まさかの邂逅
感想ありがとうございます。
ネタに気付いていただいて感謝です!
さて、またまた彼らが出てきてくれました。
私の中で彼らは、ポケットに入る系なモンスターのアニメ。その敵役な、空へ飛んでいきそうな名前の団体のイメージな強度です。
なので、なかなか死にません。
女性冒険者達から、熱いラブコールをいただいたが、私はいつも通り、リュートの抱き枕だ。
リュートはテントには入らず、三角座りで大木に背を預けて眠っている。
私はリュートに抱えられ、そのリュートは私のもふもふに顔を埋め、幸せそうだ。
見張りは順番でするそうで、リュートの順番が来たら、前の見張り担当が起こしてくれるらしい。
なので、私も寝ていたのだが、不意にルーの声が聞こえ、目を覚ます。
(まま、てき、きた)
目を開けると、ルーが地面でぴょんぴょん跳ねて、アピールしている。
(……ん、敵? モンスター? 人間?)
(りょーほ?)
うん? あー、両方か……って、両方?
(リュート! 起きて! 敵襲だよ!)
私の叫び声に反応するのは、当たり前だけどリュートのみで、たき火に照らされた野営地は静かなものだ。
二つあるテントにも、動きはない。
「ハルさん? 何も見えませんが……」
寝起きの良いリュートは、すぐに目を覚まし、私を肩に、ルーを頭に乗せて立ち上がり、森の方を見つめている。
(ルーが、モンスターと人間、両方来るって。しかも、敵認定)
私がルーが喋った内容を伝えると、リュートはすぐに納得してくれ、見張り担当の冒険者の所へ……って、クロウとマリオンだよ。
「どうかしたのか?」
「眠れないなら、酒でも飲むか? リュートなら、ミルクか?」
穏やかに話しかけてきたクロウに対し、マリオンはからかい混じりだ。
リュートは気にした様子もなく、マリオンのからかいを流し、私が教えた方向を指差す。
「あちらの方から、敵襲が……」
「マジかよ!?」
「それは、確かな情報なんだな?」
「ルーが感知したそうなんで、間違いないと」
「スライムの方か……。信憑性は高いな。何が来るかは?」
クロウはさすがリーダーだけあり、落ち着いている。
でも、スライムだと何で信憑性が高いと?
「スライムは戦闘能力が低い分、感知などが優れてると言われてますから」
(そうなんだ)
駄々漏れたらしく、リュートが普通に答えてくれたよ。
ドヤ顔なルーは、可愛いなぁ。
「近づいて来るのは、モンスターと人間、両方のようです」
偉い偉いと、私がルーを誉めている間に、リュートが説明してくれてる。
「誰かがモンスターに追われてるって事かよ?」
「いえ、ルー曰く、両方敵だそうです」
「はぁ。……とりあえず、全員起こそう。話はそれからだな」
三人が話し合って、そうなった。
普通に考えて、当然の結論だろうけど。
(んー? もしかして、この音……)
(がちゃがちゃ)
人間より鋭敏な私とルーの耳は、近寄って来る敵の騒々しい移動音を感知する。
もう少し近付けば、警戒しているリュート達にも聞こえるだろう。
けど、ルーの言っていた人間の気配は……いや、わかった。
嫌な声がする。
ガチャガチャした音を誘導するように、その少し前に存在し、近寄ってくる声。
粘っこく悪意に満ちたソレは、聞き覚えのある三人分と、知らない一人分。
内容まではわからないけど、嫌な予感しかしない。
(リュート、甲冑アリ複数と、人間が四人だよ)
私の声にリュートは重々しく頷き、その情報を全員へ伝えている。
全員が森に視線を向けている中、ギルバートさんが近寄ってきて、借りるぞ、という声と同時に私の体は鷲掴まれていた。
(ルー、リュートをお願いね)
(あい! がんがる)
うん、がんがって〜。
たまに、言えてるのに、な。頑張るって。
そんな親バカ思考は、ギルバートさんの強面に覗き込まれて終わる。
「ハル。人間四人って、まさか、あいつらか」
(そうだよ)
ギルバートさんに運ばれ、リュートとは距離が空いたので、私は声に出して答えながら、大きく頷く。
「甲冑アリから逃げている訳ではないんだな?」
(なさそうだよ)
また大きく頷く。
ため息を吐いたギルバートさんの手が外れ、私は地面に落下しそうになり、慌てたギルバートに空中でキャッチされる。
「悪いな。大丈夫か?」
(大丈夫だよ。そろそろ来そうだから……)
申し訳なさそうなギルバートさんに、フルフルと体を横に振っていると、リュート達の方から驚きの声が上がる。
「来たか……なんだ、あれは」
森を突っ切って野営地に侵入して来たのは、いかにもなフードを目深に被った四人組。THE怪しいだ。
正体を隠したいのかもしれないが、鑑定を使える私には関係ない。
全員のステータスは、相変わらずの緩い女神様鑑定で、バッチリだ。
目撃情報通り、肩に汚ならしい毛皮をくくり着けた人物もいる。
近寄ってきてハッキリしたが、四人からは甲冑アリの体液の匂いがする。
私はギルバートさんの手から飛び降り、四人組と向き合うリュートの方へ向かう。
(リュート!)
リュートの体を登り、肩へと落ち着いた私は、フードの四人組と睨み合う。
敵認定されていたからには、戦闘になるかと思ったが、一番前の一人が舌打ちすると、急に方向転換して横へ駆け出す。
突っ込んできて逃げ出すという意味がわからない行動に、私以外は?マークだ。
私は何と無く、四人組の目的がわかった。
ガチャガチャした音は、もうハッキリ聞こえてきている。
しかも、四人組の殿、毛皮を着けた人物が、何かを投げつけていった。
それは、体液を垂れ流す甲冑アリの一部。
「ちっ、そういう事か! ハル、とりあえず、あれを!」
ギルバートさんも、すぐ気付いたらしい。
甲冑アリの一部を指差して叫びながら、武器を構えている。ギルバートさんの武器は、ハルバート。
ギルバートさんが、ハルバート。
ややこしい。
(ルー、あのアリ食べちゃって!)
(あい)
ぷぅ、と一鳴きしたルーは、ぴょんぴょんと跳ねながら甲冑アリの死体へ近寄り、美味しくなさそうな葛まんじゅうになる。
何か、リュート以外の皆さんが、微妙な空気になった。
その空気の中、ガチャガチャした音とガサガサとした音で、一気に野営地は騒がしくなる。
たき火の光を受け、甲冑アリの目と、メタリックな体はテラテラと光っている。
数はざっと二十ちょい。
女王はいないようだ。
「……前哨戦だ。一匹も逃がすなよ!」
何とかギルバートさんが、空気を立て直してくれた。ありがとうございます。
「「「おう!」」」
野太い声の中には、リュートの、はい! と、女性冒険者達の声も混じり、甲冑アリとの前哨戦が幕を上げた。
で、あっという間に下りた。
そうだよね。
そうなるのが、当たり前か。
リュートが相変わらず規格外なのはしょうがないとして、他の冒険者も強い。
魔法使いがきちんと参加した戦いは初めて見たけど、仲間と連携して、確実に甲冑アリを減らしていく。
私もルーもサボってないよ?
皆さんが倒した甲冑アリを、処理してましたから。胃袋へ。
こっちは人間十一人の、モンスター二匹。甲冑アリの二十くらい、なんてことなかった。
ハルバートさんが、ギルバートで戦う……違った。
ギルバートさんが、ハルバートで戦う姿も、豪快でカッコ良かったけど、古傷が痛むのか、時々顔を歪めていた。
全盛期なら、ギルバートさんが一人で甲冑アリを倒していたかもしれない。
それより気になるのは、あの四人組が消えた森の方だ。
まだ気配が近くにあり、ルーも気にしている。
私のもふもふの中にいたルーは、向こうがどんな奴らなのかわかっているんだろう。
だから、最初から敵認定だ。
さすがに、あの距離じゃ、敵意とか殺意に気付いた訳じゃ……いや、でも、そうなのか?
あとで、ルーに確認しよう。
今は愉快な四人組の方だ。
四人組が引き連れていた甲冑アリは、もういない。
夜の森は、静か……ではないが、ひとまず近くにモンスターの気配はない。
「ハルさん、さっきの四人組って、もしかして……」
さすがにリュートも気付いたか。
「甲冑アリを退治しに来たけど、対処出来なくて押し付けていったんでしょうか?」
気付いてないんかーい!?
思わずエセな関西人になったよ。駄々漏れてないけと良いけど。
「ノーマン達なら、倒せそうですけどね。エメラもいますし」
気付いてたんかーい!
「ハルさん、何か疲れてますか? 寝てても良いですよ?」
全力で突っ込んでヘタれていたら、リュートがそう心配そうに話しかけてくる。
でも、あいつらがいるのに、油断はしてられないからね。
私がもふっと気合を入れると、ルーはリュートの頭の上で私の真似をする。
「いやー、すみません」
そこへ、わざとらしい謝罪と共に、フードを目深に被った四人組が戻ってくる。
不審そうに、と言うか、完全に不審者を見るような視線を向けられ、四人組が全員揃ってフードを外す。
フードの下から現れたのは、予想通り、ウザいボンボン達。それと、肩に汚ならしい毛皮を着けた、見知らぬ少年だ。
残念ながら……。
(美少年じゃなかった)
私はちょっとだけ、がっかりする。
それ以上に、ボンボン達の厚顔無恥加減に――。
本当、ガッカリだ。
きょとんと元・仲間を見つめるリュートを見つめ、私は駄々漏れないよう内心で吐き捨てた。
ハルさんの突っ込みが冴え渡っています。
でも、ハルさんもよくボケるので、早くエヴァンという突っ込みの元へ帰らせたいです。
次回は、たぶん、ざまぁ回か、ウザい回です。




