第116話 二条綾子
会談が終わって移動した先は、ただの応接間でした。先ほどの応接の間とは別の場所ですわよ?
部屋に入るとサラがすでにスタンバイしておりました。サラに椅子を引かれたので、誘われるがまま座りましたが、一体何の用でしょうか?
「お嬢様、お茶を淹れますね」
「ええ、お願いしますわ。ところでなぜ……」
わたくしが疑問を口にしようとしたところ、部屋のドアがコンコンとノックされました。サラがドアまで行き外の者と少し話すと、ドアが大きく開かれます。そこには先ほどまで話していた二条綾子が立っていました。
「失礼します」
「どうされましたの?」
後ろに祝融を引き連れて無言で引かれた椅子に座ると、ジロリとわたくしの顔を睨んでおりますが、いつもとどこか印象が違いました。なるほど、わたくしは女の子の変化には敏感なのです。
「ん~~~? ……髪を切りました?」
「違います。目です」
「ああ、目ですね! もちろんわかってましたよ?」
もちろん解っておりましたとも! いつもは黒色の瞳だった二条綾子の瞳が今は赤色です。どうしたのでしょうか? プールで泳いだ後、目を洗わなかったのでしょうか?
「どうされましたの?」
「あなたが竜神様を撃ち倒した次の日、起きたらこうなっていました」
そんなことってあるんですの!? 原作でもそんなイベントはあった記憶がないのですが……。
「そうですか。ええと……謝ればよろしいのでしょうか?」
「いえ、謝罪は結構です。……ヴィアリス様は約束を守ってくださいました。今度は私が約束を守る番です」
「約……束……?」
わたくし何か彼女と約束しましたっけ? 腕を組んで目を瞑って思い返してみましたが、心当たりはありませんでした。
「覚えてないんですか!?」
立ち上がる勢いで二条綾子が叫びます。そんなこと言われましてもわたくし困ってしまいますわ……。
「ええと……綾子様、過去のことに囚われず前向きに生きていきましょう。ね?」
「だから言ったではないですか、巫女様。こやつは……」
「あなたは口を挟まないで!」
バンッと机を叩き、ついには立ち上がった二条綾子。その赤い瞳には何かドロドロとした感情が見え隠れしています。わたくし何かやっちゃいました……?
「ふぅーっ……ヴィアリス=エクソシア! あなたは散々借りを返すだとか! 『あなたが何か困ったことがあった時にわたくしはあなたに力を貸すことをここに誓いますわ!』とか!! 『生け贄は生け贄らしく体を清めて待ってなさいってことですわ! オホホ!』とか言っておいて!!! 何なんですか!!! 私のことをどうしたいんですか!!!」
妙に高飛車でいけ好かない女の物真似を挟みながら、二条綾子は怒りを爆発させています。……ほんの少しだけ、学園でお話した時と、二条綾子の実家に匿われた時に、そんな話をしたような気がしないでもないですわね……?
「あぁ~……ねぇサラ、わたくしってあんな感じなんですの?」
「はい、そっくりです。とてもお上手ですね!」
笑顔でサラに肯定されてしまいました。嘘でしょう!? わたくしこんな嫌な感じの女でしたの!?!?
「ほら、巫女様! だから言ったじゃないですか! この女はそういうタマじゃないって!」
「うるさい! ヴィアリスさんが『わたくしの生け贄になりなさい』と仰ったんじゃないですか!」
「確かに言いましたけど、あの言いにくいのですが、わたくしってMAに乗っている時のテンションがほんの少しだけおかしくなってしまうのですよね。だから、その、綾子様はもう自由なのですから、綾子様の人生をお歩みになられるのがよろしいかと……」
「ほらぁ~~!!!」
祝融が後ろでドヤ顔しているのがとてもムカつきますわね!! 鬼の形相で祝融を睨んだあと、わたくしのことを涙目で睨みつけてきました。赤い瞳をうるませて……。
「…………何が不満なんですか……」
「はい?」
「ふぅーっ……わかりました。祝融のことを気に入っていたようですしね。業腹ですが、この女もお付けしましょう」
「巫女様!?」
「急に人身取引をしないでくださいます!?」
話がまったく見えなくてわたくしはとても混乱してしまいました。折角クソイベントから解放して差し上げましたのに、二条綾子はわたくしが言った「わたくしの生け贄になれ」という言葉を真に受けているようです。本当に何がしたいのでしょうか?
「お嬢様、これ据え膳ですよ」
え? マジですの!?
そこでわたくしは、はたと思い出しました。原作ファンがつけた二条綾子の不名誉なあだ名「性獣」を……。




