元男役トップスターから求婚される⑧
■65
第一課題、最終日。
横浦みらい21・ベイサイドスクエア。
一階に店舗を構える人気店『ジェラテリア・マーレ』の前には、今日も霞坂玲奈を見るための人垣ができていた。
店頭のボードには、今回の企画名が大きく掲げられている。
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『あなたが美山遥!』
『朝倉真琴と一緒にジェラートを食べよう!』
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抽選で選ばれた十四人が、一人ずつ美山遥となり、朝倉真琴を演じる玲奈と同じ味のジェラートを食べる。
イベントは前半と後半に分かれ、七人ずつ行われる。
ジェラートは通常より小さなイベント用のカップだったが、すべて食べれば十四個になる。
「真琴ちゃんは、何がいい?」
七人目の参加者が、ショーケースを眺めながら尋ねた。
「私は、遥ちゃんと同じものがいいな」
玲奈は朝倉真琴として笑った。
参加者が選んだのは、ピスタチオのジェラートだった。
二人で同時に一口食べる。
「おいしい」
玲奈は味わうように目を細めた。
「最初は香ばしいのに、あとから甘くなるね。遥ちゃん、こういうの好きだったんだ」
参加者の顔がほころぶ。
「うん。真琴ちゃんにも食べてほしかったから」
「じゃあ、これからピスタチオを見るたび、遥ちゃんのことを思い出すね」
食べ終わると、二人で記念写真を撮った。
「遥ちゃん、またね」
「ありがとう、真琴ちゃん」
玲奈は最後まで、その参加者だけの朝倉真琴だった。
同じようなやり取りを七回繰り返しても、笑顔も受け答えも崩れない。
味の感想も、相手への言葉も、一度として同じものを使わなかった。
前半の終了を告げるアナウンスが流れ、玲奈が店舗奥の控室へ戻ってきた。
スタッフが、すぐに冷たい水を差し出す。
「玲奈さん、大丈夫ですか? 後半も七人ありますから、無理しないでくださいね」
「はい」
玲奈は水を一口飲んだ。
「お仕事なら、ジェラートは無限に食べられます」
「無限ではないので、少しでも体調が悪くなったら教えてください」
「分かりました」
食のリポートでも、参加者とのトークでも、霞坂玲奈に隙はなかった。
「玲奈さん、今日も体験イベントのあと、ABテスト握手会も控えていますからね」
「ファンサは大切ですけど、体力の温存もお願いしますよ」
「はい、大丈夫です。ファンの皆さんと触れ合うたびに元気をもらってますから!」
休憩終了を告げるスタッフの声がかかる。
久世は玲奈の衣装と表情を確認した。
「玲奈。後半も頑張ってね」
「はい。行ってきます」
玲奈は朝倉真琴の笑顔へ戻り、店頭へ向かった。
それを見送ったところで、久世のスマートフォンが振動した。
画面に表示された名前を確認する。
真壁由紀。
久世は人の少ない場所へ移動し、通話ボタンを押した。
「はい。久世です」
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「はい。久世です」
『ハロー、圭子ちゃん。お久しぶり』
聞き慣れた声だった。
「真壁さん。ご無沙汰しております」
『いま、少し時間いいかしら?』
「はい。大丈夫です」
『玲奈ちゃん、今日は横浦みらい21なのね。配信、見てるわよ』
『相変わらず、同接すごいわね。コメントなんて、目で追えないくらい』
久世は店頭へ目を向けた。
朝倉真琴として、八人目の参加者とジェラートを選ぶ玲奈の姿が見える。
「ありがとうございます」
『十四個も食べるんでしょう? あの子、大丈夫なの?』
「イベント用の小さなカップです。それに、スタッフが体調を確認しながら進めています」
『ならいいけど。15歳なんだから、大人がちゃんと止めなさいよ』
「はい」
真壁は昔から、この調子だった。
日本映画界を代表するプロデューサーでありながら、付き合いの長い久世を、いまだに圭子ちゃんと呼ぶ。
『それでね。少し早いけど、おめでとう』
「何がでしょう?」
『玲奈ちゃん、第一課題1位よ』
久世は黙った。
『事前案内のとおり、フォロワー数の集計は、さっき正午で締め切ったわ』
「ですが、演技動画の提出締切は、まだですよね?」
『分かってるわよ』
真壁は軽く笑った。
『残っている演技審査で、ほかの候補者が全員満点を取っても、玲奈ちゃんの一位は覆らないの』
「そこまで差がつきましたか」
『ええ。圧勝ね』
真壁は、事もなげに言った。
『もちろん、まだ提出要件と不正の有無を確認する必要はある。だから正式発表は明日』
『でも、規定どおりに動画が提出されれば、何をどう採点しても玲奈ちゃんが1位よ』
「正式発表前に、私が伺ってもよろしいんでしょうか」
『神谷プロを特別扱いしているわけじゃないわ』
真壁の声が、少しだけ仕事のものへ変わった。
『明日の結果発表で、一位になった人に第二課題の曲を決めてもらう。それが玲奈ちゃんに決まったから、先に準備をお願いしているだけ』
『結果が変わらないのに、発表してから考え始めるなんて、時間がもったいないでしょう?』
「相変わらず、せっかちですね」
『映画を一本作るのに、どれだけ労力がかかると思ってるの。進められる仕事は、さっさと進めるのよ』
久世が小さく笑った。
「承知しました」
「………」
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「承知しました」
「………」
『どうしたの? あまり嬉しそうじゃないわね』
「いえ、そんなことは」
『まだ、鳳城さんのことを気にしてるの?』
久世は答えなかった。
『あなたの考えていることくらい、分かるわよ』
真壁は楽しそうに言った。
『第一課題の1位の人間が第二課題で使う歌を選ぶことができる』
『ビジネスとして考えれば、第一課題で得た優位を最大限に使うのが正しい』
『でも、表現者同士の勝負としては、対等か、できれば自分たちの方が不利な条件で鳳城礼に勝ちたい』
『大方、そんなところでしょう?』
「…………」
久世は、肯定も否定もしなかった。
『………』
少し考え真壁が言った。
『玲奈ちゃんが選ぶ曲が決まったら、鳳城さんに伝えてもいいわよ』
「よろしいんですか?」
『別に構わないわ』
真壁はあっさりと答えた。
『課題曲だけでなく、どんな作戦で挑むつもりなのかも、教えたければ教えなさい』
『私は、このオーディションから、映画を成功させるための一番いい朝倉真琴と、一番いい映像が出てくることを望んでいるの』
『事前に情報を伝えることで、鳳城さんたちの動画がもっとよくなるなら、制作側から止める理由はないわ』
「ありがとうございます」
『もちろん、夢を売る商売なんだから、こんなことは公言しちゃ駄目よ』
『言わなくてもわかると思うけど、そこのところは、鳳城さんにも守ってもらって』
『ドキュメンタリーだって、カメラを置き、見せる場面を選んだ時点で、そこには演出が入るもの』
『この程度なら、許される演出の範囲でしょう?』
久世が小さく笑った。
「はい」
『それから、明日の発表では、玲奈ちゃんには初めて聞いた顔をしてもらうから、そのつもりでね』
「真壁さん・・・・・・」
「ありがとうございます」
『私は映画の成功のためにやっただけ』
『お礼を言われる立場にはないわ』
真壁も笑う。
「はい」
『明日のリモート発表で、玲奈ちゃんに直接聞くわ』
『第二課題の曲に、何を選びますかって』
「それまでに、本人と相談しておきます」
『お願いね』
「はい」
『それじゃ、玲奈ちゃんに、おめでとうと伝えておいて』
「ありがとうございます」
『玲美にもよろしく』
「承知しました」
通話が切れた。
久世はスマートフォンを下ろし、店頭に立つ玲奈を見た。
第一課題の勝者は、霞坂玲奈。
だが、久世には、まだ勝たなければならない相手がいた。
鳳城礼。
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すべてのイベントとABテスト握手会を終えた神谷プロのスタッフは、ベイサイドスクエアが用意した会議室に集まっていた。
大型モニターには、この一週間で作成した四種類の演技動画と、それぞれの分析結果が表示されている。
現地投票、専用アカウント上の反応、視聴維持率、コメントの内容。
そして、実際に観客と接した玲奈本人からのフィードバック。
久世は、すべての数字に目を通した。
「最終提出動画は、タイプDでいきます」
スタッフたちが一斉に頷く。
久世は玲奈を見た。
「玲奈も、それでいい?」
「はい。私も、タイプDが一番いいと思います」
「分かりました」
久世は会議室を見回した。
「では、本間さん。タイプDを『封鎖都市』制作委員会へ提出してください」
「承知しました」
本間がノートパソコンを操作し、提出用のファイルと必要書類を確認する。
「提出が完了したら、受領確認までお願いします」
「はい」
久世は、あらためて玲奈とスタッフたちへ向き直った。
「玲奈。そして、皆さん」
会議室が静かになる。
「第二課題の歌唱審査も、その先の撮影も残っています」
「玲奈を主演にした『封鎖都市』が完成するまで、私たちの仕事は、まだ始まったばかりです」
久世は一人ひとりの顔を見た。
「それでも、まずは第一課題の一週間。本当にお疲れさまでした」
「皆さんのおかげで、いまの私たちにできることは、すべてやり切れました」
玲奈が立ち上がり、スタッフたちへ頭を下げる。
「一週間、本当にありがとうございました」
会議室に拍手が起こった。
「では、本日の業務は、提出担当を除いて終了です。明日の正式発表に備えて、今日はしっかり休んでください」
スタッフたちが、次々に席を立つ。
「ああ、そうだ」
久世が、帰り支度を始めた玲奈を呼び止めた。
「玲奈。少しいいかしら?」
「はい」
会議室の扉が閉まり、二人だけが残った。
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久世圭子のチームは、仕事が終わったあとの引きも速かった。
本間から動画の提出と受領確認が完了したという報告が届くと、スタッフたちは手早く機材と資料を片づけ、次々に会議室を出ていった。
十分も経たないうちに、室内には久世と玲奈だけが残った。
「玲奈」
「はい」
「まだ正式に確定したわけではないけど、おめでとう」
玲奈が目を瞬かせる。
「真壁さんから、連絡があったの」
「第一課題のことですか?」
「ええ。フォロワー数の集計が終わって、あなたの一位が事実上確定したわ」
「でも、演技審査はまだですよね?」
「残っている候補者が全員満点を取って、あなたが最低点でも、順位は覆らないそうよ」
玲奈は、すぐには答えなかった。
やがて、椅子に座ったまま深く頭を下げる。
「ありがとうございます」
「正式発表は明日よ」
「はい」
「で、明日のリモート発表で、真壁さんから第二課題の曲を聞かれることになっている」
久世は玲奈の正面へ座った。
「もちろん、知らなかった様子で発表は聞かなくちゃいけないけど」
玲奈が少し笑った。
「そこのところはテンポよくいきたいんだって」
「だから、何を選ぶか、いまから決めておいてくださいって」
「分かりました」
「というわけで、一週間お疲れさま。そして、改めておめでとう」
「ありがとうございます」
「それで、課題曲は何にする?」
「玲奈の持ち歌の『私をアップデート』にする?」
「そのことなんですけど」
玲奈は久世をまっすぐ見た。
「選ぶ曲は、オーディションが始まった直後から決めていました」
「何に決めていたの?」
「母の『恋するロケット』でいきたいです」
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「母の『恋するロケット』でいきたいです」
久世は、すぐには言葉を返さなかった。
「あなた、本気で言っているの?」
「はい」
「それが、どういう意味になるか分かっている?」
「分かっています」
玲奈は迷わず答えた。
「できれば、母にも一緒に歌ってもらいたいです」
久世の表情が、さらに厳しくなる。
「これは、あなたの舞台よ」
「『私をアップデート』なら、霞坂玲奈自身の歌として勝負できる」
「それを、玲美の代表曲で、本人とのデュエットにしたら、必ず言われるわ」
「母親の力を借りた。親の七光りで勝った。一人では勝てないから、国民的大女優を連れてきたって」
「はい。言われると思います」
「それでも選ぶの?」
「はい」
玲奈は久世をまっすぐ見た。
「これは、私一人のオーディションではありません」
「神谷プロ全員のオーディションです」
「それに、私が一人で勝てると証明するためのものでもありません」
「『封鎖都市』を世界中の人に見てもらうために、誰が一番大きな力を集められるか。それを試されているんだと思います」
「…………」
「もちろん『私をアップデート』でも、勝てると思っています」
玲奈は静かに言い切った。
「でも、勝てる曲ではなく、一番勝てる曲を選ぶべきです」
「『恋するロケット』を母娘で歌うことが、私たちの持っている一番強いカードだとしたら」
「それを切らない理由はありません」
「それはそうかもしれないけど」
「あなた自身の評価は、どうなってもいいの?」
「よくはありません」
玲奈は正直に答えた。
「私自身の力も、きちんと評価してほしいです」
「でも、作品に関わる人間が、自分の名誉や承認欲求を、作品の成功より上に置くべきではないと思います」
「私のプライドが満たされることと、『封鎖都市』を見てくださるお客様が増えることは別です」
久世は、何も言えなかった。
自分は、玲奈自身の力で鳳城礼に勝たせることを考えていた。
玲奈は、自分がどう評価されるかより、神谷プロと『封鎖都市』を勝たせることを考えていた。
15歳の少女は、久世よりも先まで見ていた。
「分かったわ」
久世は、ようやく答えた。
「そこまで考えて決めたのなら、『恋するロケット』でいきましょう」
「会社への対応は私の方でしておくわ」
「ありがとうございます」
「私からも玲美には話す」
「お願いします」
久世は少しだけ考えた。
「その代わり、というつもりではないんだけど」
「はい」
「私のわがままを一つだけ、聞いてもらえる?」
「何でしょうか?」
久世は玲奈の目を見た。
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「私のわがままを一つだけ、聞いてもらえる?」
「何でしょうか?」
久世は玲奈の目を見た。
「あなたが独走状態なのは知っているわね?」
「はい」
「では、現在二位の候補者は?」
「森下紬さんです」
玲奈は即答した。
「鳳城プロダクションに所属している、十五歳の方です」
「そう。彼女を育てているのが、鳳城礼」
久世は椅子の背もたれへ身体を預けた。
「礼が歌劇団を退団するとき、私は神谷プロへ来るよう誘ったことがあるの」
「そうだったんですか?」
「ええ。俳優としてでも、育成責任者としてでも、望む条件を用意すると伝えた。でも、断られたわ」
「久世さんと鳳城さんには、確執があるんですか?」
「確執というほどではないわ」
久世は少し考えた。
「私が、一方的にライバルだと思っているだけ」
「…………」
「あなたのお母さんは、売上でも知名度でも、鳳城礼を上回った」
「でも、表現者として玲美が礼を超えたかと聞かれたら、私は今でも頷けない」
「もちろん、それは、あくまで私の主観よ」
久世は玲奈を見た。
「そして今、礼は森下紬を育てている」
「私は、あなたを育ててきた」
「今度こそ、私はあなたで、森下紬に勝ちたい」
「私自身も、神谷プロにここまで育ててもらった人間なの」
「だから、あなたが森下紬に勝つことで、私を育てた神谷の看板を、今まで以上に磨き上げたい」
「そして、あなたには、神谷プロの次の時代を背負う看板になってほしい」
玲奈は黙って、久世の言葉を聞いていた。
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「もちろん、第一課題で一位になったあなたには、最も有利な曲を選ぶ権利がある」
「それを手放してほしいとは言わない」
「それに、私も神谷プロの人間よ」
「だから、『恋するロケット』を選び、玲美との母娘デュエットで、全力で勝ちにいくことに異論はない」
「では、何を?」
「私たちが何を選び、どんな作戦で挑むのか。正式発表より先に、鳳城さんへ伝えたい」
玲奈がわずかに目を見開いた。
「鳳城さんたちだけ、ほかの候補者より早く課題曲を知ることになります」
「ええ。数時間だけ、準備する時間が増える」
「何も知らない相手に、玲美との母娘デュエットをぶつけて勝っても」
「私の中には、わだかまりが残る」
「たぶん、チームのみんなの中にも、残る人はいると思う」
玲奈が、久世を見る。
「もちろん、そんなことまで、いちいち全員に説明するつもりも、必要もないと思う」
「でも」
久世は少し笑った。
「私は、チームの責任者だから」
「みんなには」
「できるだけ、変なわだかまりを抱えずに仕事をしてほしいの」
「だから」
「こちらの手札を明かして、準備する時間を与える」
「そのうえで、あなたに勝ってほしい」
少し間を置く。
「まあ、そこまで気にするのは、私のわがままなんでしょうけどね」
少し間を置く。
「真壁さんからは、すでに許可をいただいているわ」
「玲美にも、これから事情を説明する」
「残るのは、玲奈。あなたの了承だけ」
「…………」
「これは、私の個人的なわがままよ。嫌なら断って構わない」
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玲奈は少し考えた。
「分かりました」
「むしろ、私も久世さんと同じ意見です」
「えっ?」
「私は、神谷プロの仲間と一緒に、『封鎖都市』を見てくださる皆さんへ、最高のエンターテインメントを届けたい」
「もちろん、ルールを守ったフェアな競争であることが前提です」
玲奈は続けた。
「鳳城さんたちに情報を伝えることで、向こうから、もっと良い演技や動画が出てくるかもしれない」
「それで一番得をするのは、見てくださる皆さんです」
「ですから、これは私のわがままにもなります」
「ビジネスとしては、間違っているのかもしれません」
「でも、エンターテイナーとしては、間違っていないと思います」
「…………」
玲奈は、久世を見る。
「それに、久世さんが言ったように、最高のライバルに勝つことで、私たちも、最高のチームになれる」
「だから、課題曲が『恋するロケット』であることも、母とのデュエットで挑むことも、全部伝えてください」
「分かったわ、玲奈」
久世は静かに頷いた。
「でも、一つだけ訂正させて」
「はい」
「神谷プロは、お客様に喜んでもらうための最高のエンターテインメントを作る集団よ」
「お客様にとってプラスになる選択なら、ビジネスとしても間違っていない」
久世は玲奈を見た。
「だから、あなたはわがままを言っていない」
「でも、久世さんは?」
「私のは、わがままよ」
久世はあっさりと認めた。
「鳳城礼に勝ちたい、それは、私個人の意地だもの」
「もちろん、万全の相手と戦わせた方が、あなたも、チームのみんなも成長できる」
「責任者として、間違った判断をしているつもりはないわ」
玲奈が、少し首を傾げる。
「でも」
「それなら、私と同じじゃないですか?」
「結果はね」
久世は笑った。
「でも、理由は違う」
「私は、自分の意地を、チームの責任者として、自分の責任で持ち込んでるの」
「でも」
久世は玲奈を見る。
「私の意地まで、あなたが背負う必要はない」
「あなたは神谷プロの仲間と作品と見てくださるお客様のことを考えて、自分で同じ答えを選んだ」
少し笑う。
「だから、あなたのは、わがままじゃないわ」
「……はい!」
玲奈は大きく頷いた。




