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第26話 篭絡

 時は4月下旬。世間ではそろそろゴールデンウィークも始まろうかという頃でした。


 わたくしは、再びフラワーサロンを訪れていました。色々と下ごしらえをしていまして、ようやく準備が整ったので訪れることができましたわ。


 皐月学園の生徒には、マギコークス採掘のノルマがあります。本来は学業よりもそちらが本分ですものね。まぁここは学び舎に見せかけた採掘施設ですから……。


 わたくしは夜月イーリンから持ち込んだ、エフカリストの量産型バージョン「スキア」を酷使して、入学から2週間で1年分のノルマを終わらせました。いやぁノルマは強敵でしたわね。


 一般の生徒さんたちは、各々が寮軍に参加してノルマを稼ぐらしいのですけれど、わたくし参加したくなかったので……。


 サロンに入ると、すぐにお目当ての人物が見つかりました。いつもは明るい彼女もいまだに落ち込んでいる様子です。流石にちょっとやりすぎちゃいましたわね……。わたくしったら、柄にもなくついテンションが上がってしまって……。


「ごきげんよう、シャノン様。お隣よろしいですか?」


「あぁ……エクソシア様ですか、どうぞ」


 愛機が修復中の聖女様は、見るからに元気がありません。ついでにフォトゥネス寮軍の量産機たちも4分の1が壊滅。カラネアってわるいやつですわねー!


 今日は護衛見習いこと主人公も居ないようですわね。ナイスタイミングですわ!


 向かい合うソファーの対面に座ったわたくしは、辺りに人が居ないことを確認すると、聖女様に語りかけます。


「突然ですがシャノン様、わたくし実は陰ながらお慕いしておりましたの」


「えっ? えええ!?」


 叫びながら立ち上がる聖女様。顔を真っ赤にしておりますが、違うんです。そうじゃないんですのよ? いえ、別に間違ってはいないのですけれど……。


 顔を真っ赤にしたまま縮こまるように座り直した聖女様に、わたくしは笑顔で言葉を続けます。


「……聖女様の献身的で慈愛に満ちたお心に、わたくしは敬愛を深くするばかりです。それに何やらお困りの様子……」


「あっ、はい。ありがとうございます?」


 小さくなったままお礼を言い、手で顔を隠しながらもじもじとし始める聖女様。またあざとい女が増えましたわね……!


「わたくし夜月商会にツテがありますの。わたくしが乗っているMA(マギアスピーダ)、名は『スキア』と言うのですけれど、まずはそれと同型を10機。フォトゥネス寮にだけ格安でお渡しできるように取り計らいますわ」


 聖女様の前に、スキアのスペックシート(諸元表)と見積書をそっと置きます。見積書に書かれたスキア1台の価格は、平均的な量産型MAの半額程度。しかも最新型ですから本来の定価は一般的な量産型MAの倍はするはずです。実質75%オフですわ! この機会をお見逃しなく!


 見積書を手に取り、マジマジと熟読する聖女様。当然ですが、どこか疑っているような雰囲気があります。


「なぜウィングリー王国のあなたが、フォトゥネス教国を利するようなことを?」


 まぁそう来ますわよね。


 わたくしは辺りをキョロキョロと見回します。今日のサロンにはあまり人が居ませんから、絶好の暗躍日和ですわ!


 わたくしは静かに立ち上がると、ソファーの対面に座っていた聖女様の隣に座ります。


「えぇ!? 何何何!?」


 意外とおもしれー女なところがいいんですわよね、聖女様って。


「お静かに。あまり大きな声では言えませんの。少しお耳をよろしいですか?」


「は、はい……」


 ……あれ? なんかえっちな雰囲気になっていませんこと? もうっ! しょうがないですわねぇ。わたくしサービスしちゃいますわよ!


「……はぁ……わたくしぃシャノンのことがすきでぇ……」


 ブレス多めの甘々ASMRを直で聖女様のお耳に注ぎ込んでやりますわ!


「ふぁ~!?!?」


「ずっとぉ……お慕い申し上げてたんですの……こっちが左耳ですわよぉ~? それでぇわたくしウィングリー王家が嫌いでぇ……ぶっ潰したくってぇ……うふふ……これ、シャノンとわたくしだけの秘密ですわよ? これでふたりはぁ……共犯ですわよぉ……それでぜひぃ闘技大会でフォトゥネスに勝ってほしいんですの……では次は耳掃除を致しますわねぇ……」


「っ~~~~~!?!?!?!?」


 手を肩の高さまであげた聖女様はそのままのポーズで固まり動かなくなりました。目をかっぴらいてお口をパクパクさせています。指入れたいですわね。


 ああ、わたくしったらこういう大事な時に限って耳かきを持っていませんでした。とても残念ですわ。


「……それでぇ……あの護衛君を闘技大会で……優勝させませんかぁ? そのためにまずはこの見積書をフォトゥネス教の偉い人に渡して欲しいんですわぁ……。ふぅぅ~~~」


「~~~~~~~~~ッッッ!!!」


「シャノンはぁ……敏感で可愛いですわねぇ……。シャノンがぁカラネアに襲われてしまったのはぁ……シャノンが悪いわけではありませんのにねぇ……? わたくしはずっとシャノンの味方ですわよぉ~? じゅ~うぅ……」


「じゅうっ!?!?!?!?」


「これでぇ……フォトゥネス教での立場をぉ……回復してくださいねぇ? そしたらぁ……ふたりっきりでぇ……祝勝会でも致しましょう。ふたりっきりで、ですわぁ……わかったら返事して? シャノン……」


「はひっ!!!」


「じゃあぁ~頼みましたわよぉ~? きゅうぅ~~……」


 しかし残念なことにとってもいいところでしたのに、わたくしたちの後ろにピンクの頭が現れてしまいました。


「あれ? 二人はそんな仲良かったの? 妬けちゃうな~」


「もうっストーンヒル様、邪魔しないでください! もう少しで聖女様が堕ちるところでしたのに!」


「おぇ? お! 堕ちませんから!!!」

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