11 はじまりの始まり
新章始まりです。
ムイラスの攻撃から何とか立ち上がったダン。
ダンの手には、精霊剣と盾が握られていた。
うっすらとダンの身体を光が覆っている。
震える身体を、剣の柄で太ももあたりを叩いて鼓舞し立って、ムイラスを睨みつけている。
「ほおう。今ので生き延びるとは。頑丈に生んで貰ったことに感謝するべきですねえ。だが、遊びはここまで。次はありません」
「あんた!どうしようダンが、ダンが・・・」
「大丈夫だ。精霊様の加護と、仙人様が付いている。それに、案外あいつ弱いかも」
ミサの心配をマサがなだめていた。根拠の薄いマサの戦評ではあるがスザクは頷いていた。
「あれは・・・ライカの仕業か?」
スザクはダンの力だけでは無いとみているようだ。
実際飛ばされた瞬間、ダンは動けず手で頭をカバーするのが精一杯だった。しかし、タイミング良く加護が発動。
そしてもう一人のダンの手助けがあった。
『ありがとう、ライカ。助かったよ』
『間に合って良かった。昨日偶然夜中に閃いて、練習しといて良かったよ。役に立って何よりだ。兎も角、相手は大きいし容赦の無い魔物だよ。慎重にね』
『わかった』
ダンの中でライカと会話していた。
訓練で疲れ、アニカと魔法の打ち合いでかなり魔力を消耗した日だった。
ぐっすり寝ているダンに、誰かが話しかけてきた。
『ダン起きて。頼みたいことがあるんだ』
「もう少し寝かせてよ、ムニャムニャ・・・・・」
『ちょっと、今日は起きてもらうよ!』
ライカはダンの手を伸ばして頬を2、三回売ってみた。
『ううっ、だめか。自分が痛いんじゃだめだな。こういうときはっと』
最近使えるようになった念動力でコップを動かし頭の上で止めた。
『ごめんよダン。どうしても試しておきたいんだ。いくよ・・』
ダンとライカが入れ替わった瞬間、ダンの頭に衝撃が走った。
「いってててっ。何で?どっからコップが?」
『ごめんよダン』
「ん?」
『解るかな?』
「誰?どっから話してんの?」
『今君の中に居るんだ。解るかな?』
「?何で僕の中に居るの?」
『話せば長くなるんだけど、僕は多分他の星から来たんだと思う。何かの弾みに魂だけがユグドラシルとか言う木の中を通って、君と魂同士が共存してしまってるみたいなんだ』
「今までずっと僕の中に居たの?全然知らなかったよ」
『今まで黙っててごめん。君を混乱させたくなかったんだ。でも、そろそろ本格訓練だと思うから僕も協力しようと思って』
「ちょっと待って。僕の中に居る君は誰?身体からは出られないの?」
『ああ、自己紹介がまだだったね。僕は今の名前はライカ。これは精霊様が付けてくれた名前なんだ。本当の名前はまだ思い出せないんだ』
「ええええっ。どうやって来たかも、名前も、どこから来たかも、自分の家も忘れたの?」
『忘れたというか、何かの衝撃で多分記憶がなくなってるんだと思う』
「可哀相に」
『大丈夫。ダンのお母さんいい人だから。いっぱい甘えさせてもらってるよ』
「えええええ~!母さんも知ってるの~?僕だけ?、知らなかったの、僕だけ?」
『ごめんごめん。ダンの成長の邪魔をしたくなかったんだ。ホントごめん』
「わかったよ。もう良いよ。んで、頭にコップをぶつけた見返りに何をくれるんですか?」
『今まで、引きこもってるだけだと思ってたんだけど、少し思い出したことがあってね』
「どんなこと?」
『ある力を使えることにさ』
「どんな力?」
『魔法でもない、精霊術でも無い、両方の合わせ技みたいなもんだけど』
「わっかんないけど、どんな風に使うの?」
『例えばこんな風に』
ライカの声とともに腕が光り、左手の手首から肘までが外側が膨らんで、円盤の形に固まった。
「うあっ。なんだこりゃ」
『叩いてみて』
ダンが右手で拳骨を作って叩いてみた。
”ゴインゴイン”
「痛くない。て言うか、殴った右手が痛い」
『ははは、まあそんなもんさ。どうだい?使えそうかい?』
「これ、君がやらないとだめなんじゃあ・・・」
『ううん。僕の力だけど君の力でもあるんだよねえ~』
「ちょっと、やってみても良い?」
『うん、じゃあ右手に出してみてよ』
「よーし!ふん!!」
『あっ、力んだらだめだからね。頭で想像して其れを形にするんだ。いいかい、肩の力を抜いて』
「わかった。・・・」
ダンがしばらく右手を見つめていると肘から手首が光り出し、やがて四角い板状の盾が出来ていた。
「やった。出来た!」
『うん。やったね。明日からはこれをスピードアップしよう』
「うん。だけどライカ、不自由じゃ無い?身体の中に閉じ込められて」
『大丈夫。なれたよ。もう、五年以上君と暮らしてるんだから。代わりの僕の身体が見つからない限りはね。半分あきらめては居るけどね』
「だめだよ。あきらめないで。僕と一緒にさがそうよ。精霊様も、スザクの叔父さんも、きっと探すの手伝ってくれるよ」
『ありがとう。でも今は、君の成長の方が大事だからね。君は皆が必要な人なんだから』
「わかった。僕頑張るから。絶対頑張るから」
『無理しすぎんなよ』
これが、ダンがライカを認識した初めてのお互いの名乗りだった。
ライカの能力を借りて今、瓦礫の上で魔族を睨みつけるダン。
皆が見守っているその中で、一人烈火のごとく怒りに震えている存在があった。
「よくも・・・よくもダンを吹っ飛ばしてくれたわねー!!!」
叫ぶと同時にムイラスに向けた掌から火弾を打ち出し同時に走り出した。
しかし、攻撃はすべてかるくムイラスにはじかれてしまった。
「アニカ!!!」
ダンが叫ぶよりも早く、アニカが回り込んでダンとムイラスの間に入り込んだ。
「小娘が。何をしようというのです。貴方ごとき虫けらが何が出来るのです?
その小僧を護ろうと?やれるもんなら、護れるもんなら護ってみなさいよ。容赦はしません。殺しますよ。」
「うるさあああああいっ」
怒髪天をつく。髪の毛を逆立て、頂点に達した爆発的エネルギーを拳にためて波動に変えてムイラスに向けて打ち出した。
ムイラスもただ者では無いエネルギー量に負けない量のエネルギーを貯めだした。
あと少しでムイラスに怒りの波動が届こうとしたとき、ムイラスもエネルギー波をアニカの波動めがけて打ち出した。
衝突の瞬間、拮抗するパワー。しかし、波動は徐々に押されだし、やがてアニカに向かってエネルギー波が襲いかかった。
「きゃあーっ」
「アニカアー!」
ダンは吹っ飛んでくるアニカを横っ飛びで受け止め何とかアニカの身体を抱き留めることに成功した。
「アニカ、大丈夫か?」
「うん、平気。このくらい、何でも、な、ないわ」
気絶しそうなのを耐えてるアニカを、スザクからもらっておいた回復剤をのませ、近くの物陰に座らせた。
うつむき加減に立っているダン。それをスザクは観察していた。
「反射的な身体の裁き方も、物になりつつあるな。不思議な力も発揮できそうだし、これはおもしろいことになるぞ」
「あんた!ダンが、ダンが。どうしよう、どうしよう」
「落ち着けって。スザクさんが付いてるんだ。大丈夫だって」
ミサの狼狽えた声に、マサがミサの口を指で塞いだ。
しかし二人の目には、初めての息子の戦闘に目の前の魔族は強く大きく写った。
ダンは少しうつむいて立っていた。
肩も足も震えていた。
目は開いていた。
地面を睨んでいた。
拳をにぎっていた。
「よくもアニカを痛めつけてくれたね。僕は怒ったよ。僕はお前を許さない!」
怒りに震えていた。
しかし、アニカと違うところは、ダンは冷静だった。ムイラスを睨みつけた。
目の奥に眠っていた怒りを、ムイラスにぶつけるように。
ダンの目を睨み返すムイラス。グウッと、喉の奥で生み出される咆吼を我慢し口を開く瞬間を探していた。
ふと気づいた。いつの間にかムイラスは、先程からじわりじわりと後ずさっていることに。
「ばかな!私があの小僧ごときに億しただと?そんなことは認められん。私は認めんぞ!!」
いきなり走り出した。なりふり構わず、魔法を飛ばした。
ダンはムイラスから目を離すこと無く、微動だにしない。
やがてダンは人差し指をムイラスに向けた。
「バーン!」
走ってくるムイラスの額めがけて放たれた指弾が命中した。
額に命中した指弾は、後頭部を抜け後ろの岩に当たり爆発した。
ムイラスは指弾が命中した瞬間に絶命。爆発により粉微塵に吹き飛ばされた。
村のあちこちから皆が駆け寄ってきた。
アニカが心配そうにダンのそばに来て、顔をのぞき込んだ。
「ダン?大丈夫?」
「アニカこそ何処も怪我してない?薬は効いた?」
「うん。あの薬すごいね。死ぬかと思うくらい痛かったけど、すっかり直っちゃった」
「そうか、よ、よかった」
アニカの無事を確認して安心したのか、ダンはその場に座り込んでしまった。
「おいおい。大丈夫かあ。魔族をやっつけた英雄が腰抜けましたじゃ話にもなんねーぞ」
駆けつけたボギーに励まされながら肩を借り、何とか立ち上がったダンだった。
「確かもう一つ居たはず」
『もう結界の外に。ダンの戦闘が始まる直前に移動し消えました』
「精霊様」
『ダンは良くやりましたね。逃げず、怖がらず、アニカのために』
「はい」
『アニカには私が話をしましょう』
「おお、アニカも喜ぶと思います」
『これからどう動きますか?』
「魔族の追撃があると思いますので、早めに立ちたいと思います」
『では頼みましたよ』
「御意に」
皆に迎えられ、ほっと一息入れている村人の中。
ダンとの旅に期待し
「これは楽しみが増えたぞ」
目を細めるスザクだった。
ライカ『もう少しで全部思い出しそうなんだけど』
ダン「何か思い出したら、起きてるときに言ってね」
ライカ『ごめんね』
ダン「次回は旅に出ます。魔族をやっつける旅です」




