第22話 感謝
少し夜月研究所の歴史をお話しておきましょう。夜月研究所は元々、翠蘭の父が所有する、マギコークスとMA関連の研究所でした。けれどもスポット内でライバル組織に襲撃され、翠蘭の父は亡くなってしまいます。その遺志を翠蘭が継ぐことになりました。
原作では2周目以降にだけ出現するそのライバル組織を倒すことで、夜月研究所との取引が解禁されます。
ですがわたくしは、そのイベントをすっ飛ばして夜月研究所と取引をしていたんですのよね。順番は逆になってしまいましたが、もちろん件のライバル組織にも《《ご挨拶》》して、その主犯を制裁しておきました。その夜の翠蘭が情熱的だったことは言うまでもありません。役得ですわね!
現在も翠蘭たちは夜月研究所として活動しておりますが、色々──主に違法採掘マギコークスや掠奪品、鹵獲機のパーツですけど──を売り捌くルートも必要になって参りました。自家消費にも限界がありますからね。
そこで立ち上げたのが夜月商会です。完全にカラネアの隠れ蓑ですけどね! オホホ!
とにかく! そんな夜月研究所の集大成とも言える機体が、今まさに! わたくしの目の前にあります! コツコツと素材を集めて甲斐もあり、やっと2周目仕様になりましたわ~~~~~!
ほっそりとして白いグローシアと比べると、ややずんぐりとした黒いMAです。2足歩行型の脚部と背中には大型のブースター。肩の後ろにはウェポンラックも装備されています。素手かチェーンソーかの2択のグローシアとは大違いですわ! これが近代化というものなのですね!
12歳の時に発注、建造した時には、まだまだMAの基礎技術も低く、素材も足りていなかったので性能がよくありませんでしたのよね……。
「断言してもいいが、これが現在製造できる世界最高性能だ。ピュアマギコークスクリスタル2本での増幅率は1600%。通常のマギコークスクリスタルを用いても750%は出せている。しかし、私たちがあこんな高性能機を製造……しかも量産までできるようになるとはな……」
感慨深げな翠蘭と並んで「エフカリスト」を見上げます。エフカリストの意味するところは「感謝」。皆様に感謝を伝えて参りませんとね?
それにしてもどう致しましょうか。わたくしは思わず腕を組み、考え込んでしまいました。
「どうした? 何か気に入らなかったのか?」
「いえ、エフカリストMkー2にするか、エフカリスト改にするか迷ってますの。エフカリストカスタムもいいですわね……」
あれ? そういえばエフカリスト無印は表舞台では一度も活躍の機会がなかったような……?
「なんでもいいだろ? バカらしい……」
「大事なことですのよ!?」
「……別にそのままでいい。エフカリストは可愛い。私が欲しいくらい」
「まぁ未夢ほどの実力者がそう言うのでしたら……。あげませんけど」
「またバカなことしてたらピュアマギコークスクリスタルに嫌われるぞ」
「ぐぬっ!」
痛いところを突かれてしまいました。嫌われたと言うのは、何も比喩ではなく、本当に起こったことなのです。
あの老竜の巣で拾ったレガシーのコンテナに入っていた、ピュアマギコークスクリスタルのことを覚えていますでしょうか? あのチェーンソーと一緒に出たやつです。わたくしあのクリスタルにはとてもとても感謝していたのです。
あのクリスタルはわたくしと翠蘭を結んでくれたのですから。わたくしにはあのクリスタルから「抱けーっ! 抱けーっ!」と老爺の声が聞こえてくる気さえしていました。ゆえに「ノスタルジー」と名付けたのですが……。なぜかわたくしと適応しなくなってしまったのです。不思議ですわねぇ……。
言うこと聞かない悪い子は、闘技大会の景品送りですわよ。
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時刻は夜。今日は単独でエフカリストのテスト飛行です。
え? 寮の門限はいいのかって? もちろん一般生徒は夜間の外出は禁止されております。ですがMAでの出撃と、貴族子息の帰宅は例外です。確認はしておりませんが、他寮を襲撃するのもきっと例外でしょう。
それにしても、ようやくまともな性能の、国際問題を起こせる機体が手に入りました。
いえ、改修前も性能はよかったんですのよ? でもわたくしの操作について来ないと言いますか、入力と出力にラグがあったんですのよね。
グローシアを解析して得られた技術のほとんどが、今では失われた技術のようで、あまりエフカリストの製造にフィードバックすることができなかったのです。今回でなんとか操作系だけでも再現できたようです。まだ少し硬くて重いところがありますが、以前と比べると素直な操作性になりました。
グローシアがパワステありとすると、エフカリストはパワステなしと言えばいいでしょうか? これ、伝わります?
なお、関節をマグネットでコーティングしては? というわたくしの提案は一蹴されてしまいました。悲しかったですわ……。
ただエフカリストは量産機のベース機体でもありますからね。比べるのは可哀そうなのですけれどグローシアと比べるとかなり重く、速度も物足りないのです。ですが現状用意できる性能では最高のものでしょう。翠蘭には感謝しないといけません。
夜空に、エフカリストのバーニアの青白い炎が、まるで流星のように滑っていきます。
今日のテスト飛行の行く先は、皐月学園の方角。……と言うよりフォトゥネス寮軍の採掘作戦の偵察です。恐らくですが、このタイミングで、主人公の初出撃イベントがあるはずなのですけれど……。




