幕間の一劇
村のはずれで冷たく固く佇む墓碑へと触れながら令嬢は視線を村の方へと向ける。
強く風が吹いて空では目に見えるほどに雲が流れていき、そうして小さくちぎれてはまた遠いところ集まり大きな塊へと変じていく。周囲一帯を覆っていた霧がわずかな合間だけ吹き流されて、どこか不明瞭だった空気が俄かに澄んだようにすら感じられてくる。初めてくっきりとした視界で見る村は思ったよりも小さくて、さらに向こうに広がっている森に遮られながらもこれからまだ大きくなろうとする若々しさも感じずにはいれなかった。
そうして令嬢は見えている視界に見えるある一点に注目し始める。
遠くではなく近くに。
墓場の端に生えていた枯れ木のその向こう側。
「これ以上は近づかないでください。」
誰にも伝わらないだろう小さな言葉でそう呟く。傍らにいた奥方も何を言ったのか良く分からずに首をかしげていたが、それでも令嬢は視線を切らずにいた。
やがて髪を揺らすほどに風が吹いていくととともに、木々の枝がさわさわと音を鳴らしてこすれ合い、そうして令嬢は視界のどこかからかわずかに影の大きさが減ったような気がして、漂わせていた緊張感を払って視線を外したのだった。ただそれでも唇だけは少し震えていた。
「前よりも少しずつ近づいてる。」
誰に言うでもなくそう口から言葉を零していた。
一瞬の晴れ間はまた流れてきた雲によって覆われてやがてまた村は薄暗く寂しさを漂わせ始めるのだった。




