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「で、話し合いとは一体何を話し合うつもりなんだ?」
「それはもちろん同じ世界の同じ国から転移してきたもの同士、いろいろな面で仲良く協力し合う必要があると思ったからそのことについて話し合う必要があるでしょ?」
へえ~そうなんだ、とどこか他人事のように呑気にそれを聞いていた私であったが、そこからどんどんとても呑気になどしてはいられない二人の会話が繰り広げられていった。
「君らはさっきここに連れてこられたばかりで君は特に危機感も不安気な様子もなく、むしろ異次元転移を躊躇いなく受け入れ楽しんでさえいるようにみえる。どこからか事前に情報でも得ていたのか?」
「え~だってこういう状況は異世界転移の定番中の定番じゃない?それにそんな難しくあれこれ悩んで考えたところですでに異世界転移してしまっているわけだから、それならもう受け入れてそこでできるだけ楽しく過ごすために頭を使った方がいいに決まってなくない?」
「だ、か、ら!なぜ君は彼らからまだ何も聞かされてはいないはずなのに、すでに異次元転移のことを知っていたのかと聞いている!それに定番中の定番とは?君はどこで誰からその情報を得た?」
「え⁉別に誰かから聞いたわけじゃないんだけど‥‥でもまあどこからかと聞かれれば、小説とか漫画からって答えるかな?逆にあんなに流行っていたのに二人とも本当にまったく何も知らないわけ?私からすればその方が信じられないんだけど?」
「小説に漫画だと?それはノンフィクションと書かれているものだったのか?それともフィクションか?」
「ちょっと!私のことを馬鹿にしてんの?自分がイケメンだからって調子に乗り過ぎなんじゃない?ファンタジーなんだからフィクションに決まっているでしょ?ったく‥‥‥」
「君は今、自分のその口で言ったことを理解していないじゃないか!ファンタジーなのだから、フィクションに決まっていると言ったが、今のこの俺たちが置かれている状況について君は現実として最初から受け入れている。この矛盾をどう説明するんだ?」
「も~なんなのよ?だからその小説とか漫画には異世界転生とか異世界転移の話がめちゃくちゃあって、展開的に日常の中である日突然転移して、その転移先で魔法が使えるようになって現実世界の経験を活かして大活躍とか?王子に気にいられて王妃になるとか?人間のいない人外の国に飛ばされてそこで彼らと楽しく生きていくとか?そういう定番ストーリーが大人気だったの!それで今のこの状況はまさにそうじゃない?そうでしょ?矛盾でも何でもないじゃない!」
「‥‥‥もういい。とにかく君はファンタジーの世界が現実に在ることに対して疑問を持つことがないということだけはよくわかった」
「で、さっきから黙っているが、ヤマノさんはどう思っているんだ?」
「はあ⁉なんで私は君でヤマノはヤマノさんなわけ?」
急に話を振られて、というか、苗字を呼ばれて我に返った私だったが、なぜかそれが気に食わなかったらしいヒメカさんが彼にそう食って掛かった。
「ん?ヤマノさんはさっききちんと挨拶をしてくれたからな。君は俺にこの小屋を譲れとは言ったが挨拶はなかった。だから君というほかないだろう?」
「そ、それはそうだけど‥‥でも!あの時はヤマノがつまずいて私を巻き添えにしたせいで負った傷が痛くて気分は最悪で‥‥それで名乗るのが遅くなって本当に申し訳なかったわ!私の名前はシラトリヒメカよ。だから私のことはヒメカって呼んでね?」
「あっそ。で、ヤマノさん?どう思う?」
は?私がつまずいた?いや、厚底ブーツでバランスを崩したあなたが私の服を掴んで引っ張ったことで起きた惨事だったはず。そう心の中で言い返していたが、どういうわけかヒメカさんがこっちを睨んでいる。それにノスケさんの早くしゃべれ圧も強めな気がする。
どうしよう‥‥
ここでいつものアレを唱えたいところだが、そんな時間はなさそうだ。
それに二人の目の前でやる勇気もない。だからとにかく思い切って今の正直な疑問を素直に口にしてみることにした。
「えっと‥‥お二人の会話をずっと聞いていたのですが、私たちはその、異世界転移?異次元転移?の状態にあるということで間違いないですか?そしてそれは現実ではなく、夢を見ているとか?そういった状況であると理解すればよいのでしょうか?」
「だよな?まあ普通ならそういう捉え方をすると思う。実際俺も彼らに話を聞くまではそんな感じで捉えていたからな。だが彼らから聞いた話によれば、今俺たちがいるこの場所も現実で、単に別次元に迷い込んでいる状態なのだそうだ。理解するのは難しいが、俺たち人間がいた場所と、彼ら鬼族のいる場所は大きく分けて二つの異なるエネルギーが平行に流れているという意味で次元違いと表現しているだけで、実際はグラデーションのようになっているからその重なったところで自分の意識がそこに合えばが移ってしまうということになるらしい。だから俺たちもなんらかの切欠でたまたまそこに意識を合わせてしまったから移動してしまったと言うことになるようだ」
やばい。まったくわからない‥‥‥
ノスケさんの正式名称を聞いた時と同じくらい混乱している。
でもここでわかったフリをしてわからないままにしておく方が後々恥をかく。
だから今一時の恥を選択し、素直におっしゃっていることが理解できませんでしたと言って頭を下げた。
意外なことに、彼は笑ってそれはそうだろう。自分もなかなか理解できなかったからよくわかると言って、彼らから一度きちんと話を聞いた方がよいとその手伝いまで申し出てくれた。
「ノスケさん、ありがとうございます!ちょっとだけ安心できました。それで、こんなことをお尋ねするのもおかしいとは思うのですが、知っていたら教えてください。その元の次元?にはいつ戻れるのでしょうか?さすがに今日はもう無理ですよね?」
こんな時にと呆れらそうだが私は今日、推しに会えるのをずっと楽しみにしていて今日を逃すと今度いつ会えるかわからない。だからできることなら今すぐにでも戻って生の推しの姿をひと目でよいからこの目にしかと焼き付けたいのである。
「そうだね。残念ながら無理だと思うよ。そういえば野外ライブだっけ?そこに行く途中だったとかって聞いた気がするけど、もしかしてそのライブに行きたいから?」
「はい、その通りです!実は今日、私の推し初めての野外ライブで運よく抽選でチケットをゲットすることができて参戦するのをずっとすごく本当に楽しみにしていたんです!」
私はその無念さを誰かに聞いてもらいたくてつい初対面の彼にそうこぼしていた。彼はそっか~と気の毒そうな表情をして何かを口にしようとしていたが、そこにヒメカさんの「ヤマノの推しってハルカワジュンでしょ?その全身ピンクのコーディネートですぐにわかるけど、メンカラがピンクなのに六人の中で一番地味で、一人だけイケメンではないって言われているファンの間でもなんでこいつがって不思議がられているやつでしょ?」というとんでも発言が割り込んだ。
「‥‥‥ヒメカさん?私にとってジュンくんは誰よりもかっこいい最高の推しなんです。それにピンクがよく似合っているし、とっても素敵で魅力的な男性だとも思います。他の誰の批評も感想も私には関係ありません。ホント、どうでもいいです」
「また~強がっちゃって!でもまあヤマノにはお似合いなんじゃない?」
ヒメカさんはそう言って失笑したが、私は心の中でお似合いと言われたことがうれしくてそれはどうもと返していた。
「ヤマノさん、実は俺もハルカワジュンのファンなんだ。その、アイドルとしての彼のことは正直よくわからないんだが、前に戦隊ものシリーズのヒーロー役でテレビに出ていたことがあっただろう?その時弟が好きで観ていて横でなんとなく一緒に観ていたんだけどマジで面白くてはまった。だからこの俳優が出ているドラマとかがあれば、それも観てみようと思うくらいにはファンなんだ」
え~⁉戦隊もの好きがこんなところに⁉
何を隠そう私もそこから彼のファンになったのだ。
この年代で戦隊ものが好きなんて、これはもう運命と言ってよいのではないだろうか?もちろんノスケさんとの恋愛どうのこうのではなく、同担としてジュンくんの情報交換をするお友達という運命である。
「わたしジュンくんの戦隊ものヒーローグッズ、結構集めてます!よかったら今度お見せします!」
だから興奮してそう告げると彼は苦笑し「いや、そこまでは大丈夫かな?」と返してきた。そうか、自慢のコレクションを見せびらかす数少ないチャンスだと思ったが残念だ。でもこればかりは仕方がないだろう。
「でも彼はなかなか良いことを言うよね?確か名言集みたいなのをSNSで見かけたな?ヤマノさんのさっきのあの呪文?も彼の名言集にあったんじゃない?」
呪文?‥‥‥
は⁉まさか私、口に出して言ってた?
できる!絶対にできる!パワーチャージ!って?
確かにアレはジュンくんがいつかの雑誌のインタビュー記事の中で自己肯定感について話しをしていた際、心の中で口癖にしている言葉として上げていたものだ。そしてそれを読んだ私はなんて簡単で素晴らしい自分を鼓舞するための言葉なのだろうと感激し、ついでにジュンくんがヒーロー役を務めていた際の決まり文句も付け加えてあの呪文、ではなく、私による私のためのオリジナル鼓舞ワードとなった。
「まあ呪文ではないんですが、ジュンくんの名言の中にあった言葉なのは間違いないですね‥‥でもまさか今日に限って口に出していたなんて、ホント、恥ずかしいです」
そう告げる私に彼はむしろまだ顔も見ていない相手なのにそれで面白いなとすでにプラスの印象を持ったから恥ずかしいなんて思わないでほしいと言ってくれた。なんてやさしい人なのだろう。私はうれしくて思わず何かを差し上げたくなったがバックの中にはバンドエイドと空のペットボトル、推しタオルに推しうちわ、そしてイージーミールバーとかいうカロリー高めの携帯食しか入っていない。
「あのさ~もうハルカワの話はいいからそろそろ今後の話をしない?」
すると少しイラついたような感じでヒメカさんがそうつぶやいた。
「今後とは?別に君は君で好きなように何でもすればいいじゃないか。俺もヤマノさんも自分で考えてこれからどうするかは決める。ここで無理に決めて皆で一緒に行動する必要はないだろう?」
「え~⁉だって同じ世界から来たのはこのたった三人だけなんだよ?あとは人外しかいないみたいだし、できるだけ一緒に行動するべきでしょ?」
その後も三人で協力しないとここで生きていくのは難しいとか、なにか困ったことが起きたらどうするんだとか、私と彼を必死に説得し続けていたが、とにかく一度ここの代表者と話をして現状確認の後でもう一度話すということで今日のところは解散となった。
そしてその翌朝の目覚め後、私はなんだか妙な感覚に陥っていた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




