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新納凛子(32)は今日も求婚される  作者: 冬室すずめ
元男役トップスターから求婚される
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14/14

元男役トップスターから求婚される⑨

■74


同日、夜。


柴又側の江戸川河川敷には、葛飾納涼花火大会を見ようと、大勢の観客が集まっていた。


夜空に大輪の花が開く。


少し遅れて届いた音が、河川敷の空気を震わせた。


「真琴、見て!」


浴衣姿の礼が、夜空を指さす。


「すごいね、遥ちゃん!」


紬も、朝倉真琴として笑っていた。


二人の少し前では、白い撮影スタッフ用ビブスを着た凛子が、小型のアクションカメラを構えている。


ビブスの背中には、二人の名前と企画の説明、専用アカウントへつながるQRコード。


花火を見に来た人々がそれに気づき、スマートフォンで読み取っていく。


最終日の配信も、順調だった。


「遥ちゃん、次は何色だと思う?」


「青」


「私は赤」


「じゃあ、外れた方が帰りにアイスね」


「いいよ」


紬が答えた直後、二人の間で礼のスマートフォンが振動した。


礼は画面を見る。


久世圭子。


一瞬だけ、礼の目が細くなった。


「あっ、ごめん。電話が来ちゃった」


礼は、すぐに美山遥の笑顔へ戻った。


「真琴ちゃん、ちょっと待ってて」


「うん」


礼は凛子へ近づき、小声で伝える。


「新納さん。カメラは、このまま真琴を撮っていて」


「分かりました」


凛子はレンズを紬へ向けたまま頷いた。


礼は配信の音声が届かない場所まで離れ、スマートフォンの通話ボタンを押した。


「もしもし」


■75


『久しぶりね、鳳城さん』


「久世さん。お久しぶりです」


『いま、少し話せる?』


「ええ。配信からは離れているから、大丈夫よ」


『知ってる。こっちでも見てるもの』


夜空に、次の花火が上がった。


少し遅れて届いた轟音が、スマートフォン越しの久世の声をかき消す。


礼は、さらに人の少ない場所へ移動した。


「それで、何の用?」


『これから話すことは、真壁さんと玲奈の許可を取ってあるわ』


『あなたたちに伝えること自体は、ルール違反ではない』


「何の話です?」


『今朝、真壁さんから連絡があったの』


「真壁さんから?」


『正式発表は明日だけど、第一課題の一位は玲奈で確定よ』


礼は黙った。


『残っている演技審査で、ほかの候補者が満点を取っても、順位は覆らない』


「わざわざ、それを伝えるために?」


『違うわ』


久世は続けた。


『明日の結果発表で、玲奈は第二課題の曲に『恋するロケット』を指定する』


礼の表情が変わった。


「玲美さんの?」


『ええ』


『玲美本人にも参加してもらう。霞坂母娘のデュエットで挑むわ』


「ずいぶんと強い手札を切るのね」


『みんなで話し合ってきめたことよ』


「言ってもいい情報だということは分かったけど」


礼は、川面の向こうに上がる花火を見た。


「それを、どうして発表前に私へ教えるの?」


「少しだけかもしれないけど、私たちが有利になるだけよね?」


『私の……わがままかしらね』


「わがまま?」


■76


『業界での立ち位置は少し違ったけど、私はあなたのことを、ずっと見ていた』


『玲美と仕事をしていたときも、ほかの子と仕事をしていたときも』


『売上でも、知名度でも、負けたとは思っていなかったわ』


『でも、表現者としてあなたに勝ったと思えたことは、一度もなかった』


「…………」


『あなたが退団するとき、神谷へ来てほしいとお願いしたでしょう?』


「覚えているわ」


『あのときも、断られた』


「久世さんと私では、組織と人間のどちらを先に考えるかが違ったから」


『ええ』


久世の声が、仕事のものへ変わる。


『私は、組織で働く以上、その人間は組織の看板を磨くために働くべきだと考えている』


『でも、あなたは違う』


『何かを成し遂げたい人が集まったものが組織であって、組織は、その一人ひとりの夢を実現するためにある』


『あなたは、そう考えている』


「ええ」


礼は迷わず答えた。


「もちろん、久世さんが、そのやり方を選ぶのは自由よ」


「でも、私の考えとは違う」


『私も、もちろん、あなたの考えは理解できる』


『でも、そのやり方では、鳳城礼という才能も、森下紬という才能も、鳳城プロにいるほかの人たちの才能も、最大限には伸ばせない』


『個人は組織の看板を磨くために存在する。』


『玲奈が勝つことで、神谷プロの考え方が正しいということを証明したい』


『そして、神谷の看板を最高に磨き上げたい』


「………」


「久世さんの考えはわかったわ」


「私とは違うけど」


■77


『もちろん、私たちは神谷の人間として、打てる最善手を打つ必要がある』


『だから、出せる範囲にはなるけど、こちらの手札は全て見せるわ』


『制約の範囲内で、可能な限り対等、もしくは私たちを不利な状況にする』


『それで勝てば、私たちのやり方が正しかったと証明できる』


『有利な状況で勝っても、それでは正しさの証明にはならない』


『それが、私のわがまま』


「分かったわ」


礼は静かに頷いた。


「情報、ありがとう」


「でも、私の考えは変わらない」


「結果がどうなっても、私たちは私たちのやり方で、このオーディションを最後まで走り切るわ」


『あなたは、いつもそうね』


久世の声には、わずかな苦笑が混じった。


『人間として、いつも私より高い空を見て生きている』


『だから、失礼を承知で、地面を見ている私が言うわ』


『私たちがやっているのは、お遊戯でも、社会奉仕でもない』


『プロの仕事よ』


「…………」


『鳳城プロの経営状況は、調べさせてもらったわ』


礼の指が、スマートフォンを握り直した。


『あなたの理想がどれほど気高くても、事業を続けられなければ、誰の夢も守れない』


「そこは、久世さんが正しい」


礼は否定しなかった。


「私は、自分が間違っているとは思わないけど、社会は私を間違っていると言っている」


「そして、社会からの判断は経営者なら受け入れる必要がある」


「その点については、久世さんが正しい」


「このままなら、私の理想は、ただの自己満足で終わる」


「そこは否定しない」


■78


『礼!』


久世は初めて、その名を呼んだ。


『もう一度言うわ』


『鳳城プロのメンバー全員で、神谷プロに来て』


『紬ちゃんも、ほかの所属者も、全員引き受ける』


『あなたからの条件も、可能な限り考慮するわ』


「…………」


『神谷という枠の中にはなるけど、できることを最大限にやればいい』


久世が一度、息を継いだ。


『私は、あなたの才能を、プロとして間違った考え方で終わらせたくないの』


礼は答えなかった。


個人のために組織が存在する。


その考え方こそが、個人の能力を最大限に伸ばすための起点になる。


それについては、信念がある。


しかし、プロとして社会から評価されないなら、その信念はただの自己満足だ。


礼の心が、ほんの一瞬だけ揺れた。


■79


『朝倉真琴に玲奈がなるか、紬ちゃんがなるか。それは本質ではないの』


『私とあなた。玲奈と紬ちゃん。みんなの力を合わせれば、世界へ、もっと大きなものを届けられる』


「…………」


『いま返事をしてほしいとは言わないわ』


『ただ、あなたのやり方では、紬ちゃんたちを伸ばしきることはできない』


『それを、あなたに伝えたかった』


久世の最後の言葉が、わずかに震えた。


電話越しにも、久世が泣いているのがわかる。


『ごめんね。遅い時間に、こんな電話をして』


「いいえ」


礼は、紬と凛子のいる方角を見た。


「ありがとう、久世さん」


「そこまで考えてくれて、嬉しいわ」


次の花火が、夜空いっぱいに開いた。


「でも、ごめんなさい。そろそろ戻らなくちゃ」


『ええ。引き止めてごめん』


「また、お話ししましょう」


『ええ。また』


通話が切れた。


■80


「だーれだ!」


背後から伸びてきた両手が、礼の目を覆った。


「真琴」


「正解!」


紬が手を離す。


花火大会は、いつの間にか終わっていた。


夜空には煙だけが残り、河川敷を埋めていた人々も、駅へ向かって歩き始めている。


未成年の紬に夜遅くまでライブ配信させるわけにはいかない。


ライブ配信はすでに終了し、少し離れた場所で、凛子がオフラインで撮影を続けていた。


「遥ちゃん」


紬が、礼の隣へ並ぶ。


「誰からの電話だったの?」


「昔の知り合い」


「そうなんだ」


紬は礼の顔を見た。


「ずいぶん真剣に話してたけど」


「ちょっと、相談されただけ」


「本当に?」


「本当だよ」


「そっか」


紬は、それ以上追及しなかった。


ただ、礼の手を取った。


「言いたくないなら、いまは言わなくてもいいけど」


「何か困ってるなら、ちゃんと言ってね」


「私、遥ちゃんの味方だから」


礼の頬を、涙が伝った。


「遥ちゃん?」


紬が驚いて、礼の顔を覗き込む。


「どうしたの?」


「泣いてるの?」


「…………」


礼は答えられなかった。


紬は手を離さない。


「大丈夫だよ」


「遥ちゃんが何を悩んでても、私、一緒に考えるから」


礼は俯いた。


「うん。なんでもない」


「ありがとう、真琴ちゃん……」


礼は、もう一度紬を呼んだ。


「真琴ちゃん」


「うん? なに?」


「私たち、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、友達だよね」


「遥ちゃん、何言ってるの? 泣かないでよ? そんなの、決まってるじゃん!」


「うん……少し、歩こうか……」


■81


翌日、午後7時。


『封鎖都市』朝倉真琴役公開オーディション、第一課題結果発表会。


公式配信には、結果を待つエントリー者と、その家族、友人、ファンが次々に集まっていた。


コメント欄には、候補者の名前と応援メッセージが絶え間なく投稿されている。


画面では、第一課題として投稿された演技動画の講評が行われていた。


『遥ちゃんが何もしていないなら、そう言って。私、信じるから』


制服姿の少女が、カメラの向こうにいる親友へ訴える。


短い映像が終わると、演技監修を務める宮沢貴子(みやざわ・たかこ)が笑顔で頷いた。


「藤野美咲(ふじの・みさき)さん、とてもよかったです」


「最初から感情を出し切らず、遥の返事を待とうとしていたところが、朝倉真琴らしかったですね」


「特に、最後に一度だけ目を伏せる。その瞬間に、信じたい気持ちと、疑ってしまった自分への罪悪感が表れていました」


画面越しに講評を聞いていた藤野が、深く頭を下げる。


『ありがとうございます!』


「これからも、お芝居を続けてくださいね」


『はい!』


司会者が、明るく拍手を送った。


「藤野美咲さん、宮沢先生、ありがとうございました!」


画面の表示が切り替わる。


中央に、『第一課題・結果発表』の文字が大きく映し出された。


「では、いよいよ第一課題の順位発表です!」


コメント欄の流れが、一気に速くなる。


「審査委員長の真壁由紀さん、そして音楽審査を担当する黒木冬馬さん。よろしくお願いします!」


『はい』


真壁が落ち着いた声で答える。


その隣の画面では、アニメ調の男性アバターの黒木冬馬が大きく手を振った。


『はーい! よろしくお願いします!』


『それでは、第1課題のランキング!』


『10位から行ってみましょう!』


■82


『と、いうわけで! 第1課題の1位通過者は――!』


普段はライブ配信のようなことをほとんどしない黒木冬馬が、今日は誰よりも楽しそうに番組を進行していた。


『霞坂玲奈さんです!』


画面が切り替わる。


真壁由紀、黒木冬馬。そして、第1課題を1位で通過した霞坂玲奈の三人が、画面に並んだ。


『玲奈さん、第一課題、一位通過、おめでとうございます!』


「ありがとうございます!」


『いまのお気持ちは?』


黒木のアバターが、玲奈の方へ身体を向ける。


「まだ信じられないです」


玲奈は偶像である自分の胸元へ手を添えた。


「この一週間、私一人では何もできませんでした。支えてくださった神谷プロの皆さんと、応援してくださった皆さんに、本当に感謝しています」


『いま、この喜びを一番に伝えたい人は誰ですか?』


「そうですね……」


『やっぱり、彼氏さんとか?』


「何を言ってるんですか、黒木さん。いるわけないじゃないですか」


玲奈が笑う。


『本当に?』


「本当です」


『昨日、男の人と手をつないで歩いていたという目撃情報があるんですけど』


「それは弟です!」


コメント欄が、一斉に笑いの反応で埋まった。


「昨日も、塾まで迎えに行って、一緒に帰ったので」


『なるほど。弟さんでしたか』


「はい。でも、弟は芸能活動をしていない普通の小学生なので、撮影は絶対にNGです」


玲奈は急に真顔になり、両腕を胸の前で交差させて、大きなバツ印を作った。


『分かりました。弟さんの平穏な生活は、必ず守ります』


黒木のアバターも、真剣な顔で敬礼する。


玲奈が再び笑った。


『では、やっぱり、お母さんですか?』


「はい」


玲奈は頷いた。


「一番に伝えたいのは、母です」


『なるほど』


黒木のアバターが、大きく頷く。


真壁が、二人のやり取りを見ながら微笑んでいた。


「それでは、次の課題についてお話ししましょう」


玲奈の表情が引き締まる。


「第一課題を一位で通過した霞坂玲奈さんには、事前に発表したルールどおり、第二課題の曲を指定する権利が与えられます」


『どの曲でもいいんですよね?』


そのとき、配信画面の下部に、固い文面のテロップが表示された。


【選択できる楽曲は、制作委員会が商業利用に必要な権利処理を行えるものに限ります】


『あっ、いま画面の下に注意書き、出ていますかね?』


冬馬のアバターが、画面の下を指さした。


『簡単に言うと、今回は映画の宣伝にも使う商業利用なので、制作委員会が権利者から正式に許可をいただける曲だけです』


『SNSで好きな歌を歌ってみた、というのとは違います。何でも勝手に使っていいわけではありませんからね』


『その条件を踏まえると――』


冬馬が玲奈へ向き直る。


『やっぱり、玲奈さんの『私をアップデート』ですか?』


「実は――」


玲奈は、楽しそうに笑った。


「このオーディションが発表されたときから、もし一位になれたら、どの曲を選ぶか決めていました」


■83


「このオーディションが発表されたときから、もし一位になれたら、どの曲を選ぶか決めていました」


「事務所とも、すでに相談してあります」


『そうなんだ! じゃあ、よかったら、この場で教えてもらえたりする?』


「はい」


玲奈は、まっすぐカメラを見た。 一度、息を吸う。


「『恋するロケット』です!」


『えっ!?』


黒木のアバターが、大きく仰け反った。


『『恋するロケット』って、霞坂玲美さんの?』


「はい。母のデビュー曲です」


『玲奈さん自身の『私をアップデート』じゃなくて?』


「はい」


『どうして?』


「できれば、母にも参加してもらって、二人で歌いたいと思っています」


『本人と母娘デュエット!?』


黒木の声は、本気で驚いていた。


その隣で、真壁もわずかに目を見開く。


久世へ事前連絡を入れる前に、真壁は、玲奈が一週間にわたって公開した配信とアーカイブへ一通り目を通していた。


玲奈は、いつも自分がどう見えるかより、朝倉真琴をどう見せるかを優先していた。


自分一人で目立とうとせず、神谷プロのスタッフが用意した環境を使い、観客の反応を受け入れ、作品のためになる選択を続けてきた。


そこまで見れば、玲奈がどう動くかを予測するのは難しくなかった。


霞坂玲奈は、自分の持ち歌を選ばない。


母親の力を借りたと言われる危険を冒してでも、霞坂玲美を参加させる。


自分自身の名誉欲や承認欲求より、作品そのものの成功を優先する。


そして、その職業意識を、15歳のアイドルという偶像の姿で包み、視聴者へ語る。


玲奈が『恋するロケット』を選んだ瞬間、真壁は、自分の予測が正しかったことを確認した。


それでも画面の中では、初めて聞いたように驚いてみせた。


『でも、それだと、お母さんの力を借りて勝とうとしているって言われない?』


黒木が尋ねた。


「言われると思います」


玲奈は迷わず答えた。


「私自身の歌も、私自身の力も、きちんと評価してほしいです」


「でも、これは私一人のオーディションではありません」


「私をここまで育ててくれた、神谷プロ全員のオーディションだと思っています」


『神谷プロ全員の?』


「はい」


「それに、私が一人で勝てると証明するためのオーディションでもありません」


「一番大切なのは、映画『封鎖都市』を、世界中の皆さんに見ていただくことです」


「そのためなら、母の力も、神谷プロの力も、私が持っているものは全部使うべきだと思いました」


『自分がどう見られるかより、作品の成功を選んだんだ』


「はい」


■84


玲奈は頷いた。


「作品に関わる人間が、自分の名誉や承認欲求を、作品の成功より上に置くべきではないと思っています」


「もちろん『私をアップデート』で勝てれば、私はアイドルとして一段上に進めると思います」


「でも、私も神谷プロのみんなも、自分たちがどう評価されるかより、お客様に喜んでいただくことを一番に考えています」


「私たちの目的は、『封鎖都市』を世界中の皆さんへ届けることです」


「そのためには、世界的に知られている母と一緒に『恋するロケット』を歌うことが、一番いい方法だと考えました」


コメント欄に、新しい投稿が次々と並んだ。


――玲奈、十五歳でそこまで考えてるのか。


――事務所が考えた台詞だったとしても、実際に言うのは難しいよ。


――親の七光りって言われるのを分かってて母親を呼ぶの、プロすぎる。


――『私をアップデート』を選ぶと思ってた。


――いや、霞坂母娘の『恋ロケ』は強すぎるだろ。


――神谷プロってそういう発想をする会社なんだな。


『もう一つ、聞いてもいい?』


「はい」


『『恋するロケット』は、初恋の歌だよね』


『朝倉真琴が歌う曲としても、この曲が一番いいと思ったの?』


「はい」


玲奈は笑顔で答えた。


「『恋するロケット』は、初恋の相手と、宇宙の果てまで一緒にいたいと歌う曲です」


「恋の歌ですけど、私は、友情の歌としても聴けると思っています」


「朝倉真琴も、美山遥に、ずっと友達でいようと願っています」


「だから、朝倉真琴として歌う『恋するロケット』を、皆さんに聴いていただきたいです」


――真琴と遥の友情として歌うのか。


――玲奈、本当に原作を読んでるんだな。


――その解釈はなかった。


――早く聴きたい。


真壁が、玲奈へ穏やかに微笑みかけた。


「玲奈ちゃん」


「はい」


「あなたが何を歌いたいかではなく、『封鎖都市』のために何を歌うべきかを考えてくれたのね」


「そこまで作品のことを考えてくれていたなんて、プロデューサーとして、とても嬉しいわ」


「十五歳で、自分がどう評価されるかより、作品の成功を優先できる人は多くありません」


真壁は、一人の職業人を見る目で玲奈を見た。


「あなたは、もう立派なプロね」


玲奈は一瞬、息を止めた。


「ありがとうございます」


椅子に座ったまま、深く頭を下げる。


真壁は、玲奈を見た。


「霞坂さん。先ほど、事務所とも相談してあると言っていたけれど」


「楽曲の使用についても、話は通っているのかしら?」


「はい」


玲奈が頷く。


「神谷プロから、権利処理に必要な協力を行えると聞いています」


「分かりました」


真壁はカメラへ向き直った。


「権利者への正式な申請と契約は、制作委員会から行います」


「それでは、第二課題の指定曲は、霞坂玲美さんの『恋するロケット』に決定します」


「黒木さん、お願いします」


『はい!了解しました!』


『みなさん、第二課題の提出締切は、一週間後です!』


『今回は霞坂玲奈さんが一位だったけど、すっごくいい歌だったら、まだまだ逆転できます!』


『エントリーしているみんなの、素敵な動画を待ってるよ!』


黒木のアバターが、画面へ向かって手を振った。


『それじゃあ、来週もまた見てくれるかな?』


「…………」


『あれ?』


真壁が、訝しげに黒木のアバターを見る。


「黒木さん。あなたの正体、本当はタモリさん?」


『やだなあ。タモリさんは超リスペクトしてますけど、僕はタモリさんじゃないですよ』


『何のことか分からないヤングのみんなは、お父さんやお母さんに聞いてみてね!』


『それじゃ、またー!』


配信は終了した。


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