第119話 水着回その3
それから準備運動を終わらせた者から、プールで遊ぶことになったのですが、皆泳げないことが発覚して、わたくしは大変驚きました。まぁ浅瀬でちゃぷちゃぷするだけでも楽しいですからね。水遊びです、水遊び。唯一、二条綾子だけは泳げたりしましたが……。水泳の授業がある国って珍しいんですってね。
「飛び込んじゃだめですからねー!」
ちびっこたちは、わたくしに返事をすることなく夢中でプールに突撃して行きます。楽しんでいるならいいのですけど、誰かが監視していないと危ないかもしれません。
「あらあら、大丈夫でしょうか?」
「私が見てるから大丈夫だよ」
「あとで交代しますわね。それにあなたには大事な話がありますし……。では後ほど」
「気になること言いながら離れて行くのやめてね!?」
ぷりぷりダサ水着すじ肉女にちびっこを任せて、わたくしはプールサイドで書類を読んでいる翠蘭の元へと向かいました。
翠蘭はテーブルの上に書類を広げ、何やら考え事をしています。その隣にはいつの間にか用意された扇風機が置かれています。もうっ! サラが笑顔でお世話しちゃうから! わたくしのメイドですのに!
「どうしましたの? 難しいを顔して」
「ああ、色々とあってな」
「もうジェニシアを叩けば、それで終わりじゃありませんか?」
「それが……王国がリドリス7州連合に接触しているようでな。もしかしたらリドリスが参戦してくるかもしれん」
「マジですの? でも距離も結構ありますし、リドリスにそれほど利がなさそうですけど……。本当に来ますの?」
「それは私にもわからんが、連絡を取り合っているのは確かだ。それとは別にハロウェル領から逃げ出した研究者たちが、リュドヴィック共和国に脱出したらしい」
「ハロウェルの研究者を逃がしてしまったんですの!? 諜報部は何やってますの!!」
ハロウェルの研究者たちと言えば、わたくしの不倶戴天の敵です! 逃がしましたら、また別の場所でロクでもないことをするに決まっています!
「完全に裏をかかれたな。逃げるなら王都かと思っていたんだが、ヤツらはもう王国を見限ったらしい。それにリュドヴィックは闘技大会決勝での《《説得》》以来、PMCC関連の研究を凍結していた形跡があったからな。まさかそっちに行くとは……」
「確かにリュドヴィックは大人しく…………あれ?」
そういえばつい最近、わたくしはリュドヴィックの部隊と交戦していますわね?
あれは確か祝融の果たし状のことをすっかり忘れて、夜月研究所の翠蘭の寝室で翠蘭を堪能したあと、私邸に戻る時のことでした。
ただの突発的な遭遇かと思っておりましたが、もしかしたら研究員の脱出を手伝っていたのかもしれません。ウィングリー王国寮駅の近くでしたし……。
「どうした?」
「いえ、きっと気のせいですわ」
「そうか? まぁ続報があれば知らせるよ」
「ええ、お願いします」
まぁでもこれでリュドヴィックが非人道的な研究を再開するようでしたら、また叩き潰すだけです。
サラが持ってきた冷たい飲み物で口を湿らせながら、翠蘭の谷間を楽しんでいると、後ろに危険な気配が接近して参りました。しかも複数です!
早期に察知したわたくしは、自然な動きでその場から逃……転進しようとしました。……が、そっと右の肩に手が置かれました。
「ヴィア、どこにいくの?」
「ひいっ!?」
「ヴィアリス様、やっとお話できますね。今夜のご都合はいかがですか?」
「ひいぃぃっ!?」
左の肩にもなまぬるい手がそっと置かれます。逃げるコマンドを選びましたが、周りを囲まれてしまいましたわ……。
ああ、わたくしはこれからホテルに連れて行かれて、二人がけのソファーに座らされて、スリーサイズやら初体験の年齢やらをカメラの前で聞き出されてしまうのですね……。もうお終いですわぁ……。
「ヴィア、気持ち悪い顔するのやめて」
「わたくしは顔が整っていますから気持ち悪い顔なんてできないんですけど!?」
心ない言葉を浴びせられながら、わたくしはシャノンに連行されてしまい、プールサイドで尋問を受けることになりました。
もちろん二条綾子も後ろに着いて来ています。あのポンコツボディーガードはどこに行ったのかと辺りを見回しましたら、ちびっこたちと水遊びしていました。サボってんじゃねーですわよ!!
これも二条綾子の父、二条治重侯爵──あのエセ関西弁糸目黒幕系子煩悩善人おじさんですわよ?──が、エクソシア公国駐在大使に任命されたからです。そのせいで二条綾子が我が国に留まる大義名分ができてしまい、二条綾子は隙あらばわたくしに会いに来るようになってしまいました。
プールに足だけをつけるように座らされると、右にシャノン、左に二条綾子と挟まれてました。一つため息を吐いたシャノンは、少し苛立った様子で話を切り出します。シャノンが二条綾子に送る視線が、あまり好意的ではないのは気のせいではないでしょう。
「ねぇ、どうしてヴィアはすぐに女の子を拾って来ちゃうの? お世話できないでしょ?」
「それ以前にも言われた気が致しますわね……」
「そうですよ、ヴィアリス様。ちゃんと私のお世話もしてください」
二条綾子がわたくしの二の腕に抱き着いてきます。うーん、でかいですわ。思わず目を閉じて、二の腕に当たる暖かな感触に集中してしまいました。いい仕事してますわねぇ……。
「やっぱり胸? 胸の大きさなの? ヴィアは大きな胸を見えると、すぐに鼻の下伸ばすものね……」
「わたくしは顔が整っていますから鼻の下なんて伸びないんですけど!?」
確かに大きいことはよいことですけれど、わたくしは小さいのだって好きです! 純粋に可愛い女が好きなだけなのです! そこに何も違いはありゃしねぇのですわ!
「とにかく私が言いたいことは、周りに女の子ばっかり増やして、他の女の子を放っておいたら愛想尽かされちゃいますよってことですっ!」
「あら、嫉妬ですの? では今晩はシャノンのところに参りますわね」
「えっ? 今の話の流れだと、今夜は絶対私のところに来てくださる流れでしたよね?」
「……行けたら行きますわ」
適当に綾子の話を流しながらわたくしは空を見上げます。ああ、とても青いですわ。夏ですわね。8月も下旬だと言うのになぜかジメついてますけども……。




