教を受けることになりました……。おのれシャノン! いつか絶対ひーひー言わせてやりますからね!




