無能力者
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結論から言うと俺は敗れた
「自分なりに頑張ったつもりだったけど、結局手も足も出なかった」
身体はまだ動く。だが、まともに戦えたとは到底言えない。
攻撃を避ける。また避ける。
そしてたまに反撃を試みる。
ただ、その程度だった。
「なかなか悪く無かったですよ、武戦」
「よく言うよほんと」
地面に座り込みながら答える。
「俺はほとんど避けてばっかなだけだ」
「…………それでも、私の攻撃を避けた。これは凄いことです」
「……………避けるだけなら、攻撃するより簡単だよ」
そう言い、少し俯く。
「そんな辛気臭い顔をしないでください。せっかくかっこいい顔なのに」
「………………………」
いきなり顔面を褒められた。
まあ悪い気はしない。
「シェイルは強いね。どうやったらそうなれるの?」
純粋に気になった。一応自分も並の能力者よりは強いと思っていた。
少なくとも、今まではそう思って生きてきた。
だというのに、目の前の彼女にそんな自信を打ち砕かれた。
「別に言う必要もないことですが、答えておきましょう」
彼女は一拍を置いて答える
「私には、私を支えてくれるものがあるからですよ」
支えてくれるもの?それだけでここまで強くなれるのか。凄いもんだな
「具体的には何かあるのか?シェイル」
彼女は微笑みながら
「“記憶”ですよ この記憶は私だけのもの。決して手放したくない宝物です」
彼女がその言葉を口に出した時、ほんの少しだけ、寂しそうに見えた。
俺は少し驚いた 彼女のような人が記憶が大事と言うとは
「さて、次はこっちがあなたを質問する側です」
「話せることは話すよ……負けたからね」
負けてしまったらそこで終わりだ。
もしそれが命の取り合いだった場合は命が尽きるその瞬間まで戦い続けるかもしれないが、これはせいぜい小競り合いのようなものだ。
「貴方は…………何故能力を使わなかったのですか?」
!……………気付いていたのか彼女は
「何のことだ?俺はさっきの戦いで能力は使っていたぞ」
まさか話せることは話すとさっき言ったばかりなのに一つ目で嘘をつくことになるとは
先の戦いで俺は善戦とは言えぬまでも彼女の攻撃を何度も避けたりしていたし、反撃も避けた回数と比べたら限りなく少ないがあるにはあった
そこら辺で一発KOされていた奴らよりもシェイルは俺の方が強いとは思っているだろう
「嘘ですね………貴方は私に攻撃をしてきた時、素の技術で動いてきた それは能力によるものではありません」
さらにシェイルは言葉を続ける
「私の攻撃を見切っているその反応速度………普通じゃない、けど私の勘が言っている。それは能力じゃないと」
「さぁ?身体強化系の能力かもしれないだろ?」
「それは違います」
しらを切り続けるしかない 何故なら俺は…………………
「まだ逃げられると思っているのですか?武戦」
シェイルは俺を逃さまいと一歩前に出てきて俺の前に立つ
反射的に後ろに下がるが、意味がない。
「貴方は能力を使わなかった訳じゃない」
「…………………………」
「能力が………………………使えない…もしくは、無いのでしょう?」
彼女の目が、俺をまっすぐ見つめた。
「…………」
「貴方の体は普通とは違う。…………私の攻撃を見切ったその目」
「いや、それだけではありません。空間認識能力や経験による予測」
「それが貴方を強くしていたものです。違いますか?」
まるで全てを見透かされたような観察眼。更には有無を言わさない圧倒的強者の圧をかけてくる。
だが……………言いたくない。言うわけにはいかない。
ここでこんな事がバレたら俺は…………………
「答えてください武戦。貴方は、私に負けたのです」
その目、表情は俺にとって絶対零度よりも冷たいように思えた。
「…………そうだ」
観念する。
そうだ………俺の名前は武戦。ただの………無能力者だ。
「あぁ、きっとシェイルが考えているものであっている」
……………これで俺の秘密が一人にバレてしまった。ここから俺は何をするべきだ?
彼女を口封じ…………出来るかどうか……奥の手を使えばどうにか…………
………考えるだけではどうすることも出来ないな。
「この秘密を持ってどうする?学園に持っていって俺を失格にするか?」
知られたくなかった。学園に入れなくなるかもしれない。怖い。
ここで俺は叶えたい夢があるのに。
「……………そんなことをやる訳ないでしょう」
即答だった。
「………………何故だ?お前もここに来たということは、叶えたいものがあるからじゃないのか?」
「今の貴方では、私の障害にもなり得ませんから」
「それにこの学園は能力者学校と銘打っていますが、非能力者が入っちゃ行けないとは聞いたことがありません。もしかすると校則で禁止されているのかもしれませんが、当たり前過ぎて書いてない可能性もありますし」
彼女は少し笑いながら
「私は貴方を気に入りました」
「だから友達、というものになってみたいです」
「………………………」
表情はまったく変わらず、友達になってくれないかと言ってきた。
つくづく、読めない奴だ。
「まさか友達になってくれ なんて言われると思っていなかったな」
「ダメ………ですか?」
「友達って…………そんな簡単に決めるものなのか?」
「ではどうすれば友達、というものになれるのでしょうか」
「………一緒にいれば、そのうち分かるんじゃないか?」
まぁ、と付け加えて
「俺もシェイルとは友達になりたいよ」
彼女は安心した様子で
「ふう、良かったです 実は私友達が今まで出来たことなくて…みんな私をみるだけで逃げていっちゃうんですよ。何ででしょうね?」
絶対それはシェイルが強すぎるからだな。
話をしようとしても敬語で妙に威圧感が出ていて気兼ねよく話しかけづらい感じになってるし。話してみたら結構面白い人だったけど。
それにしても友達…………友達か…
「シェイルは友達ってどう思う?」
「分かりません。友達にしようともなりたいとも思ったことはありません」
「ですが、私はあなたに興味が湧きました。だから、友達、になろうと思いました」
戦っている最中も今こうして話している時も、表情が全く変わらずただ口の形だけが変化している。
それにより何を考えているか全く読めない。
これまでの会話で、シェイルは友達をあまり理解していないと思う。
俺の思っている友達ではないのかもしれない。
だけどーー
「仲良くなりたいよ。俺は」
「友達になったのですから………仲良くするものなのでしょう?」
「じゃあこれからも仲良くしましょう」
その言葉は、感情がこもっていなくとも、俺にとっては嬉しい言葉だった。
「じゃあどうする?多分もう直ぐ試験終了の21時になると思うけど」
ほんの少し警戒をしようとするが、彼女を見ていると先ほどと違って全く持って敵意を感じなくなった。
「やる事もないし、ここで話しながら待ちますか」
「では、少しだけお話ししましょうか」
その後、俺たちは少しの間話し続けた。
主に俺がシェイルに関して気になったことを聞いただけなのだが。
そして話の流れで、俺の過去の話になった。
「武戦は、過去のことをあまり話しませんね」
「………そうか?」
「はい」
「それを言うなら、シェイルも話してくれないじゃないか」
「人のプライバシーを探ろうとするなんて、良くないですよ。武戦」
「絶対今シェイルに言われたくない言葉なんだが」
「ですが、私は貴方と少し話して疑問に思う事がありました」
「貴方は、何かから、逃げていますか?」
「ズキン」
また頭痛。
何だ、いったい何がトリガーなんだ。
分からない。分からない。
今回は頭の中に雑音が入ることなくそのまま終わった。
「何かから逃げている?」
少し頭を抑えながら答える
「いや、逃げているなんて意識をしたことはないな」
「…………そうですか」
ふと、空を見上げる。
夜の帷が、少しずつ山に降りてきていた。
俺はまだ知らない。
この時出会った彼女が。
この先、俺の人生にどれほど深く関わっていくことになるのかを。
そしてーーー
俺の忘れてしまった記憶が。
一体、何を意味しているのかも。
試験終了まで、残り一時間。




