第120話 水着回ラスト
「あー! わたくし用事があるんでしたわー!」
シャノンと綾子の二人の間からするりと抜けると、わたくしはプールの中に逃げ込みます。二人とも追っては来ませんでした。
「もう……あまり泳いでると日に焼けるわよ」
「今夜待ってますからね!」
後頭部に言葉を受けながら、わたくしはクロールでプールの浅い方へ向かって泳いで行きます。今世で初めて泳ぎましたけど、この体は水の抵抗を大きく受けて大変ですわ。と言いますか、これってパーカーがなかったら、ビキニトップが脱げる気が致しますけど……。
「ぷはっ! な、なんて水泳に向いていない体ですの!?」
しかもお胸が暴れまくりますので、思わず泳ぐのを止めて立ち上がってしまいました。だから皆様競泳水着のようなぴっちりとした水着を着用しますのね……。
「お嬢様! パーカーのまま泳がないでください!」
「でも脱いだらまろび出ちゃいますわよ!?」
プールから顔を出したところ、サラに咎められてしまいました。わたくしはただプールを楽しんでいただけですのに……。元日本人としましては、水に入ったならば、クロールを必ずしないといけませんからね!
「ま、まさかアリシアのクソダサ水着が正解だったって言うんですの!? わたくし、あれを着るくらいなら裸で泳ぎますわ!」
「ヴィアリスさん! 聞こえてるよ!!」
「いいですかお嬢様、こういうところでは、皆本気で泳いだりしないんですよ? 水遊びを楽しむところなんです。それに髪を水に浸けたりしたら、このあと乾かさないといけなくなりますよね? どうするんですか?」
「ぐぬぬっ……!」
サラの正論パンチを食らいながら、わたくしはプールから上がります。目の前のプールサイドチェアには、未夢が寝ていました。はい、文字通り本当に寝ています。
隣のテーブルには空になったカクテルグラスと、首が振られている扇風機が置いてあり、気持ちよさそうに口をおっ広げて寝ています。……やはりおっさんなのでは……?
「サラ、《《例のもの》》を準備しておいて頂けますか? それと……アリシア! こちらに……いえ、わたくしが行きます」
ちびっこたちが居るプールの浅いところは、ちょうど休憩をしているようでした。
アリシアの妹ズは5歳くらいの小さな子たちですから、疲れてプールサイドの日陰で寝てしまっている子も居ます。小さい頃って泳いだらすぐ眠くなりましたわよね。
「お疲れ様です、アリシア。少しお時間いいですか?」
「ありがとう。でも妹たちが眠そうだからちょっと待ってくれる?」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。皆プールから上がってるし、休憩してきてよ」
「まぁまぁ、バーバラちゃんはしっかりしてますわねぇ……」
「大丈夫? 困ったことがあったらサラさんに頼むんだよ」
「皆、わたくしのメイドを使いすぎでは……? まぁいいです。ではアリシアを少しお借りしますわね」
「はい、いってらっしゃーい」
「え? どこへ行くの?」
アリシアを先導してわたくしは進みます。パラソルの並ぶテーブルゾーンを通り過ぎ、別荘への通用口の手前に目的地はありました。シャワー室です。
「シャワーを浴びるの?」
「その通りです。そしてわたくしを洗うのです! さぁ来なさい!」
「なんで私が!?」
「裸の付き合いってやつですわ! ついでにそんなダサい水着脱ぎなさい!」
アリシアを脱衣所に押し込むと、わたくしは背中を向けます。わたくしは自分で脱ぐことができない呪いにかかっていますから、脱がしてもらわねばなりません。これ本当に何とかなりませんの?
「ほら! 脱がしてくださいまし! さぁ!」
「なんだか妹と入ってるみたい……」
「それではわたくしも、アリシアお姉ちゃんとお呼びしましょう。アリシアおねえちゃん! 脱がして!」
「私にこんな胸の大きな妹は居ないよ」
スンッと瞳を昏くするアリシア。空笑いと深緑色の瞳が、わたくしに向けられます。そのままの顔で手際よくわたくしのビキニトップの紐と、ビキニボトムを剥ぎ取ると、洗い場でぎゅっと絞り、脱衣かごに投げ込みました。そこまで事務的に処理されると、なんだか恥ずかしくなってきますわね……。わたくし全裸ですし……。
アリシアも、するりとクソダサ水着を脱ぎ去ると、同様に脱衣カゴに放り込みました。
「なんだか慣れてますわね? もしかしてアリシアってこういうことが得意ですの? 意外ですわ……」
「それどういう意味? いつも妹たちと入ってるから慣れてるだけだよ。それに女同士だよ?」
「女……どう……し? ……あ、そ、そう言えばそうでしたわね」
わたくしの反応に、アリシアは怪訝な顔をしながら下に視線を動かすと、「ついてないよね?」とぽつりとつぶやきました。ついてないですわよ!
「では髪を洗うのを手伝ってください。プールに入ったあとはキシキシしちゃいますからね」
「なんで私が……面倒臭い……」
文句を言いながらも洗ってくれるのが、アリシアおねえちゃんのいいところですわね!
髪を洗ってもらってシャワーから出ますと、脱衣所が少し片づけられていました。ふふふ……サラがやってくれたのでしょう。もちろん、《《例のもの》》も用意されています。
「髪が綺麗すぎてなんだか感動しちゃったよ。多分ヴィアリスさんは私と別の生き物だね。あれ? 私の水着がないんだけど……」
「だからあなたも可愛いって言ってるでしょうが! というわけでこちらをご用意しておきましたわ! さっきのダサ水着はもうありませんからね!」
わたくしが取り出だしたりますは、白地に黄色のお花柄のビキニです。布面積も多めの初心者向けで、さらにビキニボトムにはフリルもついていて安心です! 念のため未夢に用意しておいてもらって正解でしたわね!
「さぁ、諦めてこれを着なさい! そしてわたくしを楽しませるのです!」
「何を楽しむつもりなの!?」
アリシアに水着を着替えさせてプールに戻ると、シャノンにジト目で「したの?」と聞かれたりもしましたが、何もしていませんからね!
アリシアのおニューの水着は妹ズにも好評で、アリシアおねえちゃんも満更ではなさそうな顔をしておりましたので一安心です。もちろん、わたくしもとても似合っていますと褒めそやしておきました。アリシアの自己肯定感を育てて参りましょう。
その後は、浮き輪でちゃぷちゃぷと水遊びをしましたり、遊び疲れて眠っているちびっこたちの体を拭いて、別荘のベッドに運んだりと、夏のイベントを熟すことができました。ただやり残したことがあるとすれば、バーベキューの準備をしなかったことですわね……。いつか必ずやりましょうね!
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