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同じ苗字

その日の夜。


机の引き出しを探していると、奥から古い写真が出てきた。


何かを探していたわけではない。


ノートを取り出した拍子に、その下に挟まっていたものが落ちただけだった。


床に伏せた写真を拾う。


小さな公園。


滑り台の前に、二人の子どもが立っている。


私と、ひかるだった。


たぶん、小学校に入る前。


私は今よりずっと短い髪で、ひかるは変な柄のTシャツを着ていた。


「……何これ」


思わず笑った。


ひかるが見たら、絶対に嫌がる。


写真の端には、大人が何人か写っていた。


ひかるのお母さん。


私の母。


それから、見覚えのある女の人と、小さな男の子。


誰だっただろう。


写真を裏返す。


母の字で、日付と名前が書かれていた。


私たちの名前。


ひかるのお母さんの名前。


その下に、


朝倉さん一家。


とあった。


指が止まった。


朝倉。


忘れるはずのない名字だった。


父の事件で亡くなった人も、同じ名字だった。


写真を表に戻す。


女の人の顔を見る。


知っている。


昔、ひかるの家で何度か会った。


たしか、ひかるのお母さんの親戚だった。


そこまで思い出して、私は写真を机の上に置いた。


同じ名字。


珍しい名字ではない。


それだけで何かが分かるわけでもない。


けれど、すぐに写真をしまう気にはならなかった。



次の日。


放課後、高橋さんと廊下ですれ違った。


「音羽さん」


呼び止められる。


「昨日の課題、先生に褒められてたよ」


「高橋さんの字以外はね」


「まだ言う?」


笑われた。


「じゃあね」


「うん。また明日」


高橋さんが友達のところへ戻っていく。


私は少しだけその背中を見てから、昇降口へ向かった。


外へ出ると、空は薄く曇っていた。


昨日より少し涼しい。


いつもの道を歩く。


昨日見つけた写真のことを考えていた。


朝倉。


何度考えても、同じ名字だった。


「こはく」


顔を上げる。


少し先のガードレールにもたれて、ひかるがいた。


「どうした?」


「何が?」


「難しい顔してる」


「そう?」


私はひかるのところまで歩いた。


並んで歩き出す。


しばらく迷ってから、口を開いた。


「昨日、昔の写真見つけた」


「写真?」


「公園で撮ったやつ」


「いつの?」


「たぶん幼稚園くらい」


「覚えてないな」


「ひかる、すごい服着てたよ」


「じゃあ見なかったことにして」


少し笑う。


それから私は、昨日から引っかかっていたことを口にした。


「一緒に写ってた人でさ」


「うん」


「ひかるのお母さんの親戚、いたよね」


ひかるの歩く速さが、ほんの少しだけ落ちた。


「母さんの方?」


「たぶん」


私は名前を思い出す。


「朝倉さん」


ひかるはすぐには答えなかった。


一歩。


二歩。


靴の音だけが続く。


「……いたな」


「やっぱり親戚?」


「うん」


短い答えだった。


私は前を見る。


交差点の信号が赤に変わった。


二人で足を止める。


「その名字」


言いかけると、ひかるが私を見る。


「お父さんの事件で亡くなった人と、同じなんだよね」


「……そうだな」


驚かなかった。


ひかるは事件を知っている。


被害者の名前を知っていても、おかしくはない。


それでも。


「偶然?」


私は聞いた。


ひかるは信号を見る。


「親戚っていっても、色々あるから」


答えになっているようで、なっていなかった。


青になる。


ひかるが先に歩き出す。


私も隣に並んだ。


聞こうと思えば、もっと聞けた。


どんな親戚なのか。


あの写真の人たちは、今どうしているのか。


父の事件と、本当に関係がないのか。


少し迷ってから、もう一つだけ聞いた。


「ひかる」


「ん?」


「事件のこと知ってたのって、朝倉さんが関係ある?」


ひかるは前を向いたままだった。


しばらくして、


「……そのうち話す」


と言った。


「そのうち?」


「うん」


また、ちゃんとは答えてくれなかった。


隠していることがある。


さすがに、それくらいは分かった。


でも、不思議と怖くはなかった。


ひかるが言いたくないなら、今は聞かなくてもいい。


話せるときに話してくれればいい。


そう思った。


少し先で道が二つに分かれる。


いつもの帰り道へ曲がろうとすると、ひかるが私を呼んだ。


「こはく」


「なに?」


「昨日の高橋さんとは話した?」


私は足を止めた。


「話したよ」


「そっか」


「先生に褒められたって」


「よかったじゃん」


「高橋さんの字以外はね」


「まだ言ってるの?」


ひかるが笑った。


私も笑う。


朝倉という名字は、頭の片隅に残っていた。


でも今は、高橋さんと話せたことをひかるに伝えられた方が嬉しかった。

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