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クラス代表決定戦⑤

何とか体勢を立て直しシグレはゆっくりと立ち上がる。

彼女は服についた床の破砕物を払い、武戦を見つめた。


「…………途中から強いと思ってましたけど、ここまでとは」


「敵を舐めてかからないことだ。相手の力量をはっきりと認識できていないと痛い目に遭うぞ」


「ーーー油断………油断ですか…確かに無意識に貴方をEランクだと心の中で思い、油断していたかも知れませんね」


そしてシグレは肩を回し、首を左右に揺らして自分の凝り固まっていた体を柔らげる。


「ですがそれは貴方もです」


指を武戦の方にさす。


「自分の力に傲(おご)りがあるように見えます。自分がまだこの程度で負けるはずがないと、そう思っていそうな態度です」


「…………………………」

俺は何も言わなかった。


全てではないにしろ、恐らく彼女の言った通りだと思ったから。


「ーーーそうだな………俺が人に指摘する権利はないな」


と俺は項垂(うなだ)れる。無駄な心の余裕、それは俺が奥の手を持っているからだろう。

だが、それは必勝のものでは無いし何なら俺自身が強くなるわけでも無い。奥の手というのは多くの強者が持っているものであり、それは目の前の彼女も例外ではないのかも知れない。


「だが俺は勝つ。勝たなければならない、そうじゃないと未来の道は作れないから」


「そっか……………でも私も負けたくはないんだよね」


「ーーーだから………私は、少し戦い方を変えます」


その瞬間、場の空気が変わった。

今までのシグレとは明らかに雰囲気が違う。


彼女は体を低く落とし、呼吸が一定で深いものに変わった。


その美しい琥珀色の目は俺の身体ではなく、その先ーー俺が動くこの空間。訓練場全体そのものを見ている。


ーーー嫌な、予感がした。


そして次の瞬間


「ーーーーッ!」


シグレが目の前から消えた。


「俺の瞬きをするタイミングを見たか………!」


シグレは自分が見られている状況で武戦に攻撃は当たらないと判断し、相手が瞬きをする瞬間を狙って接近したのだ。


「一体どこへ……」


「ヒュッ」


ーーー右から音!


咄嗟に頭を回転させその攻撃を認識しようとする。


だが………

「フェイクです」とその言葉を囁かれたように感じた。


当たり前のようにそこにはシグレの姿はなく、俺の死角に入ったのだろう。


彼女の鋭い指先が俺の頬を穿った。


何とか思考加速で空間を認識し、負傷は最小限にとどめられたが頬が裂かれ、血が滴る。


「血を流すのは久しぶりなんだが?」


「じゃあ私は武戦の久しぶりを貰えたってことですね」


その次の瞬間、シグレは最大の力で震脚を踏み抜く。

「ズドオオォオン」という音を立て、床を破砕させる。


「ーーー視界が悪いな」


あたりには埃や砂が立ちこもり、見えていたはずの情報が限りなく少なくなっていく。


「ヒュッ」

ーーー今度は左から音がする


だが同じ技に二度引っかかるわけにはいかない。前と同じようにフェイクを入れてくる可能性だってある。


「思考加速を使っても………!」


俺の視界に映る世界は停止する。だがその景色は遥かに澱んでいて何の情報も得ることができない。


解除して賭けるしかないのか………?だが、今はそれしか思い浮かばない。


解除した瞬間、シグレの拳が俺の肩を捉えた。


「っ…………!」


少しの衝撃が走る。大したダメージは入っていないが体が後ろに流れた。

その隙を見逃さず、シグレはさらに踏み込む。


「破!!」


後ろから音がし、一瞬で振り返り腕を交差させて防ぐ。


衝撃で足元の地面が深く沈んだ。

さっきまでとは違う。彼女は俺の未来を見ているだけじゃない………俺の次の行動まで誘導している。


それは視界の不良で更に効果を帯び、より強力なものとなった。

煙から逃げ出そうと、俺は移動をする。だが当然シグレも追ってくる。


ーーーその動きは、無影流そのものだった。

俺が避けやすそうな場所に攻撃をし、そこから更に追撃をする。俺が反撃をしようとする頃には姿を消し、また移動する。


まるで俺の周囲に、逃げ道そのものが存在しないようだった。


「どうしました!?」


シグレが叫ぶ。


そのまま彼女は俺に奇襲、意表を突いた攻撃を何度も仕掛けてくる。


「さっきまでの勢いはどうしたんですか!?」


蹴りが迫る、だが避けられる場所は一つしかない。避ける、だがそこに追撃が来る。防ぐ、今度は肘の攻撃がくる。身体を捻る、また次の攻撃。


「…………避けきれない」


彼女の攻撃がまた一つ被弾した。身体に衝撃が響く。


ーーー押されている、さっきまでとはまるで逆の状況。


俺は隙を見て攻撃を繰り出す。

だが、その姿勢、動き、呼吸、全てを読み彼女は捌く。


「私には見えています!」


「…………………」


「貴方がどこに動こうとしているのか!私のどこを狙いたいのか!」


「…………………」


「だからーー!」

シグレが踏み込む。


「私には当たりません!!」

目にも止まらぬ速度で襲ってくるその拳を紙一重で避ける。


だが次の蹴りがくる。更に肘、腕、指、肩幾度も彼女は攻撃を俺に浴びせてくる。


なのに、こちらの攻撃だけが届かない。


ーーー耐久勝負に持っていくか?


そう考えていた瞬間、激しい攻防で風があたりに巻き起こり、だんだんと周りを囲っていた埃は晴れ、空気が鮮明になっていく。


彼女は俺から距離を取った。


「はぁ………はぁ………」

シグレは息を切らし、呼吸を正常に戻そうとしていた。


俺は負傷し、彼女は疲労している。だが、シグレの目にはまだ戦う意思が残っていた。

ーーーいや、残っているどころではない。更に燃え上がるような情熱を、その瞳から感じることができた。


「……………貴方、どうして、本気を出さないんですか?」


その言葉に、少しだけ俺は驚いた。

「何を言っているんだ?」


彼女は一拍を挟み、息を深く吸ってから紡ぐ。


「戦ってたら………いやでも分かりますよ」

シグレはまっすぐな視線で俺を見る。


「貴方は、最初からいまの今まで一度も本気で攻撃をしていません」


「さっきまでの攻撃も、全力で動いている様子じゃなかった。私の能力を、更に理解しようと動いていたように見えます」


図星だった。いや、俺も言われてから気づいたことだ。

「…………よく見てるな」


「戦い、勝負に関しては、誰よりも真剣ですから」


シグレの表情は怒りに変化する。そしてその両手は強く握りしめられ、何かを堪えているようだ。


「だからこそ言います」


彼女の声が、怒声がこの広い訓練場に響き渡る。


「本気で戦いなさい!!!」


その言葉に思わず俺の目は見開き、心が揺れ動いた。


「貴方がどれだけ強いのか、私はまだ! 見ていません!!」


彼女のその言葉は、真っ直ぐで、本心から言っていることがわかる。

ーーー本気 俺のある記(・)憶(・)の中では、使ったことがない。


使ったことがないから、弱くなってしまう可能性もある。

それは彼女をがっかりさせてしまうかも知れない。それは………なんか嫌だ。

だから………今できる最大限を。 奥(・)の(・)手(・)を(・)使(・)う(・)。


俺は腰に手を伸ばす。


「え?」


とシグレは首を傾げる。


「いったい何を………?」


「本気を出せと言ってきたのはトワ・シグレ。お前が初めてだ」


そしてガサゴソと少し探し、目当てのものを腰から取り出す。


そして俺はそれをゆっくりと構えた。

それは闇を溶かし込んだような色をし、自分の体を優に超える大きさ。先端には全てを飲み込むような穴が空いている筒がある。


「シグレ………お前の言葉に心が動かされたよ。ありがとう」


そして俺は表情を僅かに変え、嬉しそうに笑った。


「これが俺の奥の手(ほんき)だ」


「………………」


シグレの顔から、血の気が引いた。


「…………………え?」


「俺の武器の一つ。ロケットランチャーだ」


「いや」


シグレは手を前に突き出し一歩後ろへと下がった。


「…………いやいやいやいや」


前に突き出した手を本能的に上下に振り、更に一歩下がる。


「ちょちょちょっと待ってください」


「…………何だ?」


「それは…………」


焦り故か、シグレの視線が俺の手元と顔を何度も往復する。


「……………それは違うんじゃないかなぁ……?」


先ほどまでの真剣な表情はどこへいったのか、今の彼女の表情には、明らかな恐怖が浮かんでいた。



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