クラス代表決定戦④
「何故笑みを浮かべるんだ?トワ・シグレ」
「いえ、思っていた以上に貴方が強くて驚いていただけです。そもそも貴方はEランク。確実に勝てると踏んでいたんですけど、こんなのランク詐欺でしょう。思わず笑っちゃいますよ」
と彼女は答える。その回答は限りなく本音に近いものであり、この戦いで初めて本音を吐露したことでもあった。
「それはお前もだろ。全く………Cランクはピンからキリまで多いな」
「それは誰と比べてるんですか?」
「さぁな」
ーーー彼女の能力 それは恐らく一瞬先の未来を見る能力
だが、見えても反応できないものはある。
その弱点を克服するように、彼女の流派が壁となって攻撃が当たらなかった。
「能力を予測できれば、対策は幾つでも思いつく」
今回に関しては運が良い………いや、正確には俺にはとても相性がいいということか
俺は無言で彼女の方向へと歩く。これは攻撃ではない、ただ歩み寄るだけだ。何も考えていないように見えて考えられている。そう彼女に感じられるような動きで近づいていく。
「…………………」
トワ・シグレは何も話さなかった。ただひたすらに、武戦の攻撃を待っている。
ーーー彼女の流派 無影流 それは自分の影を踏まれないよう常に動き回り、相手の背後に立つ事が本質。
だが彼女は…………それをしない。
トワ・シグレの能力 それは相手の動きを事前に察知し、その後の最適な行動を理解できる。
「どうした………ここまで来たぞ。シグレ」
武戦は彼女の眼前へと辿り着いた。だが、それでも彼女は動かない。
「………………っっっ」
彼女の額から汗が一滴滴る。
それは未知ゆえの恐怖。得体の知れない相手と対面し、体が自然と出す危険信号。
「シュッ」と小さな音を立てながら俺は攻撃を仕掛けた。
「来た!!」
待っていましたと、彼女の能力が発動する。
琥珀色の目に光が戻り、美しく爛爛とした目だ。
彼女の目には数瞬先の未来が映し出され、その後の最適な反撃のルートをも弾き出された。
見えた攻撃は自分の鳩尾を狙った蹴り。武戦が右足で蹴っている故、隙が生まれやすい左方面へと進む。
そのまま確実に入ると確信し隙に満ちた武戦へと肘で胸に突き刺した。
「ーーーそれは違う未来だ」
「ーーーーえ!?」
ーーー突き刺した。完璧に入ったはずだった。少なくとも彼女の見た景色には確実に当たっている未来が見えたのだ。
だが俺は、その未来を否定し隙だらけのはずの右胸を掌で防ぐ。
「発勁か…………こんな感じだったな」
そして俺は地面に足を踏み抜く。しかしその震脚はあまりにも優しく、包み込むような柔らかさのようで。
ーーー全く、力が入っていないように見えた
「……………破」
放たれたのは武戦の右手での発勁。
だがそれは彼女には遅く見えた。
ーーーいや、違う、遅いわけじゃない。速いは速い、だが先ほど放っていた武戦の猛攻とは比べるまでもなく遅いと断言できる。
それを経験していたシグレにとって、その速度はあまりも遅く感じられた。
そんな現象が彼女の肌を通じ、体感していた。
無論彼女の能力は絶え間なく発動され続ける。この攻撃も、彼女の視界には映っていた。
「ーーー遅いわ!」
見えた未来はこの位置。完璧に受け流せるように体勢を変える。
そして武戦の発勁は彼女の体に到達する。
ーーーここで受け流した後私も反撃を………
そうトワ・シグレは考えていた。だが………
「ーーーえっ………」
彼女はそう言葉を呟き、体がよろめく。
こんな予定じゃなかった、こんなはずじゃなかった。こんな未来じゃ………なかったはずなのに。
武戦の技は遅かった。トワ・シグレが普段様子見で使っている発勁にも満たないスピード。
「発勁は全身を稼働し、力を溜めて放つ技だ。それにスピードは全く必要ない」
「ッッッなんで使えるんですか!」
「知っていた。それだけだ、珍しくもない。お前が習っていたように俺も鍛えていたんだよ」
「そしてお前の能力の弱点は三つある」
「一つ目は、一度でも攻撃に当たってしまうと避けられる時間は少なくなり、未来が見えていたとしても当たってしまう事があるということ。二つ目はーーー」
だがシグレは武戦の言葉を最後まで聞くことなく攻撃を放つ。
「初手の攻撃は、俺には当たらない」
しかし武戦に自分からの攻撃を当てるのは非常に難しい。
思考加速というのは相手の攻撃を認識し、次の行動を素早く選択することによって次の行動をするまでの時間が極端に短くなる。避けの分野では頂点に位置するほどに重要なものだ。
「…………貴方も未来が見えているとしか思えませんね」
「あえて言っておくが、違うな」
相手が攻撃をしてきたということは打ち終わった後隙が生じる。
無論相手もそれは織り込み済みで隙が短い、または次に繋がるような攻撃を打ってきた。
しかしその隙は俺を相手にしたら致命的だ。どんなに隙が少なくとも、俺が視ている限り意味はない。
彼女の蹴りが俺の首横を突き刺した直後、足を曲げ後頭部を狙ってくる。
だがそれを紙一重で回避し、彼女の胸元の服を掴み地面へ投げつける。
「ーーー噴!」
今度は俺が激しい震脚をし、その勢いのまま地面に転がっている彼女の体を踏み潰そうとした。
「ーーー避ける!!!はあぁぁぁあ!」
彼女は回り続ける頭を堪えながら、この容赦のない攻撃を掻い潜るべく渾身の回避を狙った。
彼女の体に衝撃はこなかった。
「ふふっ………避けられーー」
地面へと視線を向けていた爛爛とした琥珀色の目を前へと向ける。
それはやり切ったという感情。自分でも避けるのが厳しいと感じた投げからの踏み抜く攻撃をうまく避け切ったと彼女は高揚していた。
「ーーー二つ目の弱点は、未来を見たところで、改変されたらなんの意味も持たないということだ」
「な、なんで…………?」
避け切った、そう錯覚してしまっていた。だが武戦は彼女の眼前へと迫っていた。
先ほどの攻撃も、フェイクだったという事なのか。
シグレの顔から、余裕が完全に消えていた。
「トン」と彼女のお腹に武戦の人差し指が置かれる。
「お前もわかるだろ」
「ーーーまさか!」
サァっと彼女の顔は青ざめる。分かってしまったのだ。次に武戦が出す攻撃が。
私が知っていて、この至近距離で打つ技は………
「寸勁だ」
その言葉と共に、私の体に大きな衝撃が全身に走り、後ろへと吹き飛ぶ。
ゴロゴロと転がり続け、ようやく止まった。
何とか立ち上がり、私の目の映ったのは……飄々とした、武戦の姿だった。
この話で武戦対トワ・シグレ終わりにしようと思ってたけど無理だった




