第17話 入学式
あのお排泄物王子に絡まれたあとは特に何事もなく、わたくしは無事に学園に到着しました。個室でサラに膝枕してもらえなかったら、今日はもう帰宅していたかもしれません。
まぁこれはわたくしの勘ですが、第三王子はエメラルドアイ関連の悪事については、知らない気が致しますわね。オーラも黄色かったですし。
第1王子と国王は黒ですわね。残念ながら他国のトップも似たようなものですが……。ああ、あとハロウェル家はもちろん真っ黒です。
列車を降り、駅から皐月学園までの石畳を歩きます。どれだけ身分の高い者でもこの道は歩かねばなりません。そういう決まりなのです。うーん、遵法精神ですわ。
わたくしの前を、ぞろぞろと取り巻きを引き連れた第3王子が歩いているので、わたくしは目立たなくてありがたいですわね。
……と思っていたのですが、わたくしはサラしか連れていませんのに、なぜかジロジロと見られています。不躾ですわね?
さて皐月学園についてですが、この学園は全寮制です。スポットの外縁部にある寮から通学しなければなりません。そのための機関車まで用意されていますからね。
寮のある場所はその国の領土内となっています。スポットを中心に扇状に国土が広がっているイメージですわね。
学園は前世で例えるならば、士官学校に近いのかもしれません。もちろん普通のお勉強も致しますけれど、MAの操縦のあれこれや軍事学についての授業もあるようです。楽しみですわ。
わたくしは当然ながら! 座学は得意な方ですので、授業なんて適当で大丈夫です。天が与えたもうた聡明な頭脳に感謝ですわ。……前世とは大違いですわね。
残念ながらサラとは校門でお別れです。校内には使用人専用の待合室がありますので、そちらで待ってもらうことになります。わざわざサラを連れて来ているのには、とても深い理由があります。
天はわたくしを完璧な存在として創造しました。ですが1つだけ欠点を造られました。それはなんと言いましょうか、自分のお世話ができないのですわよね……。
お着替えとか、お風呂とか、お化粧とか、食事の準備とか……。食べることとお手洗いくらいはできますわよ? 何をすればいいのか、頭ではわかっているのですけれど、なぜかうまくできないのですわよね……。
思わず空を見上げてしまいました。わたくし、儚いですわ……。
おほん。さて本日は入学式ですので、生徒は全員講堂に集合です。おバカデカい学校ですので、目的地まで結構な距離があります。道中には色んな施設がありました。まさかスーパーマーケットまであるとは思いませんでしたけれど。
人の流れに沿って歩いている間に、何人かの人がわたくしの顔を思いっきり覗き込んできました。見えていないと思っているのでしょうか? ちゃんと顔は覚えておきましてよ。
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「おはよう。あなたはエクソシア家の人?」
「ええ、ごきげんよう。あなたは……?」
少し照明の落とされた講堂の席に着くと、ちょうどわたくしの隣に座ってきた女の子に声をかけられました。
オレンジ色のミディアムボブヘアーに溌剌とした表情。この生粋の陽キャオーラは……ウィングリー王国におけるヒロインの一人ですわね?
エロゲらしい派手な色使いの髪ですわねぇ……。あまり人のこと言えませんけども。
人懐っこく、垂れ目気味の大きな目にオレンジの髪が合わさってまるで向日葵のようです。誰にでも物怖じせずに接することができるのが、彼女の美点でしょう。
「初めまして、私はアリシア=ハロウェル! よろしくね」
「わたくしはヴィアリス=エクソシアです。よろしくお願いしますわね」
あー……この子ってハロウェル家の人でしたわねぇ……。養子なんでしたっけ? この前あなたの義理のお兄様をぶん殴りましたわよ、とは言えませんわね。
「エクソシアさんは目が見えないの?」
「いえ、見えていますわよ。眩しいのが苦手ですの」
このくだり毎回していません? もうわたくし、目隠しに「心眼」って書いておこうかしら? あれ? それだと本当に見えない人になるんでしたっけ?
「見えてるの!? ならあんなに見られて嫌じゃなかったの?」
「大丈夫です。ああいう失礼な輩には、必ず報いをくれてやりますからご安心ください」
わたくしがそう言うと、周りから息を呑む音がしました。そんなに大きな声は出していないのですけれど、周りの方たちに緊張が走ってしまいました。
「だ、だってエクソシアさん美人でスタイルがよくて、ミステリアスな感じだから皆気になっちゃったんだよ! 私も覗き込んだ人の気持ちわかるな~?」
なぜこの子が失礼な輩のフォローをしているのでしょうか? 気を遣わせてしまったのかもしれませんわね。こういう時は小粋なジョークで和ませてあげませんと。
「ハロウェル様はお優しい方ですのね。その優しさに免じて無礼者たちの命までは取りませんわ」
「エクソシアさん、それ全然フォローになってないよ!?」
わたくしの小粋な公爵令嬢ジョークで場が温まったところで、入学式開始のアナウンスが流れ始まりました。




