……コント?
ボンボンは馬鹿だなぁと。
頭は良いです。プライドも高いです。
リュートとの相性は最悪です。
何で、仲間だったんだ……って、簡単な話で。ボンボンが、リュートを自分より下にしたかったから。でしょう。
「まさか、こんな所で他の冒険者と会うとは思わなくて……」
小狡い顔をして、進み出てきたボンボンが、大袈裟な仕草で謝罪してくる。
こちらの皆さんの、白けた顔は見えていないんだろうか。
リュートは、久しぶりの友達に会った、って感じの顔してるけど。
つい先日も、間接的に殺されかけたのを忘れているんだろうか。
いや、覚えていても、変わらなそうだ。リュートだし。
「あー、確か、ノーマンだったか? つまりは、今のはわざとじゃないと?」
ギルバートさんが、代表して問うと、ノーマンとその仲間達は大きく頷いて見せる。
「そのわりには、押し付けて逃げたように見えたが?」
凶悪顔ながら、エヴァンより年上なギルバートさんは、比較的冷静に会話を続けている。
混ざりたそうにウズウズしているリュートは、私とルーが抑えている。
絶対こじれるから。
なんて考えた私が甘かった。
「そんな訳ないですよ、あいつじゃあるまいし……って、まさか、何でいるんだ!?」
向こうからこじらせに来たよ。
わざとらしくカッと目を見開いて、リュートを指差している。
その直前に、加虐的な笑みを浮かべたボンボンに、嫌な予感しかない。
ボンボンの後ろで、お仲間三人も似た笑顔だし、ある意味イイパーティーなのかもね。
私達に絡んで来なければ、だけど。
「リュートがどうかしたのか?」
はいはいそれで、と言わんばかりの、気のない相槌を打ちながら、ギルバートさんが先を促す。
「そいつ、まだそんな事を……っ! そいつは、偽者なんですよ! 僕らのパーティーにいる、リュートの!」
「はぁ、それで?」
ちゃんと相槌を打ってあげるギルバートさんは、偉いの一言だ。
他の冒険者には、もう事情は話してもらってあるし、ボンボン達の評価は元々最悪だから、真剣に聞いている人はいない。
「……俺って偽者なんですか?」
本人を除いて。
(あっちが本物だろうが、私のリュートは、リュートだけだよ)
「ハルさん……っ」
シュンとするリュートは、天然過ぎる、と言うか、向こうが堂々と宣うせいか。
リュートに抱き締められながら、私はボンボンを睨み付ける。
こいつら、いやらしいのは、精神的暴力ばかり振るって、肉体的暴力は振るわない事だ。
肉体的暴力振るうなら、正当防衛っていう素晴らしい言葉があるのに。
私とリュートがイチャイチャしている間にも、ギルバートさんは呆れ顔でボンボンを退治……違った、ボンボンと対峙中だ。
「あー、このリュートが偽者だとして、何かお前らに影響があるのか?」
「そいつは、僕達の仲間だと言い張り、僕達の名前を騙っているです」
それ、リュートは、何の得にもならないし。
私は内心で突っ込む。
ギルバートさんは、そうか、と笑顔だが、こめかみがヒクヒクしてる。
「百歩……いや、千歩譲って、こちらのリュートが、お前らの名前を騙ったとしよう」
ギルバートさんがそう言うと、ボンボンは一瞬勝ち誇った表情をするが、すぐにその表情は消える。
「こちらのリュートに何の得がある?」
「得? それは、自分より優れた相手のフリをして……」
「こちらのリュートは、ノクの組合長のお墨付き、しかも中級冒険者だ。そんなリュートが騙るのなら、そっちのリュートは、どれだけ優れてるんだろうなぁ?」
あはは、ギルバートさん容赦ないなぁ。
「そ、それです! それは、全部、僕の仲間の、このリュートの事なんです!」
馬鹿だなぁ。たまたま同名だったんですね、で逃げれば良かったのに。
「へぇ。俺はエヴァンと懇意にしててなぁ。よく手紙のやり取りをするんだが……。エヴァンのお墨付きのリュートは、魔物使いで、ケダマモドキというレアなモンスターを連れ歩いてるそうだが、そのモンスターは?」
「に、逃げました」
そうか、私逃げたのか。って、馬鹿か。さっき目が合ったよね?
「ハルさん、逃げてないです」
(うん、リュートのこと大好きだからね)
「はい!」
リュートはボンボンの見苦しい言い訳も聞かず、嬉しそうに私を抱き締めている。
いつの間にか、クロウを始め、他の冒険者達は、悪意溢れるボンボン達からリュートを守るように前へ出てくれている。
「じゃあ、こちらのリュートが抱いてる、あれは? まさしく、ケダマモドキのようだが?」
「そこら辺で捕まえたんでしょう。とにかく、ノクの組合長のお墨付きを持つリュートは、僕達の仲間のリュートなんです」
見苦しいなぁ。
「見苦しい言い訳は止めろ」
私の心の声と、ギルバートさんの声が重なる。
「な……っ」
「見苦しいのは、そっちだろ!? おれがリュートって言ってんだろ!?」
あ、偽者馬鹿っぽい。
ボンボンが言葉に詰まったのを見て、無理矢理割り込んできた。
チャラ男が背後で、あちゃー、っていう顔をしてる。
どうすんだよ、この空気って中で、私を抱いたリュートが動き出す。
「そうなんだ。俺もリュートっていうんだ。よろしく」
先ほどまでの騒動を気にした風もなく、リュート(偽)の前に立ったリュートは、そう人懐こい笑顔で挨拶する。
偽者と本物が向き合うが、二人の共通点は性別ぐらいだ。
「同じ名前なんて珍しいよな」
ちゃんと設定覚えてたんだね、リュート。
思い切り、タイミング間違ってる気がするけど。
リュート(偽)な少年は、奇妙な生き物を見るようにリュートを見て、次にボンボンを見る。
「そ、そういう言い逃れをしたいなら、そういうことにしてやる! 次はないからな!」
ハッとしたボンボンは、典型的な小悪党の捨て台詞を吐き、仲間を伴って夜の森へ消えていった。
結果的に、リュートがボンボン達を助けたみたいになったけど。
ま、一言伝えるなら……。
「いや、それはお前だろ?」
私の内心を、ギルバートさんが代わりに言ってくれ、リュート以外の全員が大きく頷く。
ボンボン達のおかげで、私達の息はピッタリになったようだ。
突然の闖入者はあったが、無事に前哨戦を終えた私達は、朝まで時間があるので、再び就寝タイムだ。
見張りは、私とルーに一任されたので、野営地にはパチパチとたき火が燃える音だけ……。
(ぷっぷぅぷぅぷぅ)
「はる、さん……」
では、ないね。
テントへ入って眠るように説得したけど、リュートはたき火の側で丸くなってるし、ルーはご機嫌でたき火の周りを跳ねている。
ルーがご機嫌な間は、敵襲はないので、謎の儀式みたいなルーの動きを眺めている。
(ぷぅぷぅぷぅ?)
と、ルーが誰かの足にぶつかり、謎の儀式が止まる。
「よぅ、ここいいか?」
視線を上に向けると、ギルバートさんの強面が、下からたき火に照らされ、さらに強面度を増して、そこにあった。
うん、小さい子なら、ギャン泣きだよ、これは。
私はそんな事を思いつつ、コクリと頷く。別に断る理由はないし。
ルーは邪魔されて不満そうだったが、すぐにギルバートさんを登るという新しい遊びを見つけたらしい。
「……溶かされたりしないよな?」
(しないよ)
少しだけ不安そうなギルバートさんに、大きく頷いて返しておく。
ルーは、楽しそうにギルバートさんで、遊んでいる。
「ならいいが。――しかし、リュートの元仲間は、予想よりクズだったな。元々、態度が最悪な奴らではあったが、あそこまで敵意を剥き出しだとは、な」
ギルバートさんは、その場にドカッと腰を下ろすと、たき火に薪を追加する。
私はもふもふから、買ってあった巨大なトマトを吐き出し、たき火に突っ込んでみる。
(焼きトマトって、ありだよね)
「本当に、魔法袋みたいな事が出来るんだな。エヴァンの手紙に書いてあったが……」
(へぇ、そうなんだ)
私は目を細めて笑い、相槌の代わりにしておく。
ギルバートさんは、何となく察してくれたようだ。
「エヴァンの手紙で、あいつらとリュートの因縁は大体知ってるが、明らかに逆恨みというか、リュートには非がないな」
柔らかく苦笑して、リュートの寝顔を見つめるギルバートさんに、私は激しく頷いて同意する。
「相当溜まってるんだな、ハルも。リュートが、お人好し過ぎるというか、自分への悪意に鈍すぎるんだな」
(そう! そうなの!)
さらに激しく頷いて同意していたら、目が回って、たき火に突っ込みそうになる。
「おっと、気を付けろ。まぁ、ハルは火グマのブレスでも火傷しないから平気なのか」
そんな私を、ギルバートさんがそう言いながら片手でキャッチして、元の場所に戻してくれる。
(まま、つおい)
(防御だけは、ね。ありがとうございます)
ギルバートさんの頭の上でドヤ顔なルーに返してから、私はギルバートさんへお礼を言って、頭を下げる。
「気にするな。それより、あいつらは、あれで諦めたと思うか?」
(思わない)
ふるふると体を横に振ると、ギルバートさんは、やっぱりな、とため息混じりに吐き捨てる。
「ま、口ばっかりで、全員弱いのが、せめてもの救いか。いざとなれば……」
(るー、たべる?)
(おなかこわすから、だーめ)
最後の手段としては、ありだけど、出来ればルーにあんな腐った奴らを食わせたくはないからね。
(おなか、すいた)
(ほら、トマト焼けたから、食べよ?)
ルーは、別にギルバートさんに同意した訳ではなく、お腹が空いただけらしい。
「……よく食うな、そのスライム」
(成長期なんで)
何せ、プレスライムだからね。
「俺も、ここで休ませてもらう。何かあったら、起こしてくれ」
焼きトマトを丸呑みするルーを見つめていたギルバートさんは、欠伸をすると、その辺の石を枕にして地面へ横になる。
ワイルド過ぎるだろ。
リュートは、一応、自分の腕を枕にしてる。
朝までもう少しある。
しっかり、見張りを勤めさせてもらおう。
さぁ、明日は……もう今日だけど、甲冑アリの巣へのアタックだ。
何事もなく終わればいいけど……。
「はる、さん……」
枕になりたくてウズウズするけど、我慢だ。いざという時、動けないから。
でも、うちの子、可愛すぎる!
リュートは、顔がとても良く、性格も良い。天然なところは、母性本能擽りますし。しかも強い。
つまり、女の子にモテます。
しかし、ボンボン達は何しに来たんでしょうね。
とりあえず、ざまぁ(笑)




