第29話 ファンサ
その日、わたくしはゴールデンウィーク中でしたが、皐月学園を訪れていました。闘技大会参加者向けの説明会に参加しなければいけなかったからです。
恙なくつまらない説明会も終わり、アリシア嬢とお喋りしながら会場から出たところで、後ろから声をかけられました。
「あの、ヴィアリス=エクソシア様、少しよろしいでしょうか?」
「はい?」
わたくしが振り返ると、そこに居たのは黒髪の小柄な少女でした。最近自分でもよく忘れてしまうのですけど、わたくしも少女と言われる年齢ですわよね? あ、わたくしは美少女でしたか。
それにしてもこの子、どこかで見かけたような? 思い出せませんわね……。
「ごめんなさい。どこかでお会いしたことがあったかしら?」
「お知り合い?」
能天気にニコニコしているアリシア嬢がわたくしの隣に並ぶと、黒髪の少女は口をハッと開いて固まりながら、キラキラとした瞳でわたくしたちを見ています。
おそらく初対面だと思うのですけれど、この少女のオーラが青いのですわよねぇ。話したことがない人からの、強めの好意ってちょっと怖いですわよね。まぁわたくしは美少女なのでしょうがないのかもしれませんけども。
「あっ! いえっ! ないです! 私《《たち》》はエクソシア様をお慕い致しておりまして、この後お茶会を開くので是非参加して頂きたくて……」
「へ~! お茶会とか本当にあるんだ」
「は、はい! 是非ハロウェル様もご一緒に!」
アリシア嬢のド平民リアクションは一旦置いておくとしまして……。何やら顔を真っ赤にしながらわたくしたちを誘う少女。……これってつまり……わたくしのファンガールってことですの!?
も~~~~しょうがないですわね~~~~!!!! わたくしはファンには優しいことで界隈でも有名なんですのよ!!!!
「わたくしは参加してもよろしくてよ。アリシア嬢はどうします?」
「私が参加してもいいのかな? お邪魔じゃない?」
「そんなことないです! 是非ご一緒に!!!」
目を輝かせながら迫る黒髪ちゃんに、わたくしたちは気圧されながらも案内されて歩き始めます。それでこの子、カルヴォノ・マギストリアに居ましたっけ……?
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「それでなぜわたくしたちは囲まれていますの?」
「私に聞かないでよ……」
ファンガールかと思って着いて来てみれば、ファンガールの群れがいました。お茶会とは聞いていましたが、10人以上も居るとは思いませんでしたわ。
アリシア嬢とわたくしは、ソファーに並んで座らせられ、すぐに淹れたての紅茶が用意されました。あ、牛乳頂けます?
使われていない教室の中で、ファンガールたちは2つのテーブルに別れて座っていいます。わたくしたちは一段高い、教壇に置かれたソファーに座らされています。見世物かしら?
「まぁお茶がおいしいからいいですわ」
「ヴィアリスさんは人気者なんだね……」
「まぁわたくし美しいですから!」
「喋らない方がもっと人気出ると思うな」
「アリシア嬢も段々と遠慮がなくなってきましたわね……」
会話を重ねるごとに、遠慮がなくなっていくアリシア嬢に戦々恐々としながら、お茶菓子をポリポリと食べていると、先ほどの黒髪の少女がわたくしの前に立ちました。
「本日はお越し頂きありがとうございます。わたしたちはエクソシア様をお慕いしている者の集まりで、闘技大会に参加されるということでささやかながら応援させて頂ければと思う次第です」
ぺこりと頭を下げる少女。少女は桜照皇国の松浦 静子と名乗りました。あー……どこかで見たと思いましたら桜照皇国ルートに出てくる子でしたのね。
桜照皇国ルートは、とある封印を巡っての対立がテーマでしたものね。封印を守りたい者たちと、封印を解きたい者たちが対立していて、寮内でもそれが行われているというお話でしたっけ。
この子は封印を守りたい派閥の家の子だったような……?
ヒロインの二条綾子は、封印を守る派閥だったのですが、二条家は解除派に鞍替えした家なのです。その辺りのいざこざで振り回される二条綾子はなかなか不憫でしたわね……。
それならこのファンガールたちは桜照皇国寮の集まりかと思ったのですけど、彼女たちは寮の垣根を越えて、あらゆる寮の少女が参加しているようでした。まさか上級生まで居たのには驚かされましたが……。
「皆様ありがとうございます。頑張りますわね」
ニコッと笑いかけておきます。ファンサですわよ! 正直なところ優勝する気はないのですが……。
キャー! と黄色い声があがりました。ふふふ……悪くないですわよ! もっとチヤホヤなさい!
「あなたもこっちに来なさい」
司会進行として、わたくしの隣に立っていた松浦嬢をソファーに座らせます。
「ええっ!?」
「ずるいわ!」「会長ずるい!」
非難の声があがりますが、わたくしは気にせずに2人掛けのソファーに3人でギチギチに詰まりながら座りました。
「ふぁぁ……いいにおい……」
「ヴィアリスさん、もうちょっとそっちに詰めてよ」
「あらあら? 両手に花ですわね」
折角ですから二人の腰に手を回しておきます。それにしてもこいつらほっせぇ~ですわねぇ。ちゃんと飯食ってんですの?
「食べてるよ! どこ触ってるの!? っていうか自分も細いでしょ!?」
「あら、声に出てました? まぁわたくしはこういう人間ですから、諦めて揉まれててください。今度お食事に連れて行って差し上げますからね~? アリシアちゃんは何が食べたいのかしら?」
「折角集まってくれた人たちの前でくらいちゃんとしてよ! だから揉まないで!」
あらあら、強めの抗議を頂いてしまいましたわ。確かにファンガールたちの夢は壊さない方がよかったかもしれません。アイドルも大変ですわ。
「思ってたイメージと違いますけど、これはこれで……」
満更じゃなさそうだったので揉んでおきます。わたくしの意志は揺るぎません。
なぜか最終的に、アリシア嬢とわたくしが左右に座って、真ん中に座ったファンガールたちと記念撮影をすることになりました。まさかここでもインスタントカメラが出てくるとは思いませんでしたわ……。




