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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
二章 エルフィリア編Ⅱ  《Fighting in the country which was defeated.》
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2-69 日付変更前《ディナータイム》

 六〇五号室に戻ってきたは良かったものの、それまで手を繋いで初々しさをアピールするかのようだったのが影響し、稔とラクトは中々話せずにいた。だが戻ってきたことで、それまで途切れていた会話が復活し始める。それと同じく、稔は戻ってきて柔らかな感触を背中に受けた。


「なにしてんの」

「胸を当ててるんだよ」


 テレポートした先は部屋の中だった。気が付かれないように外出するとは言ったが、二人は電気を消してから出かけていた。単純である。密室空間に誰も居らずして電気だけ点いているとしたら、それは不安要素にしかならないのだ。従業員が発見して部屋内へと入り、そんな現実を知ればどうなるか。そんなのほぼ察しがつく。


「暗闇の有効活用、ってか」

「よく分かったね。稔にしては偉い」


 稔は言われ、ラクトに頭を撫でられた。けれど彼は嬉しい感じなんて全く無い。『偉い』と言われて伸びる人も確かに居るが、それは『馬鹿にされている訳ではない』話だ。馬鹿にされている状況の今、伸びるはずがないのが自然なのである。


「ところで。電気は点けた方がいいかな?」

「点けたほうがいいと思う。お前に変なことをされるのは嫌だし、買ってきたご飯が食べられないだろ?」

「いやいや、まずは電子レンジを探すところからでしょ……」


 ラクトは稔がと同じことを思っていた。冷えた夕食を温めたい気持ちは誰にでも有るだろう。冷飯が好きな人も居るのは確かだが、温かいご飯に敵わないと思っている人が多数を占めるのもここからである。


 言わずと知れた三種の神器を、ラクトは探すことも含めて通常魔法で部屋の中を明るく照らす。誰にでも使え、ポ○モンの『ひでんマシン』に当たるその魔法。稔に何か言われるのは明白だったので、彼女は部屋の電気を点けることに専念した。


「ポチッとな」


 ドクロの描かれた爆弾が爆発しそうな台詞を発すと、少しの月光が屈折するような暗闇の海に沈んだ六〇五号室に太陽の日差し――ライトが当てられた。明るさはラクトが加減したようで、出掛ける前より小さな明かりになっている。


「ラクト。さり気ない配慮、ありがとな」

「見ぬかれたか! まあ、これから寝るしか無いしね。風呂に浸かれば眠くなるのが自明の理だし」

「眠くなるって言うよりは、安眠し易いってことな気がするけど」

「そうだっけ?」


 寝る前に風呂に入ると寝やすい、という情報を聞いたことが有った稔。ソースがネット上なのは何処か信頼出来そうで出来ない感じがあるが、デタラメの体験談を混ぜるだけで印象が変わるのは確かだ。もっとも、そこまで考えるような重要な話という訳ではなかったが。


「でも。いくら寝やすくても、稔は誰かに抱きつかれたら眠れなくなるでしょ?」

「おいおい、抱きつく気なのか? ――いや、問題はそこじゃないか。なぜ一緒の布団で寝る方向に話が先へ進んでいるんだ? 同年齢の男女が同じ布団なのはおかしいだろ」

「召使と主人が一緒の布団で寝るのは普通の事だと思うよ?」

「それは同性の時の話だろ」


 稔が言ってため息を付くと、ラクトは励ましの声を送った。「そこまで落ち込む話かな?」と。でもそれは、ラクトの心が書かれている台詞でもあった。言い換えれば、ラクトの嘆息なのである。


「ラクト」

「なに?」

「布団と同性という言葉を聞いてしまったから、この際に聞いておいていいか?」

「だから何を聞くの。遠回し過ぎるし、私が聞かない時なんか無いんだから了解を得る必要は無いよ?」

「質問するために許可を取るのははマナーだと思ったんだがな……。まあ、お前が言うならその方針で」


 ラクトは「うん」と言って頷いた。彼女自身、自分の性格から『戦闘狂』になることはないと自負していた。通常の条件であれば、戦えば戦うほど狂いに狂う訳ではないと知っていたのだ。即ちそれは、殆どの主人の命令や指示を理解出来るという意味でもある。だから、改まったような質問の許可は要らない。


「オブラートに包んで話を進める」

「前置き長すぎるって」


 ラクトから追加で非難が飛んできたが、稔はそれも覚悟の上だったので問題なしだった。無論、彼は謦咳して続けて話をする。真剣そうな顔を浮かばせている稔だが、話の内容がアレだったのでそっぽを向きたそうな様子でもあった。


「男女で色々と構造は違うわけだ。生命を育むために男女の区別が有るわけだしな。本題だが、突起物有り同士と無し同士でその――まあ、アレをするとする。その時に魔力が回復する量に違いとかは無いのか?」

「童貞乙」

「なっ……」


 ラクトはクスッと笑って稔を弄った。耐えようと思っても無理だと悟り、「煩い」と稔は言って対抗心を吐き捨てる。耐えられない云々だけではない。言わないよりは言ったほうが地位を保てると思ったのもあった。これ以上バカにされ続けては耐えそうに耐えれない。そんな『危機感』が心の何処かに有ったのである。


 動揺する童貞、稔の一方。ラクトは彼を馬鹿にしそうな顔を浮かべつつも真剣さを窺わす話をする。言い換えれば『回答』な訳だが、ラクトも違った方向へと考えを向けて顔を赤らめていた。


「い、異性間でする方がいいのは確かだけど、特に回復する量に変化は無いんじゃないかな?」

「動物の場合は?」

「何を聞いてるんだよっ!」


 召使は人だけとは限らない。キマイラがパーティー参加者を救助していたように、召使には動物も居るのだ。神話上で書かれているものが多いわけだが、それでも妖精から妖怪まで幅広いのである。言葉を理解できても話せないハンデがあるが、それでも召使としては反抗心を見せないために愛情が湧くの主人も多く居るはず。――要は、どこぞのアイスバカとは大違いなわけである。


 稔はそんなことを思って質問を述べたわけだが、ラクトは質問に回答したく無さそうに言った。


「でも、少なからず居るんじゃないのか?」

「大丈夫だよ。無駄な戦闘なんかしていなければ、魔力なんて回復する必要が無いんだし」

「――ってことは、魔力って一生分なのか?」

「い、今更……?」


 ラクトは驚愕した表情を浮かべ、呆れた様子で嘆息を零して続けて言った。


「魔力は授かったら一生分。召使も精霊も罪源も、契約を解除すれば他の主人の元へと回される。現状を維持してほしいなとか思ってるけど、最終的な決定権は稔にあるから、躊躇わずにいきな」

「ラクトは解除したくても出来ないような大切な仲間だし、まだまだ先だと思う」

「す、するつもりなの?」

「検討に入れてもないからな」


 ラクトはホッとしたような表情を浮かばせた。「そこまで重大な話なのか……」と稔は思うが、召使にしてみれば死活問題と言うべきものなのだ。主人も一人の人間だし、崩れるときは関係なんて簡単に崩れる。積み重ねた分だけ遠退くけれど、重大な事があれば崩壊は一瞬だ。


「じゃ、追加質問だ」

「ん?」

「魔力を回復する為にお前が挙げた行為は、精霊と召使、罪源と召使とかでも出来るのか?」

「シーンは同人誌に任せるとして、出来なくは……ない。で、でも! 私はそういう人じゃないからね!」


 要するに「同性愛者ではない」と主張したいラクト。稔は「はいはい、分かってますよ」と軽く受け答えをしておいた。「主人と召使だけではなくてもいいこと」や「同性でもいいこと」を知り、稔は少し度肝を抜かれた気もしたが、結局は「了解した」という一言に落ち着く。


 そして、本題へと移る。


「ところで、この部屋に電子レンジは?」

「無いね。厨房室にはあったのを見たけど、今更行けないし。冷たいって言っても期限が切れてるわけじゃないんだし、食べれなくは無いと思うよ?」

「おにぎりはそうだろうな。でも、スパゲッティはソースが固まってたら話しにならない気が……」


 稔が袋の中を見ようとすると、ラクトはそれを拒んだ。「エッチ」と言い、痴漢冤罪を楽しんでいるかのような笑みを浮かべる。主人は稔で、命令を出して従わせるのも一手だったが、彼は拒まれて手を引いた。そのかわりにラクトが商品を畳の上に並べていく。


「冷えてるな、おにぎりもスパゲッティも」

「でも、柔らかさは有るん――」


 ラクトは確かめようとおにぎりに人差し指を触れさせた。おにぎりを一つ握るようにして人肌で温めていたから、若干は柔らかくなっているような気もしなくなかったが――冷たい、固い。


「ありませんねえ」

「スパゲッティも固まっているでしょうねえ」


 二人で言い合ってため息を付く。けれど、何か作戦が無いわけではなかった。


「稔。こういう時は物を温める魔法を使うといいよ」

「なんて言えばいいんだよ?」

「『温加の術(おんかのじゅつ)』か『温加ワームシングス』って言えばいいよ。好きな方で大丈夫」

「効果は?」

「同じだよ。手から熱を出して対象物を温める。小さいサイズであれば、電子レンジと比べて時間が掛からない。けど、手に収まるサイズじゃないと掛かる時間は大変なことになるね。あと、手を食べ物の容器か実物に触れさせる必要が有る」


 ラクトが言うとおり、店では確かに出来ないようなことだ。そんなことをしていることが発見されようものなら、店の評判は一瞬して右下がりであろう。「人の手で温めているんです」というのは良い言葉に聞こえるかもしれないが、料理屋で聞いたら吐き気を催す人さえ出来るだろう。


「まあ、そんなに気にしないで」

「分かった」


 稔は首を上下に振り、おにぎりを握るようにして魔法使用を宣言する。一方ラクトは、熱の伝わりを良くするため、容器を包んでくれていたラップを剥がしていく。彼女は意外にもハサミを作り出して剥がしていた。その反対に居る稔の方からは、包装されたおにぎりを温める魔法の使用宣言が発される。



「――温加の術――!」



 言って数秒、稔はおにぎりに熱が当たっているのを確認した。中まで火が通るのは時間を要するが、人の手でするほうが小さいものを食べる時は効率的だとラクトが言ったのを思い返す――と、その時だ。


あつっ!」


 ラクトが稔のリアクションに思わず笑ってしまい、腹を抱えているのを彼は見た。一方の稔は、ラクトからそんなリスクを聞いた訳ではない。謝罪を要求することも考えたが、取り敢えずは状況の説明を行ってもらうことにした。


「ラクト。悪いが、こうなる原因を教えてくれ」

「分かった。んじゃ、まず『温加の術』の原理から教える」


 ラクトは怠惰した行動を取らずし、説明をすることにした。とはいえ、ホワイトボードを作る能力は流石にない。だからラクトは、稔のスマートフォンを借りることにした。しかしながら、イラストを描くためのアプリが入っている可能性はゼロでなくて一〇〇でない。分かり易く説明するために有ってほしく、取り敢えずは祈りつつも、ロックを解除して左右に指で動かしてみて知った。


「――無いか」


 ラクトはため息をつく。一方で稔はラクトの行動に対して、話が続くのを止めて疑問を質問にして話す。


「お前、なんで俺のパスワード解除出来てんの?」

「魔法を使わなくても人の心を読めて脳へもアクセス可能な私が、パスワードを知れないとでも?」

「確かに――じゃねえよ! プライベート環境一切なしってどういうことだよ!」

「アダルト関係の画像や動画が入っていようが、私は気にしないからいいよ。欲求も解消してあげるし」


 おおまかに「欲求」と最後は言っているくせに、最初の方は「アダルトな――」と言っているのである。グロでもエロでも大丈夫と言っているのに最後は隠しているわけだ。故にラクトに対して掛ける言葉など、稔には考えつかなかった。


「そうか。まあ、お前の気持ちは受け取っておくよ。でも、今後は俺に言ってからにしてくれ」

「仕方ないなあ」


 ラクトは言ったが、稔は一〇〇パーセント信用する気にはならなかった。何しろ裏で何かを考えているかのような笑顔を浮かべているのだから、仕方が無い。


「さてと。私もスパゲッティを温めてパクっといきますかね」


 ラクトは言い、自身のスパゲッティが入った容器を『温加の術』で温める。触ってみれば稔のおにぎり同様、凍っていたも同然だった。でも食料はそれしか無く、ラクトは温めて開封して口へとそれを運んだ。

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