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「やはり迷い子か?お前たちはこれから案内する場所でしばらく過ごすことができる。現在はお前たちの前に保護された一人がそこにいてお前たちを含めると三人となる。では私たちについてくるように」
私たちの前に立ったコスプレの人たちの代表らしき人がそれだけ告げるとさっさと歩き出してしまったので私は慌てて止めた。
「あの!すみません!私たちは確かにちょっと道に迷ってはいるのですが、野外ライブの会場に急いで向かわないといけないので申し訳ありませんが会場までの道を教えていただけないでしょうか?」
「はあ~まったくあなたは何寝ぼけたことを‥‥‥ここは異世界!ライブもその会場もあるわけないでしょう⁉とにかく今はこの人外さんたちの言うことに従って宿泊場所に向かうのが先決なの!そこでゆっくり今後のことを考えるのよ!」
彼女の頑固な異世界設定にはもう我慢ができず、いい加減にしてほしいと言おうとしたが、それよりも早くコスプレの代表が先に口を開いた。
「異世界ではなく異次元だ。ガイアというガイアが創造した同じ世界の中に生きていることに変わりはないからな」
「‥‥‥‥‥」
どういうことだろう?
彼までおかしな設定を通そうとしている?
もしかして彼らのコスプレに合わせたその設定で話さなければならないとか?
それとも単に皆で私をからかっているだけ?
私は困り果て、何をどう話すべきか考えていたが、そんな私に彼は「コスプレとは何かよくわからないが我々は鬼族だ」と告げてきた。
鬼族?鬼のコスプレではなく鬼族?
確かに彼らは赤と青の肌で頭には小さいが角も見えている。
私の知る幼い頃に読んだ絵本で見た通りの鬼の姿をしている。
「えっと‥‥その、コスプレというのは想像上のキャラクターになりきってその姿を楽しむことなので、あなた方は鬼の姿を模倣して鬼族として楽しんでいるだけなのではないですか?」
いまだよく理解できず、納得していない私は彼らにきちんと真意が伝わるようそう説明し、次こそ彼らから納得のいく答えが返ってくることを期待していた。
「模倣ではなく鬼そのものだ。そもそもお前たち人族とは違う。我々は鬼族と言う種族で人族とは違う次元で生きている。お前たちはどういう理由かは知らぬが我々の生きる次元に迷い込んでしまったということになる。だからお前たちが今いるのは人族の生きる次元ではなく、我ら鬼族の生きる次元ということだ」
だがそんな期待も虚しく、さらに混乱するような答えが返されてしまった。
それでも一つだけわかったことは、とにかく一度ここから離れ、よい年をして恥ずかしいがもう一人いるというその迷子センターに行かなければ何も解決はしないであろうということだ。
だからもうここは一旦素直に彼らの後について移動を開始することにした。
しかしその後は想像以上に歩かされ、ようやく迷子センターに到着したわけであるが、その場所も想像していた迷子センターとは違い、よくキャンプ場で見られるような簡素な造りの小屋が建ち並んでいるだけだった。
私もその意外な迷子センターに驚きはしていたが、歩いている間もずっと文句を言っていた彼女がここに到着した途端、こんな汚らしい小屋なんて聞いてない!信じられない!王城に案内して!と騒ぎだし、暴れたことには呆れ果て、開いた口が塞がらなかった。
それからなんとか落ち着きを取り戻した彼女はその場にいくつか建てられている小屋のうち、一番きれいに見える小屋を選んでそこを自分の宿にすると言って中に入ろうとしたがすぐに止められた。理由はいたって単純で、私たちの前に保護されたという別の誰かがすでにそこを宿にしていたからである。
「じゃあその人と話して代わってもらうから」
それでも彼女はめげずにそう告げ、その小屋の扉をドンドンと叩くと「悪いけどこの小屋を私に譲ってもらえない?」と大声で尋ねた。するとすでに扉の前に立って待っていたかのように速攻扉が開き、背の高い男性が現れた。
「断る」
その男性は一言そう告げるとさっさと扉を閉めてしまった。
私はこれはまた怒った彼女が暴れ出すのではないかと警戒したが、どういうわけか彼女は頬を染めてもじもじとしている。そして私の方を見て駆け寄ってきたかと思うと「見た?あのイケメン?まさかもう一人の異世界転移者が男性で若くて背が高くてイケメンだったなんてそんな展開ある?やばくない?」と告げてきた。
まあ確かに彼は若くて高身長でイケメンかもしれないが、あの一瞬で感じた彼の彼女に対する印象は決して良くはなかった気がする。しかも挨拶するでもなく、すぐに扉を閉められているのだ。そんな状況にも関わらず、恋する乙女になっている彼女は猛者だ。別に憧れはしないが私には到底真似できない。
そして今、彼女の強引な計画により、なぜか先ほどの男性と三人で今後についての話し合いをすることになり、その旨を伝えに行く担当にさせられてしまった私は緊張で心臓をバクバクさせながらもなんとか小屋の扉の前に立っていた。
私はノックのために上げかけた腕を一旦下ろし、両手を組んだ。そして目を閉じ大好きな推しの顔を思い浮かべながら「できる!絶対にできる!パワーチャージ!」と小さく唱えて目を開け、噛まないようにゆっくり言葉を紡いだ。
「あの、失礼します。私はヤマノハナコと申します。私たちは野外ライブに向かっていたところ、道に迷ってしまい、先ほど鬼の姿をした方々に保護されてこちらに連れてこられました。それでこちらに同じく保護されているものとして?話し合いをしたいと思うのですがいかがでしょう?」
数回のノックの後に扉に向かってそう告げると少しの後、ゆっくりと扉が開かれた。
「はじめまして。俺はトクダガワノブヤスノスケだ。特に話し合うようなこともないと思うがまあ一旦中へどうぞ」
先ほどとは別人のような対応で驚くが、それよりも恐らく名前を名乗ってくれたであろうその名前が気になって気になってまったく前に進めない。
「あの‥‥‥本当に失礼で申し訳ありません。ですが、その、お名前がトクダ?なんとかノスケ?としか記憶できませんでした‥‥‥」
「あ~なるほど?とりあえずノスケでいいよ。それなら覚えられるだろう?」
え?いや、一応正式なフルネームをもう一度聞いておきたいんですがというのと呼び名が最後の三文字かい!と突っ込みを入れたいのを我慢して「ではノスケさん?ヒメカさん、あっ!先ほどの女性なんですが彼女を連れてきますのでこちらで話し合いをするということでよろしいでしょうか?」と尋ねた。
すると彼は渋々といった様子ながらも承諾してくれたので走って彼女を迎えにいった。といっても彼の小屋から彼女の小屋までは距離にして約二十メートルほど。走る意味はあまりなかったかもしれない。
「ヒメカさん!話し合いを了承してもらえましたよ!あちらの小屋で話し合うことになったので行きましょう!」
「ねえ、私、汗臭くない?大丈夫かな?あんなに歩かされて汗かいちゃったしマジ最悪‥‥ヤマノなんか持ってない?私、化粧品一式はあるんだけど、今日はお泊りセットじゃないからあとは何にもないんだよね~」
ドアを開けて中に入った私の視界に入ってきたのは先ほどよりも化粧を濃くして自分の服や腕に鼻を近づけてクンクンと匂いを嗅いでいる彼女の姿だった。
「私はそういったものは何も持ってないです。でも今から話し合うということになっているのでとりあえずは行きませんか?」
なぜかため息をつかれて仕方がないとばかりに小屋をあとにしたが、そもそもこの計画を立てたのは彼女自身であるということを忘れているのではないだろうか?そんなことを思いながら二人で彼の小屋に向かい到着した。
「おじゃましま~す!」
するとノックもせず、彼女は勝手にドアを開けて中に入ろうとしたが、寸前のところで目の前に立ちふさがった彼に阻まれた。
「ノックもなく勝手に入ろうとするな。ここは俺所有の家ではないが、俺が彼らの許可を得て借りて住まわせてもらっている家なのだからそういう態度をとられては困る」
私はそうだそうだと彼女の後ろで頷きながら尤もな彼の言い分に賛同していた。
彼女はごめんなさいとしおらしく振る舞い反省しているような態度を見せていたが、彼の許しが出た途端、彼の腕にすがって上目づかいでご招待ありがとうとつぶやいたその目はやはり狙いを定めた女豹のように映った。
それからあまり機嫌の良くなさそうな彼に案内され、中へ通されると部屋の隅に布団らしき何かが重ねて置いてあり、彼が持っていたであろう荷物もまた同様に置かれている以外は特に何もない殺風景なスペースが広がっているだけだった。
部屋の中央付近でおもむろに腰を下ろした彼は私たち二人にも座るよう促した。
特に何も敷かれていない木目が見えている板の上に座ると少しひんやりとしたがそれが逆に心地よかった。そしてここからどのようにして話を進行するのだろうと二人を交互に見ていると最初に彼が口を開いた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




